インターネット、ローカルネット対応型監視装置、畜産業専用に 開発したシステム

ICT 技術を活用し、畜産業専用に開発したシステムである。飼養形態、牛舎構造、畜産業務を把握、すでに 15 年のシステム改良を加えながら、開発を行ってきた。

ユーザ様においては表示端末(携帯電話、PC、TV)すべてに対応できること、メタル回線の届かない地域でもモバイル回線を利用して稼働できるように改良を進めてきた。分娩事故が一度発生すれば、多大な喪失となるため、無事故支援にICT 技術が大活躍。すでに年間で数億円の事故防止に役立っている。

はじめに

弊社は数少ない畜産分野でのカメラを中心とした監視システムの専業メーカとなった。ここ数年来、IT 分野の企業などが農業のスマート化に参入する例を多く見かける。筆者自身も大手のメーカや大学等のプロジェクトに参加したことがあるが、現場の要望を取り入れながら ITを活用し問題解決を図ることは容易ではないことを実感している。

役に立つシステムを作るためには現場の声をよく聞く必要がある。いくら高度な技術があっても現場の実情を知り使えるシステムを提案しないと、普及はおろか使ってさえいただけない。弊社では平成 16 年から畜産監視システム養牛カメラの開発を開始し、現在までに全国の多くの畜産農家の方に導入いただいてきた。カメラの調子が悪いとすぐに農家さんから連絡が入ってくる。

それだけ役に立つシステムになっていることと自負している。本稿では、開発の発端、畜産農家の現状と課題、またそれに対する監視システムの概要を紹介する。

発端・経緯

弊社のある新見市は、岡山県の最西北端 人口30,685 人(平成 28 年)の中山間地域である。新見市のシンボルは「千屋牛」。日本最古の蔓牛(つるうし)の系統をひく伝統ある黒毛和種で、平成19 年 6 月に商標登録認定を受け、“千屋牛ブランド”で知られている。しかし、農家の高齢化、後継者不足などの課題があり小規模な畜産農家が継続していくのが困難な状況があった。

そのような状況下、平成 15 年の「新見市情報化研究会」で当時の石垣正夫市長から畜産農家の負担を軽減するために「携帯電話で牛を飼えるように」との課題が出され、開発がスタートした。

しかしITエンジニアの筆者には何をやればよいのか皆目見当もつかないため、牛舎に通うことから始めた。当初は、お互いの業界用語もわからず話がかみ合わなかったが、背広を脱ぎ、長靴に履き替え半年通ったころにはいくつかの課題が浮かび上がってきた。

背景―農家の現状・課題

肉用牛の生産農家は、高齢化や後継不足などで小規模層を中心に減少傾向が続いている。一方で飼育頭数は増加しており、農家の一戸あたりの規模は拡大してきている。そのため、少ない人数で多くの牛の世話をすることになり農家への負担が増加している。

牛の世話の中で特に重要なことは発情を見つけタイミングを逃さず種付けを行うことと、出産時の事故を防ぐことである。発情のタイミングを逃し受胎できない場合、種付け費用が無駄になるばかりか、空胎期間が増えて生産性が低下する。

また、せっかく受胎しても出産時の事故により子牛や親牛が死亡するようなことになれば大きな損失になる。発情のわずかな兆候を見逃さないように、また出産時には事故が起きないように、長時間牛舎に張り付き、時には寝泊まりをしての観察、監視が必要になり、これが農家の大きな負担になっている。

弊社の畜産監視システム養牛カメラは、牛舎を遠隔から監視することにより、このような農家の負担を少しでも減らそうとして開発されたものである。自宅や事務所、出先から牛の様子を観察することができ、もしもの時は牛舎に駆け付け事故などを未然に防ぐことができる。

安定的に稼働させること

養牛カメラで牛を見守ることは農家の負担の軽減につながるが、発情や出産の兆候はいつ現れるか予想が難しいため、監視システムは 24 時間安定稼働が必須条件になる。

弊社の製品は北海道から沖縄までほぼすべての地域に導入されており、それぞれの地域では牛舎の構造や自然環境も異なるため、24 時間安定的に稼働させるためには様々な対応が必要である。安定して作動させるために、温度変化への対応、積雪に対する対応、ネズミなどの動物からの被害を防ぐ対応などが必要となる。

これらはシステムのハードだけではなく、設置場所の工夫や機器の組み合わせ、運用方法など様々なノウハウが必要である。またサポート体制に力を入れており、リモートメンテナンスや故障時の代替機の提供などを行い、牛の監視を途切れることなく行える体制を築いている。

標準的なシステム

養牛カメラには無線 LANが内蔵されていて通信ボックスと接続され、通信ボックスからインターネットに接続されている。これにより、外出先や自宅で牛舎の様子を確認することができる。養牛カメラスタンダードの仕様を図 1 に、ドーム型の仕様を図 2 に、標準的な使用例を図 3 に示す。

