最先端「ドローン播種 勉強会」潜入レポート!直播と水田水管理の連携を笑農和(えのわ)さんの技術で実現

近年注目を集める「ドローン播種」をご存知ですか? ドローンで直播すれば、種蒔きや育苗が不要で負担は減りそう…! 一方で、ドローン導入へのハードルはあるのでしょうか。

米どころ・富山県のお米大好きライター古野氏が、株式会社笑農和(えのわ)さん主催の勉強会に潜入し、ドローンを使った最新の田植えについて学んできました。この勉強会の様子をお届けします。

省力化と高品質を実現するドローン播種米

2022年3月18日にZoomで行われた「ドローン播種(はしゅ)勉強会」。主催は富山県滑川市にある株式会社笑農和さんです。

株式会社笑農和は、「IT農業を通じて、笑顔の人の和を創り社会に貢献する」を企業理念に、ITを活用して生産者の悩みを解決している会社です。代表取締役の下村豪徳(かつのり)さんが2013年に創業しました。

自社で開発した水稲農家向けの水管理システム「paditch(パディッチ)」は、スマートフォンを用いてスマート水田を簡単に実現できるサービス。導入後に米の収量が16.4%アップし、水田管理に対する労力を80%減らしたという実績があります。

今後さらに進む高齢化や生産人口の縮小を考えると、多方面からの注目が集まっていることに納得です。

今回の勉強会のテーマは、「ドローン播種と水管理の連携」。ドローン直播を始めて3年の先進的な取り組みを実践している、北海道旭川市の市川農場 代表取締役 市川範之(いちかわのりゆき)さんが講師です。

北海道旭川市の市川農場 代表取締役 市川範之(いちかわのりゆき)さん

市川さんは、有機JAS認証生産者、DJIスペシャリスト、農林水産航空協会 産業用マルチローターオペレーター認定者。農業歴は29年で、2015年よりドローンを農業に活用。

機能性米の研究を行い、これまでに申請した産地品種銘柄は、高アミロース米「北瑞穂」と極良食味米「ゆきさやか」。現在は、多機能農業研究センターと共同で「さんさんまる」というドローン直播品種の研究を行っています。

市川農場の栽培面積は60ヘクタール。そのうち、約3ヘクタールを直播にしています。10品種以上ある米は全量を直接販売するほか、米の加工(米粉100%ライスパスタ、米麺)も行っています。

「さんさんまる」ドローン直播農法のメリットは、次の2つです。

1.農業の省力化
育苗と田植えの2つの工程を必要としないので、田植え機・ビニールハウス資材・人件費のコストカット(田植えが8~10名→2名で)できる。

2.収穫量・食味の高品質を実現
「さんさんまる」は日本初の直播品種の低アミロース米。外食産業向けや飼料米の位置づけでなく、直播栽培でもブランド米や極両食味の価格で提供できる品種。

オンライン勉強会中の一場面

市川さんが使っている農業用ドローンは、AGRAS MG-1という機種。目出しした「さんさんまる」の種をドローンに入れ、1反(10アール)あたり8~10㎏を撒いています(除草剤散布と異なり、低空で撒きます)。

直播前の代掻きは、種籾が自身の重さで自然と土中に落ちていくよう、トロトロの状態にしておきます。発芽率を考えて鉄コーティングはしません。

直播した後は、3~4㎝の浅水にし、地温を高めながら生育を早くします。そして大事なのは、その後の追肥と除草です。直播は低コストである一方、田植え機の移植栽培に比べて収量が少なくなる弱点があります。

それを補うために市川さんが開発した肥料が、「スマート高窒素肥料(窒素40%、加里5%)」です。直播から1週間後にドローンで追肥として撒くことで収量を補えます。

それと同時に、5㎝の水を張って除草剤も使用します。直播のもう1つの弱点が雑草であり、雑草と稲の見わけも付きにくいのです。除草剤を撒いても多少の雑草は生えますが、それを補えるほど稲を密集させることができます。

