農業 IoT e-kakashi

日本の農業では、農業従事者の高齢化、担い手不足が深刻な問題となっており、優れた農業技術の消失が危惧されている。「農業IoT e-kakashi」では、栽培環境、さらには栽培技術の見える化を通して、技術伝承を効率化するためのソリューションを提供する。ここでは、国内の地方自治体や企業におけるe-kakashiの活用事例を紹介する。

ハードウェアの特徴

e-kakashiのハードウェアは、センサノードとゲートウェイで構成される(図1)。いずれも日立製作所謹製の製品であり、厳しい品質管理を通した頑健なつくりとなっている。

いずれの装置も屋外対応(防水防塵、IP55以上)しており、圃場・施設の両方で使用可能である。センサノードは、センサデバイスが計測した環境情報を収集する装置である。電源は、内蔵バッテリ/商用電源のいずれかを選択可能である。

センサノードは、複数のセンサデバイスの接続に対応する。具体的には、温湿度、日射、土壌水分/ECなどの各種センサと、多点計測に対応したサーミスタが基本センサとして接続可能である。なお、基本センサの電源は、センサノードから供給する。

図1 ハードウェア外観

また、センサノードは、基本センサとは別に追加のセンサポートを2つ有している。CO2や水位センサなど、ユーザが用途に応じてセンサを選定・接続することで、あらゆる栽培環境情報の収集に対応する。

ゲートウェイは、センサノードから受信した環境情報をクラウドサーバに転送する装置である。ネットワークインタフェイスとしては、センサノードとは920MHzの無線通信に、クラウドサーバとは3G/4Gの無線通信にそれぞれ対応している。

また、ゲートウェイは各ネットワークの診断機能を具備する。センサノード、クラウドサーバとの通信に関してそれぞれの通信環境やトラフィック量を管理し、診断結果をクラウドサーバへ通知する。

センサノードとゲートウェイは上記の機能を有する一方で、現場でのカンタン設置に対応している。まず、筐体のサイズが196mm×196mm× 68mm(突起部を除く)、質量が1.0kg以下と片手で持ち運びできるサイズになっており、現場の作業者が負担なく持ち運びすることが可能である。

次に、筐体は 3 つの設置方法(結束バンドによる背面固定、紐などによる吊り下げ、取り付けベースを用いた壁掛け)に対応している。これにより、特別な資材や工具を用いることなく、現場にある木杭や施設のフレームなどを活用した簡易設置を実現する。

さらには、センサノードとゲートウェイはコンフィグレス設計により、設置後に電源オンするだけで動作を開始する。煩雑な無線設定や装置動作設定は、すべてクラウドサーバ側で事前設定されており、作業者が現場設置時に設定を行う必要はない。センサキャリブレーションに関しても、クラウドサーバ側での設定が可能なしくみになっている。

ソフトウェアの特徴

e-kakashiでは、取得した圃場データを WEBアプリケーションによって閲覧する(図2)。同アプリケーションでは、最新の圃場環境を確認するためのデータ閲覧機能、圃場で発生したイベントを時系列で把握するためのタイムライン機能、自由に編集可能なグラフ機能、作業内容や植物の状態を記録するための日誌機能などを備える。

生データだけでなく、生育環境温度や地温、水温の日平均、日中平均、夜間平均、日較差といった従来では算出するだけで多大な労力を必要としていた加工値も、自動算出したうえでユーザに提供する。

図2 ソフトウェア画面例

上記に加え、e-kakashiでは栽培に関する知見、技術を体系的にまとめ、それを実際の栽培現場で活かすための機能として「ekレシピ」を提供する。

ekレシピとは、いわば電子栽培マニュアルであり、各作物の各生育ステージにおいて生育に適した環境、生育状態の指標となる条件、さらには任意の環境下において実施すべき作業内容を科学的な根拠に基づいてまとめたものを指す。e-kakashiのすべての機能はこのekレシピと連動しているため、e-kakashiを導入することはすなわち科学的な農業を実践することに繋がる。

さらに、計測データを活用したサードパーティアプリケーションの開発を目的とし、API機能を備えている。これにより、 外部サービスからe-kakashiで計測した環境データを呼び出すことが可能である。e-kakashiで計測するような環境データを必要とするサービスは多い。

