はじめに
豚舎の洗浄は毎日のように行われる作業であり、衛生管理上、非常に重要な作業である。しかしその必要性は十分に理解していても、作業環境は快適とはいえず、作業者にとっては決して楽しい作業ではない。
それゆえに近年の人手不足とも相まって、養豚農家は洗浄作業の人員確保に頭を悩ませている。洗浄作業の簡略化や、慣れない作業者による洗浄作業は衛生上の問題を発生させてしまうことがあり、決して軽視できるものではない。
このような洗浄作業にまつわる悩みを解決するため、2016年より日本型の豚舎洗浄ロボットの開発を行った。その開発の背景と、開発機により豚舎で洗浄試験を行った結果について紹介する。
開発の背景
豚舎の洗浄作業を自動化することにはいくつかメリットがある。労働力不足の解消の他にも、人手作業で発生するムラをなくし、毎回安定して同じ作業を繰り返すことができるのも自動化による利点といえる。
豚舎の洗浄が可能な機械としては外国製の豚舎洗浄ロボットがあり、国内では数年前より販売され全国に40台以上普及している。
この豚舎洗浄ロボットは豚舎通路を走行し、豚房へアームを伸ばして豚房内に高圧洗浄水を噴射し、豚舎内の設備を洗浄する方式をとっている。
また、このロボットは、豚舎構造に合わせた洗浄手順をあらかじめティーチングすることにより、次回から自動で洗浄作業を行うことが可能となっている。
しかしながら外国製の豚舎洗浄ロボットは車体サイズが大きいため、その導入は通路幅に余裕がある豚舎に限られている。
また、価格が高価なこと、ティーチング時の操作方法が複雑であること、分娩豚舎などの複雑な設備には使いにくいことについてもユーザーからは改善要望が挙げられていた。
このような背景から、農研機構生研支援センターの「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の支援を受けた「豚舎用日本型洗浄ロボットを中核とした省力的な衛生管理システムの開発」では、企業、団体、教育機関、研究機関、生産者らが協力してコンソーシアムを設立し、中小規模農場の豚舎の洗浄が可能なロボットの開発に取り組んだ(表1)。
今回開発したロボットは、コストを抑えるために外国製の豚舎洗浄ロボットの洗浄方法の良いところを取り入れつつ、小型化や操作性の向上など、寄せられた要望への対策を盛り込み、日本の豚舎での使用に適した形とすることとした。開発するロボットのイメージは(図1)のとおりである。
開発したロボットの概要
開発したロボットは、基本的に車体、洗浄アーム、それらを動かすための制御部で構成され、洗浄水は市販の高圧洗浄機に接続することにより供給される。
洗浄作業はあらかじめ作業者が豚房形状に合わせて作業手順を記憶させるティーチング作業を行い、実際の洗浄作業はその記憶したプログラムを再生することにより行う。洗浄対象である豚舎は、豚の発育段階によって必要な設備が異なるため、内部構造が大きく異なっている。
開発初期は肥育豚舎と分娩豚舎を同じロボットで洗うことを想定していたが、広くてシンプルな構造の肥育豚舎と、狭小で付帯設備が多い分娩豚舎では、求められる洗浄距離や作業の複雑さが異なることが分かった。そこで、以下の異なるタイプのロボットを開発した。
1)高機能型肥育豚舎用ロボット(図2)
このロボットは肥育豚舎を洗浄対象とし、4 mまでの距離を洗浄できる洗浄アーム、車体の向きを変えることなく前後左右に移動が可能な全方向移動クローラ、ロボットをワイヤレスで操作するためのタブレット端末などにより構成される。
車体の幅は650mmであり、700mmの豚舎の入口・通路を通行可能である。高機能型肥育豚舎用ロボットの特徴として、豚舎内の通路を自律走行するための自律走行システムの搭載が挙げられる。
このシステムでは測域センサにより通路の柵を検知し、柵に沿った移動走行を行う。豚舎内で洗浄水の噴射により軽度の霧・水飛沫が発生した状況下においても前後進することが可能である。
