5 分で始めるスマート農業【誰でも簡単に環境を「見える化」する温室向け 環境モニタリングサービス】

「あぐりログ」は ITの力で温室内の環境を「見える化」する、温室向け環境モニタリングサービス。PCやスマートフォンで、温室内の温度や湿度、二酸化炭素濃度といった環境データをいつでもどこでも確認できる。従来の勘や経験といった感覚に基づかない、科学的なデータを取り入れることで、作物の生産性や品質を向上させるツールとして活用されている。拠点である愛知県を中心に稼働数は700台を超え、全国での導入が進んでいる。

開発の経緯

あぐりログの開発は 1 つの研究事業から始まった。その研究事業は、「施設園芸でトマトの収穫量最大化を目指す」というもの。試験場の研究員が温室の環境値データを採集、大学の研究者がデータを解析、温室の制御機器メーカが解析データに合わせて温室の環境設定を行うという、いわゆる「環境制御」だった。その研究事業は 2 年の歳月を経て、WEBサイトから温室の環境値データをグラフで閲覧、制御機器の操作も WEBからできる、というところまで辿り着く。

この「環境制御」の研究事業で、「温室の環境値データをWEBサイトからグラフで確認」という現在のあぐりログサービスの原型が生まれたのである。研究事業終了後も、農業をITでサポートするこの仕事を続けたいという想いから、あぐりログの開発元である株式会社IT工房Zが立ち上がる。株式会社IT工房Z設立当初のサービスは、「あぐり日誌」という営農日誌サービス。しかしサービスの展開を模索して生産者からのヒアリングを続けるうちに、生産者は「温室内の環境が心配」であるということが浮かび上がってくる。生産者は自身の温室の様子が日々気になってしょうがない。生産者にとって作物の管理に失敗すれば大惨事なので当然のことである。

しかし彼らは温室内の環境を市販の温度計や乾湿計に頼って計測はしているものの、二酸化炭素濃度などを計測するには高価な計測装置を導入する必要があり、その導入に踏み切れていないでいた。「温室内の環境が心配」でしょうがないにもかかわらず、生産者が温室内の環境を知るには、直接温室に赴いて設置した温度計や乾湿計を目視で確認するしかない。そして、植物体の状態を五感と経験に頼って良し悪しを判断するほかないのである。つまり、自分の温室の環境について、常に正確に把握している生産者は意外にも少なかったのである。温室の環境条件に品質や収量が左右される彼らには、栽培に注力するのはもちろん、環境の管理にも注意を払わなければならず、定期的な「見回り」というコストがのしかかっていた。

「このような状況を何とか改善できないか?」
「管理の負担を軽減し、もっと栽培に集中してもらえないか?」


図1 あぐりログの試作品

これが、あぐりログ開発のきっかけである。最初に開発された試作品(図1)は、温室内に既製品の通信機器やセンサ制御機器が内蔵されたウォルBOXとセンサを設置し、PCやスマートフォンで環境値データを閲覧できるというものだった。この試作品は、遠隔で環境のモニタリングができることは評価されたものの、ウォルBOXでは設置に手間がかかりすぎる上に、既製品の組み合わせではどうしても高価になってしまうという2点が課題であった。この2点を改善し、最初の製品版あぐりログ・ログ BOX(図2)を製作した。同時に、愛知県のJAグループなどとも意見交換を行いながら、温室環境をITで「見える化」する、あぐりログサービスが開発された。


図2 現在のあぐりログ・ログ BOX(写真は第三世代ログBOX)

「あぐりログ」の特徴とその独自性

あぐりログサービスは主に以下の特徴・独自性をもっている。
➀いつでもどこでも温室の環境を確認できる
➁画面の視認性・操作性を重視し「誰でも」使える
➂安価かつ設置が簡単ですぐに始められる
➃計測値が異常な値を示したときのお知らせメール
➄互いにフォローし合って情報&ノウハウ共有

