はじめに
マンゴーはウルシ科マンゴー族の果実であり、沖縄県を代表する最高級果実である。特に、沖縄県のマンゴー生産量は全国一であり、その生産高は2 ,040トン、総売上高は約21億円超である(平成27年データ) 1) 。
しかし、マンゴーの栽培は非常に繊細で、その生長過程は日照、寒暖などに影響されやすい。特に、沖縄県においては、2016年度は長雨などの日照不足、開花前の高温、そして、開花後の低温の影響を受け、2014年度比4割減の生産高にとどまった。
その生産高の年ごとの推移を図1に示す。これより、マンゴー生産が非常に不安定であることが確認できる。
さらに、マンゴー栽培は専業農家が多く、生産量の減少が年間の収入減に即反映される。したがって、農家の課題としては以下が挙げられる。
(1)収量や品質が環境(天候)に大きく左右される。
(2) 限られた空間(園芸施設)内での生産性の向上に限界を感じている。
(3) 農家の経験則(暗黙知)に頼った栽培方法に限界を感じている 1) 。
本研究では、以上の課題の解決を目的として、マンゴー生産の施設園芸におけるIoTを基盤としたマンゴー生産システムの開発を行った。
ここでは、特に、マンゴー樹木の光合活性化を目的として、CO2 局所施用技術とLED補光システムを導入し、マンゴーの品質がどの程度向上したかについて定量的な評価を行う。
また、IoTを活用した生育環境(施設内の温度、湿度、日照、土中温度、土中水分等)データ計測・蓄積システムの構築に関し説明する 2) 。
そして、昨年度(2017年度)生産されたたマンゴーについて、LED+CO2 施用区と対照区(CO2 施用無、LED補光無)に対する収穫量、等級について比較検討する。
マンゴー生産スケジュールと生産システム
マンゴーは7月から8月にかけて収穫期を迎える。2017年度は、16年度度のような天候不順に見舞われなかったので収量が増加した。
以下では、まずマンゴー生産の平均的年間スケジュールと本研究で目指す生産スケジュールの比較を述べる。そして、本研究で開発したICT& IoTシステム、さらには、CO2 施用装置、およびLED補光装置を説明する。
1) 宮古島市城辺在の長北ファームにおけるマンゴー生産の平均的スケジュール 1)
1月 ~2月:2月に丈夫なマンゴーの花を咲かせるため、温度管理を行う。また、2月に結実させるためにミツバチを放って受粉させる。ミツバチが活動しやすく受粉がうまくいくように施設の温度管理は重要となる。
3月 ~4月:成長した花穂に日照りが均一にあたるように花穂を釣り上げる。4月には受粉した花穂のみを残して摘果を行う。受粉しなかった花穂はピンポン玉状でピンポンマンゴーと呼ばれる。
5月 :5月には、マンゴーの実はピンポン玉状で濃赤色になる。1本の枝から良質の果実を二個選択し,他は摘果する。
6月 ~7月:大きくなったマンゴーは紫赤色になる。その時、1個ずつ袋架けを行う。これは、強い日差しでマンゴーが日焼けを防止するためである。そして、7月中旬から8月上旬にかけて収穫を行う。
8月 :収穫期を終えると枝の選定を行い、弱った枝を取り除く。また、疲れた樹に肥料を与えて樹勢を回復させる。本研究では、早生で市場的に優位とすることを大きな目標としている。
マンゴー生産におけるライバルである宮崎県では5月下旬から出荷しているが、その市場を奪還しようとすることが大きなミッションである。
したがって5月から7月までの収穫をめざし、8月、9月、10月は収穫後の樹の手入れを行い、11月から光合成活性化を目的としたCO2 施用、LED補光を行う。CO2 施用装置とLED補光システムを図2、3に示す。
ここに、図2において黒いチューブがCO2 施用のため、青いチューブは散水のために使用される。また、図3において下面のシートは反射シートであり、マンゴー果実にまんべんなくLED光が照射されるように使用される。
IoTを基盤とした環境データ収集・蓄積・解析システム
本章ではクラウドコンピューティングとIoTを駆使したマンゴー生産システムについて述べる。本研究の主な開発要素は以下の3点より構成される。
Ⅰ.IoTワイヤレス環境計測センサ
Ⅱ.クラウドを用いたデータ蓄積システム
Ⅲ.AIを基盤とした最適果実生育システム
以上の要素でIoT&クラウドコンピューティングシステムを構成する(図4参照)。なお、現在はマンゴーの生育環境(ハウス内の温度、湿度、土中温度、土中水分、日照、CO 2 濃度)データを取得し、インターネットを介して、琉球大学の我々の研究室のサーバに蓄積している。
次に、この蓄積した生育環境データとマンゴー生産者の経験値、および、マンゴー生育の画像等の情報を活用した知的マンゴー生産クラウドコンピューティングシステムについて述べる(図4)。