図 1 スタンダードの仕様

図 2 ドーム型の仕様

図 3 標準的な使用例

養牛カメラの取り付け

養牛カメラを牛舎のどの位置に取り付けるかが、活用の上でのポイントになる。養牛カメラのスタンダードの場合、1 台のカメラで 2 から 3 の牛房を監視することができる(図 4:例 1、例 2)。ドーム型の場合は高い位置に設置し全体を見渡せるが、柱や牛房間の仕切りなどで死角が発生する場合があるので取付位置に注意する必要がある。

養牛カメラを活用するためには、観察目的にあった最適な場所に取り付ける必要がある。そのため、専用金具も用意している。図 5 の左側から柱、パイプ、H鋼、梁への取付け例である。これらを活用して次に述べるような場面で牛の観察、監視を行う。

図 4 取付例

図 5 専用金具による最適な取付け例

分娩の監視

カメラで分娩兆候を確認する。出産が近づくと、分娩房内をグルグル回ったり、立ったり座ったりの行動が見られる。陣痛により蹴り上げ行動や、お尻を舐める仕草が見られるようになる。

第一破水があり、次に子牛の足が出てくる様子が観察されるが、その時に爪の向きが下向きなら逆子なため、異常分娩となり対応が必要になる。そのほかに破水に血液が混じっていないか、色はどうか、濁りはないかなどの確認をする。片足しか見えなければ中で異常が起こっている。

これらの点を観察して総合的に判断し異常兆候を早期に発見し早期対処することにより事故を未然に防ぐ。また子牛は誕生後に初乳を飲むことにより免疫力が得られる。もし初乳を飲んでいない場合は 24 時間以内に人工初乳を飲ませる必要がある。

初乳を飲んだか飲んでいないかの判断がつかない場合は、録画機能を使って確認することができる。これらの監視や観察をするためには、カメラのズーム機能や音声よる鳴き声のチェック、照明コントロールや録画などの機能が求められる。

出産時の様子

初乳を飲む子牛

子牛の監視

子牛は体調を崩しやすく疾病の予兆を見逃すと重篤になり死亡に至るケースもあるため、体調管理は特に重要である。子牛の健康状態はカメラでの遠隔監視で比較的容易に判断できる。カメラによる定期的な観察により、きめ細かく対応で、風邪を早期に発見し肺炎に移行することを予防したり、肺炎になった場合も迅速に対応し、他の牛への感染を防ぐ。

発情の監視

発情は、監視が手薄になる明け方に多いため、見逃してしまうことが多くなる。スマートフォンによる遠隔監視では自宅からでも発情を発見し、タイミングを逃すことなく種付けの準備ができる。また、録画を確認することより、どの牛が発情しているか、開始時刻がいつかを特定することができるため、種付けタイミングの精度を高めることができ、種付けの成功率を上げ経営効率を高めることができる。

発情時の行動

肥育の監視

肥育牛では出荷数週間前に起き上がれなくなり、発見が遅れると呼吸困難になり死亡するケースがある。これまで育てた牛の出荷前の段階での死亡は特に損失が大きくなる。肥育は大規模な牧場が多く、深夜 2 回を含む定期見回りを広大な牧場で行っている。

牛が起立不能になった場合でも早期に発見することができれば、比較的簡単に起き上がらせることができ、問題は発生しない。牛舎を移動しながらの定期的な観察は負担が大きく、カメラによる遠隔監視は見回りの負担を大幅に軽減することができる。

教育・研究機関での利用

前述の発情や出産時また出産後の子牛の状態などを録画することにより、教育や研究機関で活用することができる。発情や出産のタイミングは予想が難しく、教育の場で実際の様子を見ることはなかなかできない。大量の録画データで疾病や作業分析を行い、研究に役立てることができる(図 6)。

図 6 教育機関での導入例

さいごに

当時の新見市長から「携帯電話で牛を飼えるように」との課題が出され、開発がスタートしたのは先に述べたとおりである。それから 15 年ほどが経過して、全国の畜産関係者の方々から、怒られ、教えられて、やっとここまできた。高度な技術であっても、現場で使えるものでなければ意味がない。

けっして新しい技術を押し付けるようなことはあってはいけないと思っている。これからさらに ICT 技術は発展するであろう。その技術を畜産業界で役立つように研究開発し、導入の容易さとバランスの取れたコストパフォーマンスを追及していく所存である。最後になったが、これまで、かかわりのあったすべての方に感謝申し上げる。

◎初期導入システム価格
25 万円~60 万円

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◆相談先
株式会社ネットカメラ
E-mail:info@net-camera.jp
HP:http://net-camera.jp/

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