「あぐりクラウド」 農業生産における ICT活用で露地・施設園芸の栽培環境を見える化

農業ICT関連製品を市場投入し環境計測および制御、センサネットワークで「農業栽培における見える化」を実現し、今後はデータを数値化し伝承サービスを行っていく。

株式会社ジョイ ・ワールド・パシフィック(以下、jwp)の農業ICT製品と農業ICTの動向を紹介する。

開発の経緯と技術特長、優位性

1. 開発の経緯:シーカメラ
jwpのある青森県津軽地方はいわずと知れたりんごの一大生産地。とある農家の相談が開発のきっかけである。自分の自宅は平川市(弘前市の右側に隣接)、りんご畑は、岩木山のふもと弘前市貝沢地区にある。

自宅からりんご畑へは、ゆうに20km以上ある道のり。天気には人一倍気を使う。特に6、7月は好天が多く、日照り気味の年も多い。灌水のタイミングは自宅の天気状況や「勘」により、トラックの荷台にタンクを置き、水を入れ、りんご園に運び撒いていた。

これがジャストタイミングでない場合も多くあり、実際りんご園は雨で、土壌水分も要灌水、日照りでないときもあった。「畑の環境がわかれば」との思いが強くなったという。

この農家の思いから開発したのがシーカメラである(図1)。

IPカメラ・ゲートウェイ・弊社センサやセンサメーカの各種センサ・気象計などの接続が可能で、リモートで灌水が行える電磁弁の操作や、防霜扇の操作など行える絶縁入出力接点を装備する。IPカメラのためPTZ(パン・チルト・ズーム)などの機能もすべてリモート操作可能である。

図1 シーカメラ

 りんごの適正灌水量は、青森県産業技術センターりんご研究所(日本唯一のりんご専門の試験場)に相談し、研究所内の環境データをいただき、解析し、水分センサから適切な灌水状態を表すようにした。

このような情報は、インターネットに繋いだスマートフォンや PCで簡単に閲覧でき、リモート制御やメールなどによるアラート送信、リアルタイムデータのメール受信などが行える。

2. 製品の特長
①露地で運用可能
収益、改善性の高い施設園芸向けの製品開発からではなく、露地向けから設計、開発、販売している。高い耐候性をもった製品で、現在北海道から九州まで納入し、稼動している。

-20℃以下になることがある北海道の北端に位置するサロベツ地区では、植物工場建設予定地の環境計測およびモニタリングとしてシーカメラを運用してる。

②より広域な圃場で
シーカメラには、より広域な圃場でモニタリングできるように 2.4GHzと比較して到達距離が長く、回折性が高い 920MHz 特定小電力無線で子機センサ端末と連携できるように設計してある。物理的にはMax.100台、マルチホップ通信も可能。

今現在まで、子機を4台接続し、約4haの圃場をカバーしているユーザがいる。今後はさらに広域な圃場で運用するユーザが出てくるだろう。理論値から1,900ha、約東京ドーム4,100個分ほどの圃場をカバーできる計算となる。

携帯電話網は1箇所として、ほかの測りたい場所には、子機のセンサ端末を置き、シーカメラと920MHz帯無線で通信することで、月々のランニングコストを低減した運用が可能である。この方式は、後述するあぐりクラウドとあぐりセンスもまったく同じである(図 2)。

図2 システム構成

③ユーザ側に立つ半カスタムの製品
農業は、地域環境や品種、栽培方法が異なる場合もあり、まったく同じ構成の環境計測器 1つですべてを賄うことはできない。

またどうしても取得したい情報があり、要望が出てくる。「この装置ではできません」を少なくする、いわば半カスタムの要素をもった製品作りをしている。

開発事例

1.データの利活用と遅霜予測
りんご栽培の話に戻るが、4、5 月の遅霜は、つぼみ~開花期に発生すると果実にりんごの皮に亀裂のような縞模様ができ、見た目が悪く商品価値が下がる。下がっても売れればまだよいが、廃棄やジュース加工などにまわり単価を落としてしまう。

その原因となる遅霜の発生を予測するため、弊社独自のアルゴリズムで翌日の朝の気温、天気およびその日の気象条件などから霜の発生を予想し、アラートおよびクラウドに表示するプログラムをサービスしている。

運用当初はアラート判定し実際霜が発生した確率は約70%、的中率は98%以上であったが、アルゴリズムの最適化および翌日の天気・気温予想の改善を実施し、現在では的中率は向上している。

2. 圃場(露地)の放射線量を計測
大手メーカのユーザ圃場で、露地の放射線量を測るセンサ端末の製作依頼があり、検出器デバイスとして全世界に5万ヵ所以上出荷されているヤグチ電子工業株式会社(本社 宮城県石巻市)製ポケットガイガーを使用し、従来機器などに接続できるように RS-232CおよびD/A変換したアナログ値でデータを出力する安価な放射線量計を製作し販売した。

弊社のシーカメラや、大手メーカのセンサ BOXにそのまま接続し運用できる。防水保護等級 IP67 の筐体に収納したことで、施設園芸から露地、水稲、果樹での使用が可能になる。

