農業者とともに成長する 自律多機能型農業ロボット「DONKEY」

日本総研は、「農業者みなが儲かる農業=『アグリカルチャー4.0』」という次世代の農業像を提唱してきた。その一環として、農業者を助け、農業者とともに成長する自律多機能型農業ロボット「DONKEY」を構想し、企業・大学・農業者とともに技術開発・実用化を推進している。

DONKEYは自律移動や追従が可能で、アタッチメントの換装により多岐にわたる農作業に対応できる。DONKEYから得られたデータを高度に分析して農業者にフィードバックすることで、儲かる農業の実現に寄与する。

背景

日本の農業は、農業就業人口の減少、耕作放棄地の増加といった深刻な課題に直面している。農業産出額は 10 兆円を割り込み、一時 8 兆円台にまで減少した(直近 2 年は、政府の推進する農業の成長産業化政策等の効果もあり、若干の回復のきざし)。

特に注視すべき点が離農者の増加である。高齢者を中心とした離農の増加により、販売農家数は1990 年の半数程度にまで減少する結果となった。

現在、農業就業人口は 200 万人を切る状況に陥っており、あわせて農業者の平均年齢は約 66 歳となっている。加えて、離農者の増加は耕作放棄地(使われていない農地)の増加を引き起こす。2015 年時点の耕作放棄地面積(主観ベース)は実に 42.3 万 haにも至る。

さらに弊社調査部の試算では、2035 年には「農業者 100 万人時代」が到来すると推計している。従来の農業政策ではこれらのマクロ指標をもとに「農業者保護の政策」が講じられてきたが、近年風向きが変わりつつある。それは農業者の競争力を強化し、農業を儲かる産業にしようという考えが広がっていることである。

そのような視点から今の日本農業を改めて見つめると、この状況を「ピンチ」ではなくむしろ「チャンス」と捉えることが可能と考える。

「農業就業者の減少」というネガティブな現象を、「1 人当たりの農地・マーケット規模の拡大」というポジティブな要素として捉えるという逆転の発想によって、日本農業の未来に一筋の光明を見出せるのである。

ただし、単に今までの営農スタイルを踏襲するだけでは、日本農業の V 字回復はなし得ない。それは農業者の減少が続いた過去半世紀の結果が物語っている。

そこでわれわれ日本総合研究所は、より少ない農業者でも高付加価値な農業を展開可能で、農業者みなが儲かる次世代農業モデル「アグリカルチャー4.0」を提唱し、その実践として農業者を助ける農業ロボットの開発・事業化に着手した(詳しくは拙著『IoTが拓く次世代農業 -アグリカルチャー4.0 の時代 -』(日刊工業新聞社)参照のこと)。

開発の経緯

われわれ日本総合研究所は、アグリカルチャー4.0 を実現するためのソリューションとして、自律多機能型農業ロボット「DONKEY(仮称)」(以下、DONKEY)を考案した(図 1、2)。DONKEYの基本コンセプトは「農業者に寄り添うこと」である。

DONKEYの最大の特徴は、ベースモジュールとアタッチメントの 2 種から構成されている点にある。センサ、CPU、電源等が搭載されたベースモジュール(本体)も共通化してコストダウンを図るとともに、様々なアタッチメントを換装することで、播種・除草・施肥・農薬散布・潅水・摘果・収穫等の多岐にわたるシーンで農業者を支援することができる。

図 1 DONKEYのコンセプト CG
出所:株式会社日本総合研究所

図 2 DONKEY(プロトタイプ)の概観
出所:株式会社日本総合研究所

それにより、単機能ロボットと比べて、年間の稼働率が飛躍的に向上し、結果として農業者の収益向上に貢献する。このような新たな農業ロボット DONKEYの開発を推進するため、日本総合研究所は知的財産の取得を進めるとともに慶應義塾大学と共同研究を行ってきた。

そして 2017 年 11 月には、DONKEYの仕様・用途に加えてビジネスとしての可能性を検討するため、同大学や各種機器メーカ、ファイナンス、商社、中山間地域として多くの農業課題を抱える栃木県茂木町などが参加する「DONKEY 開発コンソーシアム」を設立した。

当該コンソーシアムでは DONKEY 本体の開発に加え、DONKEYを活用したデータ駆動型農業のシステム開発を推進しており、農業者の負担軽減と収入拡大を目指している。 

DONKEY 開発コンソーシアムでは、2017 年度より栃木県茂木町にて実証事業を継続的に実施し、その結果を踏まえた改良を進めている。

現地の農業者から DONKEYのコンセプト・機能に対して高い評価が得られており、2018 年度下期から 2019 年度にかけて茂木町等の複数の農業者への最新バージョンの導入を予定し、そして 2019年度以降の事業化・一般販売を計画している。
(注)「DONKEY」は 2018 年 7 月 1 日現在の仮称。