1) いつでもどこでも温室の正確な環境データを確認できる
専用のログBOXは温室内で1年365日24時間、温度・湿度・二酸化炭素濃度等の環境値を正確に測定し続ける。ログBOXには通風機構が採用されており、これによって正確な温度湿度を計測できる。また二酸化炭素濃度センサの計測値を安定化させるため、二酸化炭素濃度校正機能が搭載されている。取得したデータはクラウド上のサーバに5分ごとにアップロードされ、あぐりログのハウスモニタ画面にてリアルタイムで計測値の監視が可能である。計測値の監視は PCやスマートフォンのインターネットブラウザで閲覧可能なため、データの確認のために温室まで赴く必要はない。遠隔地にいながらにして、自身の温室の環境について、明確な数値データとして客観的に把握することができる。また、センサで計測した値以外にも、計測した値を基に自動で出力したデータも併せて監視が可能である(表1)。


表1 ※土壌EC一体センサは現在ロックウール培地でのみ利用可能

また、測定したデータはサーバ上に日々蓄積される。蓄積された過去のデータはいつでも遡って確認が可能なので、過去と現在のデータを比較し、作物の成長を阻む原因を検証したり、より効率的な栽培を行うためのヒントを得ることができる。将来的には、作物の収量や品質が良かった年の環境データを知識財産として活かすことも可能だろう。

2)画面の視認性・操作性を重視し「誰でも」使える
当然のことだが、生産者の中にはPCやスマートフォンといったIT機器の取り扱いに不慣れな人が少なくない。そういった現状の中で製品を利用してもらうために注力した箇所が、実際にユーザが見たり操作したりする画面のUI(User Interface)とUX(User Experience)である。実際にユーザが計測値を確認するハウスモニタ画面は、PCやスマートフォンに標準搭載されているインターネットブラウザでアクセスすることが可能。サービス利用にあたって、新たにソフトウェアやアプリケーションを導入する必要はない。ハウスモニタ画面は ITに不慣れな人でも「直感的に視認できること」「直感的に操作ができること」に拘ってUI・UX 設計がなされている。色や記号を活用してできるだけ画面をシンプルに、計測値の表示はグラフを中心に。「マニュアルを読み込まなくても使える」ことを重視している(図 3)。


図3 ハウスモニタ画面

3)安価かつ設置が簡単ですぐに始められる
あぐりログの設計は、市販品を組み合わせて製作することで高価格になってしまった試作品の経験を活かし、可能な限りシンプルに、センサと通信機能を連動することに重点を置いている。もともと同様の計測機器が高価であり生産者がなかなかモニタリング機器の導入に踏み切れていなかったという背景もあって、「生産者が試してみたい気持ちになる価格」をその構造の単純化によって実現している。

また、あぐりログは導入にかかる価格以外のコストも大幅に削減している。設置作業はセンサを集約した専用のログ BOX(縦横20cm、奥行10cm)を温室内に吊り下げて、100V電源を繋ぐだけ(図4)。電源を繋げば即座に環境の計測とデータの記録が開始され、インターネットブラウザでモニタリングができる。面倒な初期設定は存在しない上に、設置作業は利用者自身で簡単に済ませることができる。このようにして、機器導入までの障壁を可能な限り低くしている。


図4 あぐりログの設置風景

4) 計測値が異常な値を示したときのお知らせメール
あぐりログには、事前に登録した温度、湿度等の値から、著しく上がりすぎたり下がりすぎたりした場合に、注意喚起の「お知らせメール」をユーザのメールアドレス宛に送信する機能が搭載されている。この「お知らせメール」機能によって、ユーザはモニタリングの画面と睨めっこする必要なく、作物への悪影響を及ぼす事態に即座に対応することができる。環境の監視にかける時間的コストを削減することで、ユーザはより「栽培」そのものに集中できることになる。

5)互いにフォローし合って情報&ノウハウ共有
あぐりログには SNSのように、お互いをフォローし合える「フォロー&フォロワー機能」が搭載されている。この機能によって、生産者は栽培品目を生産している仲間同士でお互いをフォローし合い、計測したデータを共有することができる。共有したデータは自分の計測値グラフに重ねて表示され、温室の環境の違いが一目でわかるようになっている。「良い栽培環境とそうでない環境は何が違うのか」を具体的なデータによって比較することで、従来の勘や経験といった感覚に基づかない、生産性を向上させる科学的なノウハウを獲得することが可能である。これによって、経験の少ない若手農家でも栽培の上手な熟練農家の数字を見て真似をし、少ない試行回数で最適なPDCAサイクルを確立することができる。

