農業のICT化は部分的に始まっているが、最終目的の「担い手の減少に対応できる継続可能な農業」までには、いくつかの段階がある。最終的には屋外の農場(露地栽培)でもICTによる自動化や省力化が実現できる製品を、効果に見合った価格で提供することを目標にしている。
「ポジモ」誕生の背景
ネットワーク(通信網)は電力を必ず必要とする。しかし、ネットワークの需要がある場所に必ずしも電力があるというわけではないことを、当社は過去のプロジェクトで体験した。
一方で、ネットワークを自在に活用できることが、事業の生産性、効率、品質に対して優位に働くというのも事実である。
こういった背景から、「事業の主体となる場所は屋内外問わない」のに、「インフラ整備は事業者が実施しない場所がある」ならば、「電源に依存しない無線通信のインフラ装置を開発しよう」と考え、電源自給型可搬無線通信装置「ポジモ」の開発をスタートさせた。
「ポジモ」の技術特徴、優位性
「屋外で電源を自給して連続稼働し、容易にネットワークを拡大できる」というコンセプトから、次の 3つの独自技術を開発した。
まず、消費電力を低減する技術である。農業ICTにおいて必要十分な通信速度を確保しつつ、徹底的な消費電力の低減により屋外連続稼働を実現した。
2つ目に、日照によるエネルギーが日本各地で異なることから、これらのデータを元に通年「止まらない」発電性能と蓄電性能を設計・開発をする技術である。
最後に、自律的に無線中継でネットワークを拡大するために、メッシュリンクという技術を採用した。
複数のポジモが、メッシュ状に無線中継用のネットワークを接続し、トラクタなどの障害物が移動してきたりした場合にも、別の中継経路を使用して通信を途絶えさせない技術である。
これら技術の採用により、必要な場所に必要なときに、容易に無線ネットワークを構築することができるのが「ポジモ」の最大の優位性である。
無線規格は無免許無届で使用でき、市販しているデバイスの対応が多いIEEE802.11b/g(いわゆるWi-Fi)を使用した。このため、接続可能な機器、システムの選定についての自由度が高いことも、「ポジモ」による屋外ネットワークの強みである。
開発(活用)事例
こうした背景と強みをもつ「ポジモ」であるが、農業技術そのものに直接の関わりはない。そこで、農業者への取材をすると、いくつかのユースケースが明らかになった。
農場や農業試験場などでは、ネットワークが必要になっても配線をすることは難しい。不用意に配線を行えば、農機、家畜、人などが通ることができなくなるため、生産性に大きな影響が出るためである。そこで、「ポジモ」の「電源自給」と「無線通信」は歓迎されたのである。
具体的なユースケースは、次のとおりであった。
① 牛のプールの映像監視・録画
② 作物の盗難監視
③ 圃場の気象センシング
これに対して、当社では農場や農業試験場でポジモを使用した実証実験を行った。詳細については、当社 Webページなどで公開しているが、次のような内容でこれらのユースケースを検証した。
1.牛のプールの映像監視・録画(図 2)
課題:某農業試験場において、500m 離れた牛のプールの映像を事務所で録画することで、子牛の健康状態を管理したい(1 週間の実験として)。
システム:録画 事務所の PCにフリーソフトを設定/カメラ 防水処理をした無線 LAN 対応のネットワークカメラ(電源はポジモから給電)/ネットワーク ポジモ 5 台で中継した無線ネットワーク
結果:録画により牛の動態を確認することができた。
今後の課題:子牛の判別タグをカメラによって認識すること。ただし、これにはカメラ複数台を牛の動態を勘案して配置する必要があり、費用と期間の面から保留とし
た。
2.作物の盗難監視(写真1)
課題:事務所から川を挟んで約800m離れた、高額作物のビニルハウスで盗難が頻発している。この証拠映像を取得し、警察に証拠として提出したい。
システム:録画、モニタリング:事務所の PCおよびスマートフォン/カメラ 防水対応ネットワークカメラ(電源はバッテリ)/ネットワーク ポジモおよび他社製長距離無線装置(川幅を超えるため)
