はじめに
“良い作物は良い土づくりから”。土づくりは、土壌分析を通じて成分バランスを把握し、適切な施肥をおこなうことが重要である。しかし、分析に時間がかかることもあり、実施率は1割程度でしかないと言われている。
本稿では、短時間で誰でも簡単に「成分バランス の測定 」「施肥提案 」ができる土壌分析装置「EW-THA1J」を紹介する。
開発の経緯
面積の限られた日本の農地では、長年にわたる連作や過度な施肥などの影響により、一部に養分過多や成分バランスの乱れが生じている。そのため、農作物の生育障害や収穫量の減少が懸念されており、土壌分析に基づく適切な施肥の必要性が高まってきている。
現在、土壌分析は専門機関に委託するのが一般的で、近隣に分析機関がなかったり、測定に数週間を要したりすることから、土壌分析を実施する農家は、全体の1割程度に留まっている。
本装置は「土壌分析をもっと身近に」をコンセプトに開発されたもので、当社の保有技術である光センシング技術と独自のカートリッジシステムにより、土壌に含まれる6種類の養分の量を、約14分間 ※1 で簡単に一括計測することが可能である。
※1 カートリッジをセットしてから養分濃度算出までの時間
土壌分析装置「EW-THA1J」の特長、優位性
本装置は、主に次の3つの特長を有している。
① 農作物 の生育 に必要 な6種類 の土壌養分 を約14分で測定
② 光センシング技術と独自のカートリッジシステムを採用。試薬調合作業が不要で、誰でも簡単に計測可能
③ 各養分の量をその場でチャート表示、作物に適した肥料の種類や施肥量を提案
3つの特長について、以下詳細に記載する。
① 農作物 の生育 に必要 な6種類 の土壌養分 を約14分で測定
本装置では、いわゆる「肥料の3要素」と言われる窒素(硝酸態窒素・アンモニア態窒素)・リン酸・カリウムと、ミネラル分であるカルシウム・マグネシウムの6成分を一括計測できる。
この6成分が、作物の生育には特に重要とされており、成分量とバランスを見て土の状態を知ることができる(図1)。
② 光センシング技術と独自のカートリッジシステムを採用。試薬調合作業が不要で、誰でも簡単に計測可能
本製品は専門家だけでなく、生産現場に直接携わっている多くの方々が使用できるように、分析工程を少なく簡単にしている。
分析に用いるカートリッジには各成分の反応試薬があらかじめ内包されているため、調合作業が不要なことに加え、土壌成分の抽出作業は従来、成分ごとに異なる抽出が必要であったところを、共通の抽出液を用いた一括抽出にすることにより、さらに簡便化を実現した。
また、土を抽出液に浸してろ過した試料液とカートリッジを装置本体にセットすると、カートリッジに試料液が適量、自動で注入され、発色した状態を光センシングユニットで一括自動計測するので、誰でも簡単に操作することができる(図2)。
③ 各養分の量をその場でチャート表示、作物に適した肥料の種類や施肥量を提案
土壌成分の測定結果はチャート表示され、各成分バランスがひと目でわかる。また、「測定結果」から作物に適した肥料の種類や必要な量を提案するレポートをその場で出力することができる。
さらには、ソフトウェアが提案した肥料を再選択でき、ユーザの志向に応じた独自の施肥設計も可能である(図3)。
ユーザメリット
農業生産において肥料は必要不可欠であり、肥料が少なすぎても多すぎても作物はうまく育たない。
上述したように、近年は栽培期間の短い葉物野菜を1年の中で複数回栽培するという効率的な農地活用や、ビニールハウスなどの施設を使った促成栽培が普及してきたことによる土壌中の養分過剰や、特定の養分だけが残ってしまうような土壌成分のバランス悪化を引き起こしている。
その結果、 農作物に生育障害が発生し収穫量が低下するというような問題も出始めている。特に、ここ数年は気候の変動が激しく、作付け期間中における土壌養分のそれぞれの必要量は、その年によって大きく異なることが予測される。
したがって、これまでのように決まった量の肥料をそのまま与えるのではなく、作付けごとにこまめに土壌バランスをチェックし、適正に肥料を調整することで、収量の安定化や施肥コストの低減につながることが期待できる。
また、本装置を通じて、土壌分析がもっと身近に、簡単にできるようになることで、作付中に「何か生育がおかしいな?」と感じたときに、原因究明の一助となる可能性もある(図4)。
ユーザ事例
簡単・迅速に計測できるという特長を活かし、本装置は図5に示すユーザに使用いただいている。複数の圃場をお持ちの農業法人では、自社内で自ら分析をおこなうことで、より効率的な土づくりに活用いただいている。
たとえば、15 haの圃場を有する東北地方の農業法人では、その日の朝に分析をおこない、結果に基づいた施肥指示をその場でおこなっている。その結果、社員1人ひとりが、きめ細かな施肥を意識するようになり、反当たりの肥料コストを低減することができた。
また、これまでの過剰施肥が主因と思われる病害の抑制効果も現れたとのことである。他の導入事例としては、農家さんに向け新たなサービス提供をおこなうため、協同組合や資材販売店でも活用いただいているケースも多い。
関西のJAでは、組合員への技術相談の強化と施肥改善による生産コストの低減を目的として導入いただいており、「分析してすぐに結果がわかるため、技術顧問がレポートをもとに的確なアドバイスをすることができる」と好評をいただいている。
また、農家さんが普段近場でアクセスされる農業資材の販売店にも導入いただいており、資材購入のついでに土を持ち込み、その場で分析をおこなうサービスを展開しているケースもある。
お店で分析サービスをおこなうことで、農家さんはその場で土の状態を把握したうえで、適切な土づくりをおこなうことができるため収穫量の安定化につながるだけでなく、お店の方もその場で必要な資材を販売することができるので、両者にとってメリットを共有できるものと考えている。
今後のロードマップ
今後の展開として、技術開発としては、強みである光センシング技術をさらに活かすことで、分析項目の多様化を実現していきたいと考えている。
たとえば土壌の化学性という観点では、微量要素分析や有機物を含めた可給態要素の簡易診断への展開、さらには作物自身がどんな価値をもっているのかという、作物の機能性に繋がる分析への展開を図っていくことで、農作物の付加価値を訴求しやすくなり、生産者と消費者がより共感できる農業の実現に貢献できると考えている。
また、農業生産の効率化・技能の蓄積/継承という観点では、当然のことながら作物の生育は土壌だけではなく、外部環境と密接に関係しているので、いわゆる「スマート農業」の一環として、種々の環境データと連携をしていくことで、より精密な農業を実現していきたいと考えている。
このような観点に立った時、本製品の土壌分析装置も入力デバイスの1つにすぎず、今後、さまざまなパートナーと連携させていただくことも視野に入れながら、国内農業の成長に貢献していきたいと強く思うものである。
※スマート農業360 2019年春号『特集:土壌を〔見る・観る・診る〕』より転載
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土壌分析装置「EW-THA1 J」について、より詳しい内容を知りたい方や導入をご検討の方には実機のご紹介やデモンストレーションにお伺いしますので、弊社までお問い合わせください。
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