導入実績

1)導入地域と稼働数
拠点を置く愛知県(県内稼働は 600 台弱)を中心に、販売パートナーのいる高知県と、北は北海道、南は鹿児島県まで、全国での導入実績がある(図 5)。稼働しているログ BOXは780台を超えている(2018/6 現在)。


図5 あぐりログ導入マップ

2)栽培品目
トマト、キュウリ、ピーマン、ナス、イチゴ、ミカンなどの野菜や果物、バラやキクなどの花卉類が中心。ハウス栽培で生産される多くの作物の生産において、導入が進んでいる。

3)あぐりログ導入による効果の例(ユーザ体験談)
参考として、これまでの実際のユーザのあぐりログ導入による効果の実例を、いくつか以下に紹介する。

[例 1]環境制御機器の導入、作物の収量向上
従来では目で確認することのできなかった二酸化炭素濃度が「見える化」され、データが変化することで作物にどのような影響があるのか目で追えるようになった。よって、温室の環境制御機器である二酸化炭素発生器の導入を決断。効率的な二酸化炭素濃度についてはまだまだ勉強中であるが、作物の収量が向上した。

[例 2]事故の防止に貢献
あぐりログの遠隔モニタリングによって、温室内の温度が異常な低温を示していることに気づき、事故を未然に防ぐことができた。

[例 3]労働管理の円滑化に貢献
正確なデータの蓄積による、正確な積算温度の確認ができるようになったことで、作物の収穫時期を事前に予測できるようになった。これによって、パート募集の時期を適切に設定できるようになった。

[例 4]ノウハウの言語化
他の生産者とグラフを比較することで、夜明け前に加温開始している様子を確認し、その目的を知ることができた。経験や勘、継承したノウハウで行っている環境の制御がデータとなって形に表れるため、話し合いの中で今まで曖昧な部分であった収量や品質向上のためのノウハウが言語化された。

今後の展望

あぐりログのサービスとしての今後の展望としては、まず「蓄積されたデータを活用するサービス」の展開がある。これはつまりサーバに蓄積された計測値を自動で解析し、病気の予防情報や、収量の予測情報をユーザに提供するサービスである。モニタリングによって取得したデータの活用方法についてはユーザである生産者に任せている部分が大きいのが現状である。そこで、ただ計測したデータを提供するだけでなく、蓄積したデータに基づいて「どんな行動を取ったら良いのか」という情報もユーザに提供することで、あぐりログを作物のさらなる収量や品質の向上に役立ててもらおうという狙いである。あぐりログの製品としての今後の展望としては、「地下部の環境モニタリング」や「環境ムラを知るための多点計測」が挙げられる。

現在あぐりログで計測できる項目は、温度・湿度・二酸化炭素濃度・日射強度など、地上部の環境データがほとんどである。この点について、地上部だけでなくより正確な計測が困難である土壌水分量や土壌 ECといった地下部の正確な環境データ計測も充実させていきたい。またあぐりログ 1 台に対して温室が広ければ広いほど、「環境ムラ」を考慮した場合計測データが本当に正確であるかどうかの判断が難しくなる。この点について、多点計測を実施し、どの程度の環境ムラが認められるのかも「見える化」していきたい。これら既存サービスの進化に近い部分を派生させたうえで、目指すべきところはモニタリング結果を利用した環境制御機器の遠隔操作である。

生産者が直接温室に赴かなくとも、モニタリングで環境を把握し、その結果に基づき暖房機・換気扇・二酸化炭素発生器といった制御機器を遠隔で PCやスマートフォン上からオンオフなど簡易な操作を可能にするということである。環境のモニタリングから実際の環境制御まで一体となって WEB 上で行えるようになれば、生産者が環境管理にかけるコストは飛躍的に削減される。「管理の負担を軽減し、もっと栽培に集中してもらいたい。」創業当初からのその想いを胸に、あぐりログはこれからも ICT 農業に貢献していきたい。

◎価格
あぐりログ標準セット ¥75,000
システム年間利用料 ¥24,000
※個人で導入されるお客様の場合、2 台目以降のシステム年間利用料は¥15,000。
愛知県 お近くの JAまたは、IT 工房 Zで直販
鹿児島県 お近くの JAまたは、IT 工房 Zで直販
それ以外の地域 IT 工房 Zで直販

◆相談先
株式会社 IT 工房 Z
E-mail:info@itkobo-z.jp
HP:http://itkobo-z.jp/

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