たとえば作物の生育シミュレーションでは、リアルタイムかつピンポイントの環境データを入力することで予測精度の向上が期待できる。今後はこうしたサービスと連携することで、e-kakashi 上で収量予測や農作業の意思決定支援などのサービスを提供することも視野に入れている。なお、本システムは特許出願中(出願番号:[国内]2015-171492、[国際]PCT/JP2016/56893)である。

主な利用事例

製品版e-kakashiは2015年12月末に出荷をはじめ、現状で計100台近いノードが全国各地で稼働している。対象作物は、水稲やトマト、イチゴ、みかん、茶、ニンジン、キュウリなど多岐に渡る。本稿ではその中から、先進的な e-kakashiの導入事例として挙げられる京都府与謝郡与謝野町、株式会社マイファームでの取り組みを紹介する。

与謝野町では、実証実験期間も含めて2013年からe-kakashiを導入しており、これまでに水稲、トマト、唐辛子、 九条ねぎなど多くの作物でe-kakashiを利用してきた。与謝野町が直面している問題として、農業従事者の高齢化と担い手不足に伴う栽培技術の喪失がある。その中で与謝野町では、優れた栽培技術をデータ化して残し、後世へ伝える手段としてe-kakashiのekレシピを利用している。

将来的には、e-kakashiとekレシピの提供をインセンティブとして新規就農者を募ることで、担い手の充実化、技術の早期習得、農業者としての早期独立、そして地域への早期定着を目指している。加えて、与謝野町では与謝野ブランド戦略の一環として、2015年度からホップ栽培とクラフトビールの開発を始めており、6次産業化による魅力ある街づくりに取り組んでいる。

ここでも e-kakashiを用いた環境モニタリングが行われており、ホップ栽培という新たな取り組みの手助けをしている。株式会社マイファームで、事業の1つとして農業教育、リーダー育成を目的とした「アグリイノベーション大学校」を展開している。

アグリイノベーション大学校では、栽培技術や経営に関する授業が実施されているが、その中で新たに、e-kakashiを活用した農業 ICTに関する教育カリキュラムが始まろうとしている。

現状、農業現場におけるe-kakashiのような農業IT機器および取得データの利活用に関するリテラシは高いとはいい難い。農業の教育現場においても、各都道府県が経営する農業高校や農業大学校で栽培技術に関する指導は行われるものの、農業におけるICTの利活用については触れられない場合が多い。

他方で、農業教育の段階から農業におけるICTの利活用を体験することができれば、当該リテラシを高める一助になると考えられる。そこで、アグリイノベーション大学校では、農業教育の段階から栽培技術と併せてセンサの使用方法、計測データの見方、分析方法、植物生理との関係性などを指導することで、早期の技術習得と就農後の安定した農業経営が可能になると期待している。

※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載

◆参考文献
1) 総務省統計局(2014)「日本の統計 2014」、総務省、
2) 澁澤栄(2010)「第5世代の精密農業日本から発信するコミュニティベース精密農業」、特許庁、31-37頁、

◎価格
機器、サービス利用料、データ保守料全部入って※ 1、4
749,600 円+税 ※2 ~(機器代金)+ 7,980 円/月+税※2、3~(月額利用料)
※1 センサ価格(各センサによって価格が異なります)が別途必要になります。
※2 ゲートウェイ 1 台、センサノード 1 台の場合の価格です。
※3 月額利用料には Webアプリケーション利用料、通信量、機器管理料、クラウド利用用が含まれます。
※4 リース契約もご相談ください。

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担い手不足や後継者問題を原因とする栽培技術の喪失などでお困りではないでしょうか?e-kakashiは栽培指導、技術伝承に特化したソリューションです。生産法人、営農指導者、教育現場、そのほか後継者問題を抱えている方や、農業IoTに興味がある方からの相談や講演の依頼を受け付けております。

◆相談先
PSソリューションズ株式会社
TEL:03-6274-6099
E-mail:sbmgrp-ekakashi@g.softbank.co.jp
http://www.e-kakashi.com/

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