まず、生育環境計測用センサネットワークは、温湿度計、日照計、土中水分計などをボード型マイコンであるArduinoで集約しRaspberry Piに転送する。
また、このシステムはZigBee、Bluetooth等のワイヤレス通信規格なので多地点計測が可能であるが、われわれはWi-Fiの通信規格で農園のネット環境の中のアクセスポイントに転送している。
次に、得られた環境データはクラウド上のストレージに蓄積され、温度、湿度、日照、補光、CO2 濃度などの時系列データとして保存される。
ここでの目的は、「マンゴーの光合成を促進し、その結果、収量の増加、品質の向上を目指すことである」ことからクラウド上に収納された物理データ群を統計処理やAIのアルゴリズムを用いて処理し、どのような環境データがその目的にかなう因子となっているかを探索することを目的とする。
そして、その結果を可視化し、作業者にフィードバックしてマンゴー生育環境の最適化を行う。ここで目指す最適化とは、CO2 施用条件、LED補光条件、灌水における最適水分量の決定などである。
さらに重要なことは、生産者(マンゴー農家)の経験則と、現場から得られたデータ群に基づいた最適パラメータの融合であると考えられる。
われわれは、研究開発プロジェクト終了までに、経験則(暗黙知)と、知的生産システム(IoT&クラウドコンピューティング)の融合を図る。
現在、われわれは、マンゴー生育の最良な環境を探索するために長北ファームで環境データ(ハウス内温度、湿度、日照、土中温度、土中水分)を自動計測しデータを蓄積している。
そして、最適な栽培環境条件を見出し、その結果をマンゴー農家にフィードバックすることで、マンゴーの早期収穫、収量増、品質向上を目指す。
マンゴー栽培実験
本研究開発は2016年10月から開始された。本章では、10月以降から始められたマンゴー生育の過程を紹介し、CO2 施用、および、LED補光の有用性の検証を行う。まず、われわれは2016年11月からCO2 施用、LED補光を行った。それぞれの時間は、午後5時から8時までである。
ここでは、目視による施用区(CO2施用 LED補光:以下 CO2+ LED区と呼ぶ)と、CO2 施用およびLED補光無しの区(以下では対照区と呼ぶ)での成長期間、収穫されたマンゴーの品質の違いを観察した。
まず、図5は2017年4月上旬の花芽の比較である。ここに左側はCO2 +LED区、右側は対象区である。この図からも明らかなように、CO2 +LED区は花芽が十分付いているのに対し、対象区では花芽が付いていない。
マンゴー農家の感想では、この時点でCO2 + LED区は対象区に比較してひと月ほど花芽が早いとのことであった。次に収穫時のマンゴー果実の比較を示す。
図6は両区画における2017年7月上旬のマンゴー果実の成熟の状態である。図6からも明らかなようにCO2 + LED区は対照区に比較して品質も良く、また、収量も増大したという結論を得た。
ところで、マンゴーの等級は、色味、形、重量、糖酸比で等級を判別しているが、図6左は栽培時から均等な光を吸収しているため、光合成が活性化し糖酸比も程よく、また、形状も良いことを糖度、糖酸比から定量化した。その結果、このマンゴーはA級品と判断された。
また、量区におけるマンゴーの収量と品質を比較したところ、CO2 + LED区ではA級品は対象区に比較して2倍収穫できた。また、C級品に関しては、対象区がCO2 +LED区に比較して3倍の収穫であった。
おわりに
沖縄県は、マンゴーの生産量は全国一で、また、その品質も高い。しかし、マンゴーの生育は非常にデリケートで、その生長過程は日照、寒暖の影響等に左右されやすい。
本研究では、マンゴーの生産性、および、品質向上を目的とし、IoTを基盤とした環境計測、制御技術の開発を行い、実際にマンゴー栽培により有用性の検証を行った。
ここでは、特にマンゴー樹木の光合活性化を目的として、CO2 局所施用技術とLED補光システムを導入し、マンゴーの品質がどの程度向上したかについて定量的に評価を行ない、その有効性を検証した。
※スマート農業360 2019年春号『先端農業技術に迫る』より転載
◆参考文献
1)宮古島マンゴー屋(長北ファームホームページ)https://41mango.com/
2) 玉城史朗,金城篤史,平良英三,城間康,殿岡裕樹:マンゴーの早期収穫と品質向上を目指した施設園芸システムの開発,電気学会次世代システム研究会,IIS ー17ー108,(2017年9月22日)
【問い合わせ先】
琉球大学 工学部
〒903-0129 沖縄県西原町千原1番地
TEL.098-895-8720(玉城研究室)
E-mail:shiro@ie.u-ryukyu.ac.jp
※著者:琉球大学 工学部/教授 玉城史朗
同 農学部/准教授 諏訪竜一
同 理工学研究科/博士後期課程 城間 康
農業生産法人 長北ファーム/農場長 菅原純一
コメントを残す