昨今、農業生産の高度化を目的とした圃場環境や植物生育の情報を計測できる様々なシステムの開発が行われている。
本稿では開発を進めている低価格ワンボードマイコンを用いた圃場環境・植物生育情報の計測システム(図1)について紹介する。
圃場環境情報の計測
圃場環境情報計測システムはデータ集約・送信装置(Raspberry Pi B+)、温湿度センサ(乾電池駆動)、照度センサ(太陽電池駆動)から構成される(図1)。
温湿度センサは輻射熱によるセンサ本体の温度上昇に伴う誤計測を極力避けるため乾電池を用いた。
一方、照度センサには小型太陽電池(数日間の無充電運用を想定)を導入し、計測の自立化を実現している(図2)。
センサで計測したデータは、5分間隔(時間間隔は任意に調整可能)でデータ集約・送信装置に無線伝送(Zigbeeを使用)された後、3G 回線を通じてクラウド上のサーバに転送・保存される仕組みとなっており、収集した情報は PC、スマートフォンなどからいつでも確認できる。
図3に本計測システムで計測したハウス内環境の変化を示す。本結果からわかるように、日中は太陽光によりハウス内が暖められ、気温の上昇と湿度の低下が発生している様子がわかる。
このようなシステムが圃場に設置されれば、農家は植物の栽培管理や圃場環境の制御に役立てることができる。
また、これらの情報を連続的に収集し、収穫量、生育障害や病害虫の発生状況などとの比較・検証を行うことができれば、栽培技術のさらなる高度化も期待できる。
植物生育情報の計測
植物生育情報の計測にはコンピュータビジョン技術が用いられている。筆者らが開発した植物生育情報計測システムは画像計測装置(Raspberry Pi B+)、RGBカメラ(植物の色情報確認用)、赤外線カメラおよび赤外線 LED 照明から構成される(図 1)。
実験ではハウス内のトマト植物個体を一定時間ごとに真上から撮影した赤外線画像から、オプティカルフロー処理を用いて、トマト植物個体の時々刻々の運動(移動量)を求めた。
図4にオプティカルフロー処理の概要とトマト植物個体の平均移動量(移動量は移動ベクトルの大きさを表し、平均移動量は植物個体全体の移動量を平均化したものである)の経時変化を示す。
オプティカルフロー処理では、時刻tにおける点A近傍の画素群が時刻t+δtにおける点 A’近傍に移動するという仮定から2時刻間の対象物体の移動ベクトルが計算される。
トマト植物個体の平均移動量は昼間小さく夜間大きくなる傾向が認められ、明瞭な概日リズム(約 24 時間周期で変動する生理現象)を示していることがわかる。
また、本稿では示していないが、環境情報から推定した蒸発散量と平均移動量との比較結果から、葉の萎れに繋がる植物個体内の水分ストレスの増減も評価できる可能性を確認している。
植物の生育は環境や栄養状態により変化するので、今後は環境条件を変えた様々な栽培実験を行い、植物の環境応答特性について調べていく予定である。
画像情報は植物の高さ、花の開花、果実の成熟度合い、葉の色や面積等の様々な特徴量計測にも利用されており、今後もその利用場面は拡大していくものと期待される。
<Tips>
常に圃場の見回りを行っているので圃場環境や植物の計測は不要と思われる農家の方が多いのも事実です。
しかし、これらの情報を数値として計測・蓄積・見える化することにより、自らの農業生産技術の次の一手を考えるきっかけになります。
加えて、場見回りなどの農作業を減らすことができれば、コスト削減にも役立ちます。すでに様々な機器が販売されています。興味のある農家の方は導入を検討されてみてはいかがでしょうか?
※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載
◎価格
本体(各センサ子機から計測データの無線中継しサーバへデータ送信を行う)、温湿度センサ子機、照度センサ子機、CO2センサ子機を構成で15万円程度、クラウド利用料(計測データの保持・可視化)として1,500 円/月額程度を想定。通信線路工事費、月額通信費は別途必要。
◆相談先
九州大学大学院 農学研究院環境農学部門 農業生産システム設計学研究室
TEL:092-642-2928
http://www-mech.bpes.kyushu-u.ac.jp/
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