水の管理と追肥をしっかりすれば、稲刈り時期には十分な収量が確保できます。密集した稲はコンバインを高速で走らせると詰まってしまいますが、これに気を付ければ問題なく刈ることができます。

収穫時はコンバインの速さに注意することを説明

直播の収量は9割取れているのがメリットです。「より完璧な圃場にすれば、おそらく10~11俵は取れる」と市川さんは言います。

「さんさんまる」は、倒れないようにやや短めにした品種。北海道では勧めていますが、地域ごとに直播に合った品種を選ぶことが大切です。最適なのは、地域の農業試験場と提携して直播に向いている品種を開発すること。

「農業機械の高騰をはじめ、農業を辞めても支払わなければならない農地の賦課(ふか)金の上昇など、農業者にとって不利な条件はいくつもあります。農業者がもっと豊かになるためには、低コストで『ゆめぴりか』並みのブランド力の高い米を作ってもらいたい。『さんさんまる』とドローン直播で農業界に風穴を開け、農業を盛り上げるために頑張っていきたいです。」市川さんはそう締めくくりました。

市川さんの講演後は、貴重な機会を活かそうと、活発な質疑応答が行われました。

Q1. ドローン播種に向いている品種を選ぶ際の判断は?
A1. 生育の早さ、丈が長くなく倒れにくいこと。酒米などは向かない。地区のJAさんが勧めている品種もいい。外食産業向けなどの安い価格帯より付加価値をつけたいときは、普及所や農業開発センターと相談し、できれば低アミロース米を探すと良い。

Q2. 深水にしすぎると種が流されるのでは?
A2. 1度土の中に入ってしまえば大丈夫。乾燥してくるので、深水にしても流れない。

Q3. 30アール撒くのに何分ぐらい?
A3. 20分くらい。田植え機だと40分くらいなので、倍の速さ。人件費も不要。

その他にも、“ドローン直播での水管理” “畦周りの雑草対策” “肥料” “ドローン購入・維持費用” “有機農業とドローン直播の相性” などたくさんの質問が出ました。

質問に対して、細かいところまで包み隠さずオープンに教えてくれた市川さん。現地視察の希望まで出ていました!(現地視察は、市川農場で天候を見ながら日程を決めて実施予定とのことです。)

質問は尽きませんが、今回のテーマは「ドローン直播と水管理の連携」ということで、ここからは笑農和の下村さんの話に移ります。

ドローン播種との相性抜群なスマート水管理

笑農和の代表取締役 下村豪徳(かつのり)さんは、富山県の農家の長男。農地面積は14.5ヘクタール(圃場55枚)。製造業のシステム会社勤務を経て、2013年に笑農和を創業。2022年3月、宇宙ビッグデータを活用した米づくりで内閣府の「第5回宇宙開発利用対象」農林水産大臣賞を受賞しました。

講演のタイトルは、「ドローン播種&水管理の世界」。ドローン播種普及のメリットとスマート水田サービス「paditch(パディッチ)」との連携について説明しました。

これまで田植え機による米作りは、①種蒔き、②育苗、③耕起・代掻き、④田植え、⑤草刈り、⑥水管理、⑦収穫という流れでした。

これまでの水管理についての工程

それがドローン直播だと①②の工程を飛ばして、③耕起・代掻き、④直播、⑤以降は同様という工程になります。コストダウンになるものの、いきなり全ての圃場をドローン播種にするのは難しい面もあります。

ドローン播種を取り入れた場合の田植え工程

ただ、今後の農業人口を考えると、必然的に現役の方に農地面積が集まってくる予測が立ちます。5年後、10年後には1人が担う田んぼの枚数が増えていくため、全部で育苗をするには施設の投資も必要で、高いハードルとなってしまいます。

