はじめに
セラク(以下、当社)は1987年に設立したIT企業であり、これまでインターネットを活用したビジネス支援を中心的な事業として展開している企業である。
当社はこうした事業の中で培われてきた技術を地域の活性化に役立てられないだろうかと考え、その一環として2014年から農業向けITサービスの研究開発を開始した。
その取り組みの中で生まれたサービスが農業 ITプラットフォーム「みどりクラウド」である。みどりクラウドにはさまざまなサービスが含まれているが、今回は主に施設園芸における環境管理に活用可能な「みどりモニタ 」にフォーカスを当てて紹介する。
サービス・コンセプト
農業生産においてITを活用できる機能として、「計測・記録」、「判断・制御」に分けることができる。「計測・記録」を行うことができれば、農業をデータ化し、数値や画像による見える化を実現できる。数値や画像が記録されることによって、過去や他の圃場、他の生産者との比較をすることが可能となる。
また、蓄積されたデータを基に自動的に「判断・制御」を行うことができれば、環境の自動制御や、ロボットなどによる自動収穫などが可能となり、農業生産の省力化、生産効率の向上につなげることができる。
九州ほどの面積でありながら世界で2番目の農業輸出国であるオランダでは、その高い生産性を実現するためにITが積極的に活用されている。
当社では農業向けITサービスを検討するにあたり、オランダの灌水システムメーカに訪問し、実際に利用されているシステムを視察した。オランダにて開発されていたシステムは、前述した計測・記録・判断・制御をすべてITによって実現していた。
しかしながら、そのために初期導入コストは非常に高く、高機能がゆえに複雑であり、それを使いこなすための教育コストもかかるものであった。
また、オランダで作られているシステムは、オランダで利用されている施設でもっとも効果を発揮するものであり、日本の既存の施設にはマッチしないということがわかった。
そこで、オランダのシステムをそのまま導入するのではなく、日本には日本の農業にマッチしたサービスが必要ではないかと考えた。
日本の農業は、法人化が進みつつあるとはいえ、まだ中小規模経営体が多く、投資可能な金額に限りがあることから、低コストでスモールスタートできるものである必要がある。
また、オランダのように研修を受けないと使いこなせないようなシステムではなく、誰かに教わることなく自然に利用できるシステムである必要がある。さらに、すでに日本に存在する既存の施設に後付けで設置でき、活用できるものでなければならない。
こうした要件を満たすために、「計測・記録」、「判断・制御」のすべてを実現するのではなく、まずは「計測・記録」、つまり環境モニタリングに特化させるサービスとしてスタートしたのが圃場遠隔環境モニタリングサービス「みどりモニタ」である。
みどりモニタについて
みどりモニタは、当社が提供するセンサボックスである「みどりボックス」を圃場に設置し、電源を入れるだけで2分おきに環境を計測し、インターネット上にデータを蓄積するサービスである。
蓄積したデータは、スマートフォン、パソコンのWEBブラウザ、フィーチャーフォン(携帯電話)を使って圃場から離れたところでも確認することができる。
計測可能な項目は、温度、湿度、日射量、CO 2 濃度、土壌水分、土壌EC、pH、水位、風向、風速などであり、最小構成であれば10万円以下で導入することができる。
みどりボックスは携帯電話回線(3G回線)が内蔵されており、通信回線を別途用意する必要はない(Wi-Fi版については別途無線 LAN環境を用意する必要がある)。そのため、電源さえ確保すればすぐに利用できる点が特徴である。
なお、電源が確保できない場所の場合は、太陽光発電パネルとバッテリーにて運用をしている実績もある。
現在、周囲半径3mの環境を最大7点の計測・記録が可能なみどりボックス2と、優先センサにて周囲半径50 m、および、無線センサによって半径数百メートル、最大約30点の計測・記録が可能なみどりボックスPROの2種類を提供している。
蓄積されたデータを表示するアプリにおいては、当日、前日、前々日の最高・最低・平均値を自動的に算出して表示するほか、グラフによって過去からの値の推移を見える化することが可能となっている。
また、飽差や積算温度、低温積算など自動的に算出して表示する機能も備わっている。さらには一定の値の範囲を上回るか下回った場合に、スマートフォンの通知機能やメールにて通知する警報機能も搭載している。
みどりモニタにはお互いに承認しあった他の生産者とデータを共有できる機能も設けている。こうした機能を用いることで、若手生産者が篤農家のデータを確認しながら環境管理を行うことも可能となる。
環境モニタリングからスタートしたみどりモニタは、2018年11月より新たに「環境制御オプション」を利用することができるようになった。
これは、三基計装社が販売している統合環境制御盤とみどりボックスPROを接続することで、遠隔から環境制御の設定値を確認、変更することができるものである。
これにより、みどりモニタによって、低コストで「計測・記録」、「判断・制御」のすべてを実現することができるようになった。今後は、三基計装社の機器のみならず、その他の企業の制御機器との連携についても進めていく予定である。
導入実績と効果
みどりモニタは、これまでに北海道から沖縄まで全国47都道府県に普及している。2018年9月時点においては、その導入件数は約1 ,400箇所に及び、さまざまな効果が出てきている。神奈川県でキュウリを40年以上栽培されているベテラン生産者のケースでは、収量が20%上がったという実績が出ている。
これは、この生産者が理想としている環境と実際の環境のギャップを環境モニタリングによって見える化し、そのギャップを埋める取り組みをされた結果、収量拡大という成果につながった。
栃木県のいちご生産者においては、環境モニタリングを始めたことで病気の発生を抑えることができ、消毒の回数を減らすことができたという効果があった。
これは、環境が見える化されたことによって、今まで見えていなかった環境変化を認知し、これまで以上にこまめに環境制御をおこなったことによって精密農業を実現したことによる効果である。
消毒の回数が減ったことにより、農薬にかかるコストが抑えられ、サービスの導入にかかった費用は回収することができている。
また、茨城県のトマト生産者においては、施設の電源異常によりボイラーが停止し、室温が低下していることをみどりモニタが検知し、警報を発報したことによって3,000万円の損失を回避できたという事例も報告されている。
※スマート農業360 2019年春号『特集:ハウス環境を整え収量アップ!』より転載
今後のみどりクラウド
本稿では、みどりクラウドのサービス群のうち施設園芸で活用できるみどりモニタについて解説を行った。みどりクラウドには本サービス以外にも生産計画、 農作業記録を手軽に行え、JGAP認証の取得に利用できる「みどりノート」というサービスも提供している。
今後は、これまで提供してきた生産支援サービスのほかに、流通・販売支援を行うサービスについても提供を行うことで、生産者と実需者、消費者をつなぎ、フードバリューチェーンを支える農業ITプラットフォームを実現していくことを予定している。
◉価格
注目ポイント !
まずは環境モニタリングからスタートし、その後、環境制御に拡張するというように、段階的にハウス内環境管理の高機能化を進めていくことができるのがみどりクラウドの特徴です。
しかも、低コストで実現できるので圃場規模や経営規模にかかわらず導入しやすいサービスとなっています。生産計画・作業記録のみどりノートと組み合わせることで、環境データと栽培実績を関連させた分析も可能です。
◆相談先
株式会社セラク
TEL:03-6851-4831
E-mail:info@midori-cloud.net
https://midori-cloud.net/
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