衛星画像データと気象データを 融合した営農支援情報サービス

有人宇宙システム株式会社(以下、当社)は、国際宇宙ステーションにおける JEM( 日本実験棟“きぼう”)の運用・利用業務を事業の柱に衛星リモートセンシングの技術を活かした衛星画像と地理空間情報の自動処理技術に取り組んでおり、宇宙技術の商業的価値を追求しており、人工衛星から撮影した衛星画像データの農業利用の研究、サービスの提供を進めている。

衛星画像について

最近では、Google Earthなどでも利用され身近になってきた「衛星画像」であるが、一言で衛星画像といっても画像を取得する方法にいくつかの種類がある。デジタルカメラと同じ原理で光を利用して撮影する「光学衛星画像」と人工衛星が自ら電波を発して物体から反射した電波の位相により形を認識、撮影する「レーダ衛星画像」に大きく分けることができる。

これらの衛星を使って地上(地表)を観測する技術は「リモートセンシング」または、「衛星リモートセンシング」と呼ばれている。今回は、「光学衛星画像」を処理した衛星画像データを農業分野に利用した当社の農業リモートセンシングへの取り組みをまとめた。

はじめに

衛星画像とGIS(Geographic Information System:地理情報システム)は、農業分野において米の作付面積推定、米のタンパク値の推定、土地利用の把握などに利用されており、米の品質向上と生産性向上および販売戦略等に資することを目的としている。

しかし、①衛星画像の価格が高いこと、②時間分解能が低く米の成長プロセスを監視できないこと、③衛星画像を活用するための正確な GISが整備されていないなどの理由により衛星画像データの農業分野での実践的利用が進んでいない。

この理由は、①衛星の周回頻度と農業作業時期のミスマッチの問題、②衛星画像データの利用コストが国等の補助金なしに利用できる価格からは程遠い等の理由により、これまで数多くの衛星画像データの農業分野への活用が研究されたが、研究期間が終了すると補助金もなくなり、すべてが利用者負担では賄えない経費が必要なため利用者側も衛星画像データの利用を諦めるといったパターンの繰り返しとなった。

衛星画像の課題

本質的に衛星画像データを利用しがたい最大の理由が、衛星周回頻度と農業作業(栽培作物生育モニターによる作物管理)のミスマッチである。農業作業は通常7日間隔程度での必要作業決心が求められる。

しかし、衛星の周回頻度は高いもので2日、低い場合は30日以上である。このため、図1のようにわが国の食料基地である北海道、東北、信越、九州は、農繁期に被雲率が高くこの条件で農作業に利用できる衛星画像データを提供するためには、衛星周回周期が 1 回/日以上必要となる。

図1 10日間連続画像取得で実現可能な地域別等価被雲率

現在、利用可能な衛星でこれを実現できるのは、衛星群の利用のみであるが、農業利用に限ると解像度20~10mの衛星群はDMCiiしかなく、5m~10m 解像度であればRapid-eye衛星群もしくは、SPOT6/7が利用できるが、衛星撮影範囲が狭く必ず毎日観測したい場所のデータを取得できるかは保証の限りではない。

また、衛星画像のコストは解像度が高く(細かく)なるにつれて非常に高価となり、補助金なしに農繁期の成長モニターに利用できるレベルではない。幸いなことに、2016年からESAのSentinel2A(10m解像度)が無料利用できるようになり、今後、国内の農業リモートセンシング分野での活用が期待できる。
 
低解像度であれば、NASAの MODIS、SNPPが毎日利用可能である。MODISの植生指標(NDVI)を 7~10 日間合成し雲なしデータを利用すれば、農繁期の栽培作物モニタリングに利用可能である。

ただし、解像度は250mであり、約6haが画像の1ピクセルになるため、国内では利用できる地域は、北海道の十勝、根室での圃場モニターもしくは、東北の単一稲品種栽培域(秋田:あきたこまち、山形:はえぬき、新潟:コシヒカリ)で、圃場地域全般の生育状況をモニターして同月同旬期の過去データと比較する目的に利用可能である。

開発経緯

 日本の農繁期に衛星画像データを利用するには、農作業周期とでの決心事項を支援する衛星周回頻度が必要となる。しかし、この要求を満足しうる衛星は、現状運用されてない。この問題を解決するため、われわれは DMCiiの衛星群(5 機の内)2機の22m解像度衛星を利用して、稲の生育モニターを実施した。

稲栽培現況特性は、はえぬき(約60%)、コシヒカリ(約 40%)であり、栽培域が比較的品種別に纏っているため、MODISの250m解像度でも、地域ごとの生育モニターが可能である。農作業の重要な分齧終了時から幼穂形成までの期間(6月下旬~7月中旬)の衛星画像データ取得を計画し、5回の画像取得に成功した。

また、MODIS の10日間の合成植生指標(NDVI)を稲生育期間全般で作成し、過去5年間の同一地域同旬期のデータ比較し利用者と予測できた。収穫後の結果もほぼ予測に近いものであった。