また、洗浄ロボット管理システムも開発した。これはロボットの動作状況をクラウド上に自動記録し、携帯端末からの閲覧が可能で、ロボットが緊急停止した場合は、警告メールを携帯端末にて受信する機能を搭載している。
2)低価格重視型肥育豚舎用ロボット
このロボットも肥育豚舎を洗浄対象とし、中小養豚農家にも導入可能な価格であることを重視して機能を絞り込むことを狙いとした。
豚舎内の走行は車体に備えたガイドホイールを柵に沿わせることで前後進時の直進性を確保した。走行部は1台のモータで駆動し、豚舎間の移動は手で押して走行できるような構造となっている。
3)分娩豚舎用ロボット
分娩豚舎を洗浄対象としたロボットで、洗浄アームには産業用ロボットで用いられる6軸多関節ロボットを、豚舎洗浄に適した重量とサイズとなるよう設計し開発した。このアームの先端に洗浄ノズルを取り付けることにより、分娩柵の内側にも入り込み洗浄することが可能となった。
また、ダイレクトティーチ機能により直接洗浄アームを手で持って動かすことが可能で、アーム操作用のコントローラ等を使うことなくティーチングが行えるため、複雑な構造をした分娩豚房での作業に適している(図3)。また衝突安全機能により、洗浄アームが人や設備に当たった時に自動で停止するようになっている。
洗浄試験
高機能型肥育豚舎用ロボットと、分娩豚舎用ロボットを用いて2018年12月に千葉県畜産総合研究センターの豚舎にて試験を行った。高機能型肥育豚舎用ロボットは2019年2月に民間農場においても試験を行った(図4)。
洗浄試験では、ロボット洗浄区(大部分の洗浄はロボット、仕上げは人手)と、人手による洗浄区(すべての洗浄作業を人手)を設け、いずれの区も、洗浄後に消毒作業を行った。洗浄前後、消毒後の豚房床面や壁面の菌数を測定し、洗浄効果を検討した。
その結果、高機能型肥育豚舎用ロボットと分娩豚舎用ロボットのいずれの試験においても、ロボット洗浄は人手のみによる洗浄作業と同程度まで菌数を減らすことが可能であった。このことから、これらのロボットが十分に豚舎を洗浄できる機能を有するということがわかった。
また、作業時間を測定した結果、今回の試験では、ロボットの利用により、人手による洗浄作業時間を高機能型肥育豚舎用ロボットで68%、分娩豚舎用ロボットで66%削減できた。
今回、ロボット洗浄区では仕上げ作業が不要なほど洗浄できていたため、明らかに洗い残しがあるような部分に重点を置いて人手による仕上げ洗浄作業を行うことで、洗浄作業時間の8割程度の削減も期待できると考えられた。
今回試験時には、高圧洗浄機の吐出圧力設定を15~17 MPaとした。これは人手で連続して作業すると負担となるような圧力設定だが、ロボットはその作業を行うことが可能であり、より高い洗浄効果をもたらすという感想の声があがった。
これはロボットの「負荷が高くても疲れない」というメリットを生かした特徴といえるだろう。なお、低価格重視型肥育豚舎用ロボットについては洗浄試験を予定した時期に国内の豚コレラ発生が拡大傾向にあったため、試験の実施を延期し、2019年6月に千葉県畜産総合研究センターにて試験を行ったところである。
おわりに
今回はロボットによる洗浄能力の確認に主眼を置き、念入りに洗浄するようティーチングしたため、手作業による仕上げが不要といえるまでの洗浄効果があった。その反面、ティーチングに要する時間や使用水量がかかった。
このことを踏まえ、低価格重視型肥育豚舎用ロボットの現地試験では、稼働時間や使用水量など、人手による作業との組合せによる効率化も視野に入れながら試験を行っている。
また、今回報告した洗浄試験は1つの豚房内の洗浄作業により確認したものだったが、豚房間の移動を含めた連続試験等を行い、豚舎全体を使った確認も行っていきたい。
今後は耐環境性の向上を図りながら低価格重視型肥育豚舎用ロボットの2021年以降の市販化を目指してさらなる改良を進める予定である。
これからの養豚現場にロボットが導入されることで、省力化はもちろん、徹底した洗浄を行うことで、洗浄・消毒効果が増大し、疾病発生のリスクや子豚の死亡率の低減化が期待できる。
