小型赤外線サーモグラフィカメラで 農業の見える化に貢献

日本の農業は、就労者の高齢化、後継者不足、TPPによる貿易自由化の問題などの多くの深刻な問題を抱えている。その課題の解決に向け、農業の最適化と自動化にかかわる研究が進められている。

広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所(RNBS)の小出准教授チームは、農作物の栽培過程における様々なデータの収集と解析の研究を行っている。赤外線サーモグラフィカメラ「FLIR AX8」による農作物の栽培過程の温度画像は、今まで見えなかった農作物の表面温度の時系列的な「見える化」を実現し、農業の最適化・自動化研究に大いに役に立っている。

農業の高齢化とノウハウ

「ベテラン農家さんのノウハウを継承するには様々なデータの収集が必要になります」と広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 小出准教授は語る。日本の農業は、就労者の高齢化、後継者不足に伴い様々な角度から自動化を目指す動きが広がっている。日本は、現在でも世界 5 位の農業大国として知られている。しかし、その農業人口の 6 割以上が 65 歳以上であり、35 歳未満の働き盛りはわずか 5%という現実が非常に深刻になっている。

赤外線カメラ FLIR AX8 は、温度情報を含む 80 × 60 ピクセルの赤外線画像を生成する

農作物を育てるためのノウハウを継承していくことが最も重要なのだが、近年は後継者も不足していることもあり、いろいろなアプローチからノウハウをデータ化している。そして、そのデータを基に現場でどのように対応していくことができるのかが重要になってきている。

その中でも重要なのが、肥料や養分の調整である。「日本各地ですべて同じ気候ということは、ほとんどなく、日本国内でも様々な要素が入ることで、気候環境は変化する。

昨年でいえば東北地方は例年と比べると日照不足が生じていた」と小出准教授は述べている。しかし、FLIR AX8 を使用することにより、農作物の表面温度を蓄積することができるようになった。

温度データを蓄積することで全体の温度分布を計測するだけでなく、特定エリアのみ日照時間が多い、少ないなどの農作物の「見える化」の実現に向けて研究を進めている。また気候環境の変化については、例年予想はされるが外れることも多いのが現実である。

しかし、固定型カメラを常設することにより、リアルタイムで定期的に温度データ、熱画像、可視画像を同時に収集することができると、環境変化にも順応した形で、肥料や養分の分量を環境に応じて与えることが、今後可能になると期待されている。

等級を左右するお米の育種

日本の農業は、前述したとおり後継者は不足しているが、それとは逆に農作物の品種改良(=育種)が盛んであり、中でもお米の品種は年々増加している。現在、日本の品種の数は、国に品種登録されているだけでも 800 品種以上があり、品種改良のスピードも非常に速くなっている。

そんな品種改良の場面でも、赤外線カメラは大きな役割を果たす可能性がある。近年、日本は異常気象と呼ばれるほど、高温化の傾向が顕著になってきている。この高温化現象に影響を受けるのは人間や動物だけでなく、農作物も同様である。

お米の場合は登熟期に高温化が進むと、白未熟粒などが多く発生してしまう「高温障害」が発生する。これについては、一概に気温だけでなく、農業者の水の管理や肥料の管理なども起因している。

このような「高温障害」がお米に発生すると、お米自身の等級にも影響を及ぼす危険性がある。そこで、赤外線カメラを導入することで、得られた温度分布や熱画像データをリアルタイムで取得し「高温障害」の発生傾向との関連が発見できれば、早い段階で対策をすることができ、お米へのダメージを最小限にする環境作りが可能になる。

温度データを蓄積することで、稲や葉の日照時間や温度分布を確認することができ、それに適した水分量を与えることにより、お米へのダメージを軽減できる可能性がある。

赤外線カメラ FLIR AX8 を使用して継続的に農作物を監視している様子

温度データを用いて葉の日照時間や温度分布を確認している様子

また、データの蓄積は来年、再来年に向け、早期栽培を進めるか遅延栽培を行うかといった判断材料にもなり、人のノウハウだけでは対応できない部分もカバーする可能性が期待される。特に赤外線カメラが有効である理由は、リアルタイムでの葉温の状態監視ができることである。

従来は葉をチャンバーの中にいれるような方法で、光合成の状態を計測していたが、赤外線カメラを用いることで、葉にストレスを与えることなく、葉温を測定でき、蒸散との関係がわかる可能性がある。

このような、状態監視・温度を切り口に稲を管理することで品質が向上し、今までの「高温障害」などによる等級低下を防ぐことができる可能性が期待される。「今後は、広島県の特産物の農作物などにも応用できるのではないかとさらに研究を進めていきたい」と小出准教授は述べている。

今後の農業への展望

「今後の展望として、次世代型の栽培技術を実用化し、農家の人たちが使用できるまで画像センシング技術を浸透させ、かつ使いやすさを追求していくことが一番の目標」と小出准教授は語る。

従来の方法としては、ノウハウや経験といった各農家の知見を基に育成を行っていたが、温度データをリアルタイムで定期的に取得し、稲や葉の温度のトレンドグラフを取得することは、今までに試した例はなく、初の試みである。

こういった温度のトレンドを記録することで、光合成の状態監視を行うことができ、高温障害に対しての傾向が見える化できる可能性が出てきたことは、非常に大きな役割を果たしている。

現在は JST CREST 研究プロジェクトにおいて各大学で様々なセンサを使用し、その中で、次世代型の栽培技術に役立つセンサやセンシング情報を見つけ出すことを行っている。

その中でも FLIR社の赤外線カメラは、温度データに加え画像という技術を持ち合わせているため、農業の発展に大きく貢献できるのではないだろうか。今後、日本農業の生産性の向上に向け、赤外線カメラをはじめとした画像センシング技術が次世代型の栽培技術発展に貢献することを期待している。

◎価 格
FLIR AX8:市場予想価格 150,000 円

注目ポイント !
FLIR AX8 は、これまでにないコストパフォーマンスを実現した IPサーモグラフィカメラです。コスト要因によって実現できなかった様々な熱監視用途に今後応用が期待できます。

◆相談先
フリアーシステムズジャパン株式会社
E-mail:wdorder@arp-id.co.jp
HP:http://www.flir.jp/

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