結果:録画に成功した。
今後の課題:川幅を超える部分の他社製長距離無線装置は、アンテナの指向性が強いことと電源が必要なため、あらためて工事計画と見積もりを作成することとした。
※本件は、日本農業情報システム協会会員「株式会社アルケミックス」のコーディネートによる実験である。
3.圃場の気象センシング(写真 2、図 3)
課題:T-SALファームにおいて、センサノードとクラウドの間の通信を、電源自給で継続できるかを試験したい。
システム:気象センサノード/ネットワーク ポジモおよび 3G 回線/クラウド
結果:問題なく圃場の気象情報を収集、閲覧することができた。
今後の課題:特になし
※本件は、日本農業応報システム協会会員「株式会社アイ・エス・ビー東北」のコーディネートによる実験である。
※気象センサノードおよびクラウドは、株式会社アイ・エス・ビー東北が取り扱っている。
パートナーの活動と当社の対応
前述の圃場の気象センシングの事例に、2012年から精密農業に取り組んでいる株式会社岩崎が注目した。GNSSを利用したトラクタガイダンスやオートステアリングシステム、生育センサを利用した可変施肥システムを中心に精密農業をスタート。
近年では生産者ニーズの調査結果からUAVを使用した圃場の計測、気象センサを活用した気象情報の集積にも取り組み、農業におけるIoTを目指している。
同社は自社の試験農場を中心として、JAや生産者を対象とした研修会や視察会を実施しており、通算で70回・2,705名が参加している。
2016年7月にオホーツク地区農業委員会と、道央地区JAの2団体に研修会を実施したときの様子を写真3に、「圃場にセンサを設置して取得したいデータはどのようなものか(複数回答可)」の問いに対しての回答を図4に示す。
特に気象センシングの部分に着目すると、両団体ともに気温、雨量、照度の取得・蓄積に関心が高いことがわかる。これら、気象データは、施肥作業、UAVによる計測、生育状態の把握にも活用するとのことである。
自然科学における気象センサはより多くのパラメータを、より高い精度で計測するため高価であるが、生産者が必要とするパラメータと精度に注目して、生産者が導入しやすい簡易で安価なセンサと圃場をカバーするネットワークの提供が、精密農業の推進には重要であると株式会社岩崎は考えている。
同社が「センサネットワークを活用した農業 IoT」として提案するサービスイメージを図5に示す。
このセンサネットワークのインフラ装置として、「ポジモ」を活用できるように当社は対応している。
農業ICTのネットワークを1つにまとめる
ここまで、ネットワークカメラ、気象センサを「ポジモ」のネットワークに使用した例を紹介した。しかし「ポジモ」で農場に構築されるWi-Fiネットワーク(無線 LAN)は、様々な営農形態、様々なアプリケーションで活用されるようになる。
生体センサ、水位センサ、営農記録、水門制御など広く普及したWi-Fiのハードウェアで動作するものは、すべて「ポジモ」のネットワークに接続されて適切なサービスを利用できるようになる。
農場に構築された「ポジモ」によるネットワークで利用されている農業 ICTの将来的なイメージ図を、図6に示す。
現時点での農業ICTでは、各デバイスそれぞれが、3GやLTEの回線を契約しているためランニングコストを抑えにくい。
これを、整理して、図6のような構成にすることで、ランニング費用を抑制しつつ、作物の多様化や労務管理への対応が可能となる。
このように、当社は次世代農業 ICTについて、インフラとなる装置の開発・発売を通して、より生産者に近いパートナーと共に生産者のニーズに適合するソリューションを供給していく計画である。
※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載
◎価格
オープン価格※代理店またはレンタル店からお見積もりを差し上げます。
代理店一覧:http://www.poggimo.info/buy/#buy
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