一方、ドローン播種では工程が削減できるために人件費をかなり抑えられ、自身の時間も空きます。若い担い手さんがドローンを使う農業に取り組むことで、「楽しそう」「かっこいい」と新しい人が入ってくることも考えられるなど、大きな可能性を感じています。いずれはハウスや田植え機が不要になる未来もあるかもしれません。

直播は、鳥に食べられる、(下村さんがやったときは種が土に入り切っていなかったのか)深水にすると肥料が流れてしまうなどの課題があり、水管理が重要です。

笑農和が開発したスマート水田サービス「paditch(パディッチ)」と連携することで、ハードルだと思われている水管理を自動コントロールできます。田んぼの枚数が増えるにつれ、その効果は一目瞭然で、ドローン直播の普及につながるのではないかと思われます。

先ほど市川さんの話で、3~4㎝の浅水にするとハトは田んぼに入らないということでしたが、市川さんが直播されている3ヘクタールを手作業で浅水にキープするのは大変なことです。

水管理は農作業全体の約25%の時間を費やしているというデータがあります。水位と水温の調整に大きく時間が取られているのです。水管理に失敗すると高温障害や低温障害を起こし、品質が低下する上に収量も低下してしまいます。

paditch(パディッチ)

paditch(パディッチ)」は、スマホを使って遠隔で作業できるサービスを提供。ドローン直播と連動し、水管理を自動制御することをお勧めします。

2021年からは、排水も制御できるようになりました。たとえば「4㎝をキープする」など、1㎝単位で堰の高さを調節できます。数センチ単位でシビアに制御したい場合には非常にコントロールしやすいメリットがあります。

これまで、いろんな農家さんから聞いた、ドローンのエピソードを2つ紹介します。

1つは、朝方5時ごろにドローンで農薬を散布しに行ったところ、田んぼに水が入っていなくて困った事例。錠剤で水に溶かして効くタイプの農薬だったので、農家さんは水が入るまで2時間ほど別の作業をして待っていました。

水管理システムを利用していれば田んぼに行かなくても水位が分かるため、無駄な往復がなくなります。もしくは、農薬を撒く田んぼの優先順位をつけることができます。

水管理あるある①
早朝に農薬散布のために田んぼに行ったら、水がなかった。

もう1つは、農薬散布した後、薬が水に溶けている状態で水管理に失敗して垂れ流しとなってしまい、効かなかった事例。外注先に農薬散布を頼んだところ、翌日に散布予定だったのが当日撒かれていることに気付かず、入水し続けていたわけです。

水管理システムを利用していれば水位情報をドローン会社とも共有でき、農薬散布後の水量が多いという連絡も可能です。コミュニケーションをとることで水管理に対するトラブルが起きにくくなります。

水管理あるある②
農薬散布をした後、水管理に失敗して垂れ流しになってしまった。

下村さんは、「最近、こういったドローンにまつわる水管理やコミュニケーショントラブルも聞くようになってきました。これらは遠隔で水管理し、水位が分かれば防げることです。

ドローンの播種にチャレンジされる方は、連携して水管理システムも導入されるよう検討していただけると、より良い水稲栽培ができると思っています。

こういった情報もYouTubeチャンネル『笑農和公式』と『paditch(パディッチ)サミット』で発信しています。ぜひご登録ください」と締めくくりました。

笑農和さんでは、今後も引き続き、農家さん向けの勉強会を開催される予定です。

美味しいお米を作るためにはさまざまな苦労があること、そんな米作りの課題を解決してくれるのが今回教わったドローン直播であり、スマート水田サービスだとよく分かりました。

現在農業を営まれている方も、これから農業に一歩踏み出したいと思われている方も、最先端の農業を知ることで広がる可能性は大きいと思います。困ったことがあれば、笑農和さんに相談されてみては。

ライター:VoiceFull 古野知晴氏

◉スマホでかんたん水管理「paditch」シリーズの情報はこちら
https://paditch.com/

◆お問い合わせ
株式会社 笑農和
https://enowa.jp/

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