また、洗浄作業に要していた時間を豚の観察や他の管理作業にまわすことにより、生産性の向上にも寄与できるのではないかと考えている。
◆問い合わせ
農研機構農業技術革新工学研究センター
TEL.048-654-7269
E-mail:matsuno@affrc.go.jp
糞尿処理装置と自動ロボットの開発と進化が日本の畜産業の将来を左右します。小規模畜産農家向け装置やロボットの開発が困難と思われた瞬間から、畜産農家の集結化、団地化への転換を農林当局へアドバイスしたい。既存農家の跡取りによる継承、第三者継承、新規参入者誘致の後継三者へ向けた共通項を優先順位化した畜産近代化が望まれます。
養豚には豚舎の土間の糞尿分離設計施工と分離装置が必要不可欠です。分離された尿水の浄化装置の開発による有機肥料化ができたならと思う。放牧農場化できない多くの小規模養豚農家の維持・継承には欠かせない装置で、農林当局主導による早期開発に期待したい。
糞尿分離自動処理装置の開発による養豚業近代化が無理なら、小規模農家の集結化による共同施設投資に向かうより仕方ない。養豚業の先代のない新規参入者誘致育成施設を兼ねた合同畜舎の新設投資による集結化を提案したい。新規参入者実践教習を兼ねた誘致となり、且つ、新規参入者による小規模農家労働力補完ができる。養豚業継承を、大規模農家の法人譲渡や第三者継承だけに限定してはいけない。日本養豚業のすそ野を広げるには、小規模農家からたたき上げ、中規模化、大規模化へと駒を進める人材の育成が、併せて求められる。
畜産の継承や新規参入が若者たちに受け入れられる衛生環境への転換が望まれる。ゼネコン、商社から銀行まで、農業への新規参入のすそ野が広がっているが、既存農家同様、農産品生産目的の複合化や規模拡大化だ。今、新規参入企業に求められるは「全国中山間耕作放棄地再生による若い新規就農者誘致」による地域活性化への貢献にある。この際、新規参入企業主導による、中山間地への畜産団地の開発と区分賃貸による新規就農者誘致ビジネスによる近代化を手掛けて頂けたらと思う。後継者未定の地元小規模畜産農家も受け入れれば、団地内でのスムーズな第三者継承ができる。地方首長は、農地バンクとの連携を条件に、民間事業者の営農施設の賃貸ビジネス化を容認したい。畜産業の近代化による新規就農者育生支援だけでなく、併せて、山間地でも育ち、粗放栽培で手間のかからない花木園経営との複合化による中山間地再生への民間事業者間競争を巻き起こしたい。
新たな森林経営管理制度による「樹木採取権」がスタートしたが、天然林内に潜む新たな森の恵み(特用林産物)の発掘と創設と商品化が地方活性化には欠かせない。先ずは国有天然林内に潜む花木種からの枝物採取権を市町村や地域森林組合に限定し、認定したい。保安林が多い国有天然林内の枝物採取は制限的基準が必要だ。根っこから伐採する樹木採取権とは異次元の枝葉だけの採取で、採取者側は、庭木の剪定同様、自生花木の元木を母樹として大切に維持しなくては、毎年安定的に収穫できない歯止めがある。ドローン操作での空撮による樹種の見分けと特定化や奥山に点在する大樹からの採取作業が、若い従業者を必要不可欠な人財として迎え入れるよいキッカケとなればと思う。
約1年前、「山間地の花木園化による企業誘致」を内閣府に提案した。今回、「中山間耕作放棄地の花木園一帯化による農業公園化」を新たに提案させていただいた。この提案の裏には、安倍前総理も訪れておられる福島市の「花見山公園」の存在がある。約85年前の養蚕農家が桑畑を桜や花桃等の花木栽培に転換し、次の世代へと継承の途上に花木樹が大木化し、見事な景観を醸し出したため、福島市の要請で、公園として無償提供された農地上の花木栽培園です。相続評価の抑えられた農地であったので、累代での相続に耐えられたともいえる。栽培農家自身が公園として入園料を徴収すれば農地から公園への評価替えとなる。今回の提案も机上の空論ではあるが、中山間耕作放棄地を既存農家の所有のまま、利活用できないかとの期待を込めた提案であることをJA関係者に理解してもらえたならと思う。