当社では、2012年以降、DIMiiコンステレーション以外に、Rapid-Eye、SPOT、の衛星コンステレーションの利用、さらに、LandSat7,8を利用して国内外の農業モニタリングを実施している。今後、Sentinel2A,Bのコンステレーション利用が2017年から可能となるため、より廉価で高品質の農業リモートセンシング情報の提供が可能となる。

開発事例

◎ NDVIによる稲作のモニター
 東北地方の圃場約1,000haを6地区に区分し各地域の稲の生育状況を過去4年の状況と対比してモニターを実施した。利用した衛星画像データは、NASAが2003年から運用しているTerra、Aquaに搭載しているMODISセンサから10日間雲なし合成NDVIを作成し、それにより区分した6地区の稲作圃場地域モニターを実施した。モニターデータは、UK-DMCの場合と同様に圃場マスクを利用して、稲作圃場以外のデータを極力排除した。

図2に取得した6地域のMODISの10日間合成NDVIのモニター結果を示す。生育前半は、若干低温傾向を反映して生育が遅れたが幼穂期までには平年並みに戻り、登熟期間もほぼ平年並みであったことが観測される。

ただし、No1~No3 は他と比べNDVI値が少し低く、稲植体に何らかの問題があった可能性がある。事実、この地区の収量は、平年並みより若干少なく、玄米粒の厚みが例年より薄い(千粒重が軽い)結果となった。

図2 MODISの10日間合成 NDVIにおける稲作モニター結果(紫線)

◎気象推定情報
収穫量推定、収穫適期推定への利用を想定して、気象庁アメダスデータ(アメダス点)と圃場までの距離とそれぞれの計測気象値の内(気温、降水、日照量(アメダス値では日照時間を基に近藤の式から日照量(MJ/m 2 ))の調和平均法により1km四方ごとの内挿気象値を算出するプログラムを作成した。図3に概要を示す。本プログラムは、収量予測精度向上に寄与した。

図3 調和平均法による気象推定情報の概要図

◎収量予測
圃場(位置付)の収量を、移植後~出穂期までの累積気温(℃)、累積降水量(mm)および累積日照量(MJ/m 2 )の説明変数を利用して出穂時期で収量を予測するとどの程度の誤差となるかを検討した。

従来、小麦等の穀物の収量予測は、分齧終了時、出穂時期もしくは、登熟中盤で実施している。米の場合は、出穂以降登熟中盤までの、累積温度、降水、累積日照量の内3点もしくは2点の組み合わせで実施している。われわれは、移植後~出穂期までの累積気象値で予測してみることとした。

実験対象の26圃場(位置付)の出穂時期における、収量予測をNDVI(出穂時期)、移植から出穂までの累積気象値(降水、気温、日照量)を説明変数として推定した。図4 に圃場別実測収量と予測収量を示す。この26圃場の栽培品種は、はえぬき、コシヒカリ、つや姫の3品種である。

図4 圃場別予測収量と実収量の比較
予測誤差は10%以内であり、予測時期としてはかなりよい精度をもつと考える。

今後の展望

当社の提供する情報サービスでは、あらかじめ決まった衛星画像データを利用するのではなく利用者の関心ある地域や品種、情報を必要とするタイミング等々によって最適な衛星とセンサを提案している。特に当社では、Landsat7,8 や Sentinel2Aなど海外の政府機関が運用する衛星画像データを積極的に活用するメリットを利用者へ提案している。

商業衛星画像データと比較して圧倒的にコストが抑制可能
関心地域によっては、複数の衛星画像データの利用や隣接するシーンを組み合わせることが可能
撮影頻度を増やすことで気象条件による撮影ロスのリスクを抑える工夫
撮影頻度の増加=(イコール)費用の増加に直結しないこと
広い範囲を同一条件で撮影できる衛星画像データの特長を生かす

図5 東北地方を撮影した Sentinel2Aのトゥルーカラー画像

これら利用者目線で様々な工夫に取り組んでおり、今後、GISや現地観測、気象情報など様々な情報を複合的に組み合わせることで精度向上と水稲以外の品種への技術応用など農業分野全般に利用できるリモートセンシングサービスの充実を進めている。参考として、図5にSentinel2Aで撮影した東北地方の画像を紹介する。圃場の区画も鮮明に目視判別できこれからの利用に期待できる。

※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載

◎価格
品種や面積、提供方法などお客様のご要望により価格が異なるので要相談。

Tips
海外の機関が運用する地球観測衛星画像を利用したユニークなサービスをご提供。当社のサービスは、耕作期間を通して定期的に情報をご提供いたしますので、知りたい、見たいタイミングを的確に捉えます。費用対効果の高いご提供価格で生産者様から商社様まで幅広いニーズにお応えいたします。

◆相談先
有人宇宙システム株式会社
TEL:03-3211-2060
E-mail:jamss-sales@jamss.co.jp
http://www.jamss.co.jp/

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