画像解析による豚体重推定で 出荷作業を均一・効率化

はじめに

日本の畜産現場では、人手不足や高齢化などの課題があり、これが規模の拡大の障壁になっている。特に養豚業では出荷時の体重が価格に大きく影響するため、体重管理が重要である。

しかし、豚を体重測定するには多大な労力を必要とするため、月齢での一律出荷や目視による体重推定、いわゆる「目勘」により出荷判断を行う農家も多い。

伊藤忠飼料株式会社とNTTテクノクロス株式会社は、畜産業における課題をITで解決する「AgriTech(アグリテック)」分野でコラボレーションを進めており、養豚業での課題解決に向けた取り組みの1つが、この画像解析による豚の体重推定装置「デジタル目勘」である。

『デジタル目勘』の開発経緯

デジタル目勘の開発背景としては、熟練者の目勘をITによって再現、誰でも非接触で簡単に豚体重を推定できる仕組みを提供することで養豚農家の課題解決を目指したものである。

ここで、なぜ出荷時の豚の体重を測る必要があるのか、測ることが養豚農家の収益にどう影響するのかをあらためて説明する。

豚は出荷後、「枝肉重量」「背脂肪の厚さ」「外観」「肉質」などにより、「極上」「上」「中」「並」「等外」の5等級に格付けされ、価格が決まる。

このうち重量は大きすぎても小さすぎても「格落ち」となり価格が低下する。しかし豚は出荷まで毎日約1kgずつ体重増加するため、機会を逸すると手遅れとなる。

また1頭ずつ体重計に乗せて測定する方法は、養豚農家の平均出荷頭数を見れば多大な時間や労力が必要になることは容易に想像できる。豚の体重を自動計量する機械式体重計もあるが、設置スペースが必要で、導入に多大な投資費用が必要となる。

一方、養豚業界には「目勘」や「目視」と呼ばれる豚の外観から体重を簡易に推測する方法がある。これには長年の経験と熟練が必要で推測する人や感覚の違い(飼育する豚の在場密度や日時)で推測値にばらつきが生じてしまう。

こうした人ごとの感覚の違いを補い、推測値のバラつきを小さくすることがデジタル目勘の価値であるとわれわれは考えている。

外観から実体重をピタリと当てるのは究極だが、正解値は体重計の役割であり推定装置はその中間に位置する「新ジャンルの製品」と言えるだろう。

『デジタル目勘』の特長

さて画像による体重測定装置としては、カメラを豚舎天井に固定設置する製品がすでに登場している。しかし群の平均体重を管理するのが主な用途で、豚個体の体重を識別し個別の豚の出荷適正を判別することは難しい。

また機器設備設置の初期コストやメンテナンス・通信費等のランニングコストの大きさが課題である。デジタル目勘は小型携帯端末で通信不要の画像処理方式を採用した。

当初通信回線を用いてサーバ側で画像処理や分析を行う方法も検討したが、 使用者に通信回線の初期・ 維持費用負担が発生すること、また使用農場が通信回線のエリア外である可能性を考慮、導入後すぐ利用でき、推定したい豚の体重を個別把握することを目指した。

当初 Androidスマートフォンのアプリケーションとして開発を進めたが、2018年4月リリース直前に仕様を満たすスマートフォンが終売となったことから、現在約800 g程度で約5時間駆動の専用端末として開発は継続中であり(図1)、2019年度内の発売を予定している。

図 1 現在開発中の専用端末

次に、デジタル目勘による体重推定の仕組みを簡単に解説する。

①豚の特徴量抽出
デジタル目勘は深度情報を含んだ映像を撮影できるデプスカメラを搭載、図2のように豚に対して真上方向から端末をかざして撮影すれば、豚形状の特徴量や距離情報などを瞬時に取得することができる。

図 2 現場での使用例

取得する情報は高精度であり、暗い豚舎内や密集した豚房内でも独自開発の画像処理技術で、周囲の豚や壁との接触を判定、測定対象とする1頭だけを分離・抽出が可能となっている。

②体重推定モデルとの照合
次に、①で取得した特徴量情報を端末内部に保持している体重推定モデルと照合するが、この体重推定モデルをわれわれは「辞書」と読んでいる。

この辞書には、事前に取得した豚測定データ(体高、体長、胸幅、胸囲など)やデプスカメラで取得できる表面積や距離が含まれる。

さらにノイズ除去や平滑化等の前処理加工を施したうえで、機械学習を用いて体重と相関のある有効な特徴量のみを抽出して構築している(図3)。

図 3 取得した豚特徴量イメージ

この辞書に対し、撮影により測定対象の豚から取得した特徴量を照合することで推定体重を算出する。特徴量の1例として上面からの面積と体重の相関を図4に示す。

図 4 特徴量の 1 例「上面と体重の相関」

理論上はさまざまな品種や重さの豚から特徴量を収集すれば、推定値の精度と確度向上につながるものと考えている。

また推定値にバラつきは付き物だが1頭を複数回撮影、その平均値で判断すれば実体重との差は薄まる。ストレスなく撮影できる速度であり、何度も撮影可能である。

開発の課題

携帯型端末の体重推定装置の開発にあたり、固定設置型の体重推定装置にはない難しさがある。まず対象とする豚から測定端末までの距離や傾きが可変であること、また撮影者の操作姿勢の影響を大きく受けることが挙げられる。

豚の姿勢や形が常に変動する中、これら変動する条件を端末の操作性や体重推定モデルでどこまで吸収できるかが課題となっている。

また携帯型端末は任意の豚にこちらから近づき撮影・推定するが、豚が逃げ回るという根本的な課題が存在する。これは端末の機能で解決できるものではなく、運用上の工夫が必要となるだろう。

われわれは養豚現場での使用に耐え、体重推定を安定して実現できる機器仕様を念頭に置いて開発を進めているが、端末の機能提供だけで解決できない現場課題は必ず存在する。

今後も養豚農家の皆さまに運用の知恵をお借りしながら、一緒に使える道具に仕立てていきたいと考えている。

さいごに

最後に、デジタル目勘は格落ちによる養豚農家の経済ロス低減、体重測定作業の軽減化のみならず、養豚農家の技術継承に貢献できるものと考えている。

それは機会を見つけてデジタル目勘で気軽に体重推定を繰り返し行い、目視での体重推定訓練の回数を増やすことが、目勘の習熟につながるものと考えている。

養豚農家の理想としては「人の目で誰でもいつでも高精度な体重判定ができること」であり、人の目だけで出荷作業が行えれば、これに越したことはないはずである。

熟練の養豚農家は人の目で驚くべき推定精度を叩き出す。この「経験と勘」を他の従業員また次世代に継承するためにもデジタル目勘は有効だと我々は考えている。1日も早く養豚農家の皆さまのお役に立てるよう引き続き開発に尽力したい。

◉価格
オープン価格
発売時期:2019 年度内(予定)

注目ポイント !
デジタル目勘はデータの蓄積により進化します。データ収集に協力頂ける農場様を募集中です。

◆相談先
伊藤忠飼料株式会社
TEL:070-3872-6472
E-mail:fukunaga.kaz@itochu-f.co.jp
https://www.itochu-f.co.jp/

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