スマート農業用土壌センサ「MJ1011」
土壌のリアルタイムモニタリングを実現!

はじめに

農業のスマート化が進展している中、IoT技術を活用したさまざまな環境情報の見える化が可能になってきている。特に土壌情報は栽培における重要な指標であり、モニタリングの要望が多い。

ラピスセミコンダクタでは土壌の指標であるEC(電気伝導度)、PH(酸性度)、地温を集積化した一体型センサを開発し、土壌センサ「MJ1011」、環境モニタリングシステム「フィールドスキャンシステム®」、ワイヤレスハンディメータ「MJ8973」を商品ラインナップしているので紹介する。

開発の背景

高齢化や後継者の担い手不足、 新規就農者へのノウハウ継承、産地間競争に対する高品質化や生産性向上、6次産業化等を背景として農業分野におけるICT技術の活用検討、導入が進んできている。

ラピスセミコンダクタでは得意とするセンサ、低消費電力マイコン、無線通信技術を活かしたIoTソリューションとしてスマート農業向け土壌センサの開発に2014年から取り組んできており、圃場実証試験などを経て2018年4月より販売を開始している。

最近では環境モニタリング機器を利用した気温などの計測は行われてきつつあるが、土壌情報に関しては従来の年1回土壌を採取し、撹拌混合後に分析センタに送って分析するのみに留まっていることが多い。

しかしながら、先行的に取り組む農業法人や篤農家、指導員からのリアルタイム土壌モニタリングの要望は強く、手軽にスマホなどから、いつでもどこでも、簡単にその場所の土壌データ値を知りたいというニーズがあった。

本商品はこのような背景を元にラピスセミコンダクタで開発してきた商品であり、現在全国各地で試験や導入が行われてきている。

この土壌センサは露地、施設栽培、植物工場などあらゆる栽培方法、育成ステージで利用可能で、土壌中や液肥中に設置し、圃場に埋設したままで土壌状態や推移をリアルタイムでモニタリングする機器である。本稿では土壌センサとその周辺機器、およびユーザモニタリング事例について紹介する。

土壌センサMJ1011について

MJ1011はラピスセミコンダクタの半導体技術をベースとする集積化センサであり、小型で低消費電力、コンパクトなデザイン(図1)を特徴としている。機能としては土壌の基本情報であるEC、PH、地温を計測する。製品仕様はに示すとおりであり、概ね農業の利用シーンで必要とされるスペックは満たしていると考えている。

図1

防水性能は露地、水耕など各種栽培方法に対応できるようIP67に対応している。低消費電力化技術はラピスセミコンダクタが長年培ってきた優位性があり、計測時20 mA、待機時27 μAに抑えられている。

農業利用では露地や施設など圃場内での電源確保や配線の引き回しは難しい。このため、小型ソーラーパネル等の自立電源の活用が前提となるが、その際に低消費電力化・電源マネジメントといった技術が必要になってくる。

センサの外部インタフェイスはUARTを採用している。現在、各社から市販されている数多くの農業モニタリング機器やクラウドシステムがあるが、これらのベンダーの機器にも接続しやすいデジタルインタフェイスを備えている。

いくつかの機器メーカからもMJ1011に接続対応する製品が販売されているので、興味ある方は弊社までご連絡いただきたい。本センサの使用方法としては、一般的には根の深さに相当する15 cm程度の土壌中に埋設して使用するケースが多い。所望の深さに穴を掘り、そこにセンサを埋戻し、灌水して安定化させる施工を行なっている。

フィールドスキャンシステム ®について

MJ1011を使った土壌環境モニタリングシステムである「フィールドスキャンシステム ® 」について説明する。図2にシステム構成例を示す。

図 2

機器は管理棟に設置するゲートウェイと圃場に設置するコンセントレータ(中継機)、エンドポイントで構成されており、取得したセンサデータはサブギガ帯長距離無線で伝送される。

複数の圃場に設置されたエンドポイントには土壌センサが接続しており、電源はソーラーパネルを用いる。機器にはラピスセミコンダクタで開発した920 MHz帯無線通信 LSI ML7345と業界トップクラスの低消費電力を実現した16bitローパワーマイコンML620 Q504 Hを使用している。

本無線方式では見通しが良ければ500 m程度の通信が可能なため、複数圃場をカバーできる。また、測定データは無線でコンセントレータを介して、ゲートウェイからクラウドに上げられるため、圃場に電源や配線を引き廻す必要はない。