応用例/ユーザメリット

1. 有機稲作での利用例
民間稲作研究所(本部 栃木県河内郡上三川町)では、シーカメラに気象計と水位、水温、地温センサをつけて、千葉県と熊本県にある有機稲作の田んぼに設置した。

栃木県の本部から、環境計測データを遠隔モニタリングし、水位管理指導や、害虫であるウンカの発生状況などをカメラモニタリングしている。
 
ウンカは成虫でも5mm程度の害虫で、稲の葉や茎から汁を吸って枯らしてしまう。田んぼの害虫で比較的暖かい地方で発生する。

小さい虫のため、カメラは18倍光学ズームと2倍EXズームにより、高画質のままで36倍のズームできるカメラで対応した(図3)。

図3 カメラ画像1倍率と36倍率の比較

田越し・水入れ時の溶存酸素の自動計測と、データ蓄積を希望していた。水入れ時期の重要な測定要素でるが、最終的には人的測定とした。もちろんこのセンサの取付け、計測も可能である(図4)。

図4 システム構成(有機稲作)

jwp 本社は青森県平川市、jwpで設置工事も請負うが、設置、運用は簡単で、回線の初期設定までユーザで行えばすぐに運用を開始できる。またはjwpに SIMを送付すればセットアップし製品を発送する。ユーザは設置をし、電源1つを入れれば即日運用可能である。

この例でもユーザ自身で千葉、熊本の田んぼに設置し運用を開始している。今後は水稲向けの硝酸態窒素(NO3-N)などのセンサ開発、自動測定技術を確立していく。なお統合的な水管理システムとして水門板の自動制御、920MHz帯無線による連携の試作評価は平成27年度に完了している。

2. 施設園芸での利用例:あぐりクラウド
農業の中でも収益性の高い施設園芸分野では、あぐりクラウド・あぐりセンスをお勧めしている(図 5)。

あぐりクラウドは、親機として920MHz、3GまたはLTEを内蔵したセンサ端末で温度・湿度・CO2濃度センサを標準搭載する。子機のセンサ端末として使用するあぐりセンスも標準センサは同様である。

オプションは土壌センサや水中温度センサなどを用意している(図 6、7)。

図5 あぐりクラウド、あぐりセンス

図6 システム構成(寒冷地での冬春ピーマン)

図7 システム図

このユーザは、寒冷地における冬春ピーマンの栽培に取り組む企業法人である。温泉水を利用した地中熱で、寒い冬の時期に生産し流通量が少なくなるため高単価で取引できることになる。

主に九州が冬トマトの生産地である。ハウスは5棟で、この内3棟で冬春トマトの栽培を行っている。今期は12月に800株を定植し、3月に収穫を目指すという。

温泉水は、45℃前後、地中熱として畝の周りにビニルホースを通し、循環させ、地温は20℃位をキープする。ハウス内の温度は冬でも昼の日射があれば35℃くらいになるため、2重張りのビニルを開放調整し温度を少し下げる。

夜間は逆に 15℃以下になる場合があるので、18℃以上を保てるように今後は地中熱の利用工夫や、ヒートポンプ、カオンキなど、機器暖房のスポット利用や炭酸ガスの施用も視野に入れている。

このように jwpの環境測定および制御機のメリットは、測定したい場所にあぐりセンスを複数個設置し、あぐりクラウドが一括してデータをクラウドに蓄積することにより、最適な栽培環境を作るための計測が可能になるところにある。

今後のロードマップ

現行サービスしている環境計測、環境制御のほかに、スマートフォンやタブレット上でGPS計測情報(位置・住所)とセンシングした温度、湿度データを写真に上書きできる写真アプリと連携することができる農業IT日誌アプリ(無料)を今秋までにリリースする予定である。

また、蓄積したデータから検証・解析し、数値化や篤農家の圃場環境や農業技術の照合を行い、10年以上かけて習得する農業技術の 6、7割程度の継承を2年位でできるようなツールを本年度末にサンプルリリースする予定である。

今後高い農業技術をもったベテランがリタイアし、新規就農者などの次世代に高い農業技術が伝わるように、解析や照合、数値化などを行い、アラート、診断、照合などのアドバイス・習得サービスを実施し、早く安定した生産、収量、品質を確保できるようにする。

土壌状態、施肥・堆肥、病害虫管理、適切な栽培工程、生産性、経営などの診断サービス(コンシェルジュ)を予定する。

また、農業環境データ、栽培データは知財であると考えセキュリティの高い通信方法や、閉域なインフラを用いたサービスもお客様の希望に合わせ選択できる。

※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載

◎価格
本体・・・165,000 円~
ランニング費用(サーバ・通信料)・・・2,200 円/月~

施設園芸で3ヵ所(親機1台、子機2台)に導入する場合
イニシャル 395,000 円、親機ランニング費用(サーバ・通信料)2,200 円/月
測定センサ:温度、湿度、CO2 、照度2 台目以降は無線で収集するため、ランニング費用は上記とサーバ・通信費と子機 2 台 500 円/月× 2 台の計 3,200 円

◆相談先
株式会社ジョイ ・ワールド・パシフィック
TEL:0172-44-8133
http://www.j-world.co.jp/

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