これにより施設栽培だけでなく、従来難しかった露地や水稲等の屋外圃場でもモニタリングが可能になった。測定データは15分ごとに計測データが自動的に収集されるため、本システムを使うことにより、ユーザはいつでもどこでも、手元のスマホやタブレット、PCで各圃場の土壌データを確認することができる。

ワイヤレスハンディメータMJ8973について

フィールドスキャンシステム ® での実証試験を行う中で、現場を見廻る営農指導員、普及員や農家の方々から、「もっと手軽にMJ1011を使いたい」、「圃場の見回りなどの際にデータを収集できる簡単なシステムがほしい」、「シンプルな構成で低コストに土壌情報が知りたい」との声があり、もっと手軽に、低コストかつ機能を絞った形でのモニタリングの要望が寄せられていた。

こうしたニーズに応えるため、手軽に使えて機能を絞った形での土壌モニタリングに対応したワイヤレスハンディメータ「MJ8973」を開発した。図3に示すように、このワイヤレスハンディメータMJ8973は土壌センサMJ1011に接続して活用する。

図 3

手のひらに乗る小型サイズ(W157 mm、D88 mm、H33 mm)で持ち運び可能であり、防水仕様 IP55に準拠している。単3電池、3本で連続動作時約150時間の駆動が可能であり、1日1時間程度の使用であれば、数ヵ月程度の消費電力である。

取得したデータは内部メモリに格納され、Bluetooth®経由でスマホアプリとデータ連携して活用する。図4にワイヤレスハンディメータの利用シーンを示す。

図 4 

営農指導員、普及員、農家の各々がワイヤレスハンディメータを保有して、圃場見回りの際に土壌モニタリングで活用するイメージとなっている。

近距離無線のためハンディメータからスマホへのデータ収集のためには圃場近く(20 m程度)に行く必要があるなどの制約はあるが、手軽でシンプルなモニタリングが可能となる。

まずは土壌センサを試してみたいというユーザの方にもお勧めの機器である。このMJ8973は2019年5月からの販売を予定している。

土壌モニタリングの事例

土壌センサの導入事例として施設トマト栽培での事例について紹介する。図5は施設トマト圃場内、および上空からの圃場写真であるが、圃場内6か所に土壌センサを設置しモニタリングしている。

図 5

グラフは各ポイントの地温、EC、PHの推移を表している。写真は土耕栽培の事例であるが、水耕栽培のケースでも同様の事例がある。

図6

は全国各地の圃場での活用事例であるが、規模の大小を問わず、露地野菜、施設野菜、植物工場、茶園、花卉、水稲、果樹、牧草等のさまざまな用途で引き合いをいただいている状況である。

図 6

さいごに

前述した事例のようにスマート農業技術の進展により、土壌環境情報の「見える化」が実現できる状況になってきている。蓄積したデータの解析、活用については日々進展しており、発展途上の段階ではあるが、ユーザ様での事例が増えてきている。

たとえば、土壌データの推移による施肥設計等の栽培条件の調整や、 栽培環境の精密制御、 複数圃場の比較やばらつきによる生産工程管理、他の環境センサ情報との連携による病害虫防除、新規就農者への経年データによるノウハウ継承、などさまざまな活用シーンが挙げられている。

最近ではドローンや農機とのデータ連携など新しい活用方法も検討されており、スマート農業化の動きは最新のテクノロジーとも組み合わされて、今後さらに進展することが予想される。

そしてこの動向は日本のみならず、ワールドワイドで進行していることにも注目すべきである。土壌センサに関心ある方はぜひ弊社までお問い合わせいただきたい。

※スマート農業360 2019年春号『特集:土壌を〔見る・観る・診る〕』より転載

◎価格
土壌センサ MJ1011・・・オープン価格
フィールドスキャンシステム・・・オープン価格

Tips!
IoTを活用した土壌モニタリングを実現します。ラピスセミコンダクタのWEBサイトも是非ご覧ください。販売パートナーも募集中です。

相談先
ラピスセミコンダクタ株式会社
TEL:045-476-9212
問い合わせフォーム:https://www.lapis-semi.com/ssl/jp/others-mailform.html
http://www.lapis-semi.com/jp/solution/soilsensor/

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