DONKEYの特長

1)アタッチメント換装による多機能性の発揮

スマート農業ブームとも言える現在、国内でいくつもの農業用ロボットの開発・実用化が進んでいる。しかし一部の製品は残念ながら農業者からの評価が芳しくない。最大の理由がコストパフォーマンスの低さである。特に高価な単機能ロボットは苦戦を強いられている。

たとえば、ある作物の収穫に特化したロボットは、その収穫期が終わると倉庫に眠ることとなり、多品種を栽培する農業者は導入を躊躇することとなる。

そこで DONKEYはベースモジュールを安価に提供し、アタッチメントを交換することで、除草、播種、運搬、収穫、鳥獣害対策など多様な用途、かつ様々な作物で活用可能な多機能性を確保している。

まず、ベースモジュールには環境認識、制御、通信、給電等の機能が備わっており、高度な制御により農業者の自動追従、圃場内の自律走行が可能である。

「ベースモジュール+アタッチメント」という柔軟性の高い仕組みにより、年間を通じての稼働率が飛躍的に上がり、収穫物当たりのロボットのコストは劇的に低下する。

このような独自性は農業者に寄り添い、農業者とともに成長するというコンセプトを掲げ、常に農業者目線を意識し、栃木県茂木町の圃場で農業者とともに汗をかきながら検討・開発を進めてきた成果だと自負している。

図 3 栃木県茂木町におけるプロトタイプを用いた農業者デモンストレーション
出所:株式会社日本総合研究所

DONKEYの活用ケースをいくつか紹介しよう。図 3 は DONKEYの自動追従機能を活かした収穫支援機能である。DONKEYは収穫作業を行う農業者の位置を認識し、一定距離の間隔を保ちながら自動で追従する。農業者は収穫した農産物を自ら運搬する必要はなく、DONKEYに搭載されたコンテナに投入する。

これにより、体力の高くない高齢の農業者でも作業が行いやすくなる。また収穫時には、DONKEYに接続された計量ユニットにより、「いつ、どこで、どれだけ重量が増減したか」を自動計測しており、圃場内の詳細な収穫量や品質を把握することができる。

また、図 4 はDONKEYにイノシシ撃退用の超音波発生装置を装着したものである。DONKEYの自律走行機能や画像分析機能と、市販の超音波発生装置を組み合わせることで、鳥獣害防止ロボットとなるのである。

DONKEYのアタッチメント開発はオープンイノベーションにより推進しており、今後さらに多様なアタッチメントの早期の実用化を見込んでいる。

図 4 鳥獣害防止アタッチメントを装着したDONKEY(プロトタイプ)
出所:株式会社日本総合研究所

2) データ駆動型農業を実現する独自のデータプラットフォーム

 DONKEYのもう 1 つの特徴が、独自のデータプラットフォームを活用した「データ農業モデル」である。DONKEYには各種センサが搭載されており、DONKEYが取得したデータは、他の固定式センサやドローンからのデータと合わせてデータベースに蓄積される。

特に、DONKEYは農業者の作業を支援する際に農作業データを自動取得することができるため、「誰が、いつ、どこで、どのような作業を、どれだけ実施したか」をデジタルデータとして見える化できる。

従来の多くの農産物生長シミュレーションは圃場の区画単位での予測であったが、DONKEYでは前述のデータを活用して、数十 cmメッシュ単位でのデータの蓄積・分析が可能となっている。

これにより圃場内での作業や生育度合いのバラツキを把握、分析することができ、細やかな PDCAによる収量・品質の向上が実現する。

DONKEYを活用したデータ駆動型農業の特徴が、作業履歴データ、栽培環境データ、生育状況データからアウトプットデータ(収穫物)を動学的に導出する「農業データダイナミックモデル」という点である。

前述通り本モデルは、単に栽培環境(気象や土壌等)のデータから収穫時期や収穫量を予測するのではなく、農業者の創意工夫や努力がアウトプットに反映されるモデル構造となっている。

DONKEYで農作業に関わる各種データを蓄積することで、将来的には収穫予測、生産性改善、ベテランから若手へ継承すべきノウハウの構築などにも活用することが可能だ。さらに、データ農業は農産物の流通にも活用される。

データ農業により、品質・収量の安定化、トレーサビリティの向上、予測性の向上が期待される。これにより、流通コストの低いダイレクト流通業者との取引を増やし、農業者の所得を拡大することを目指している。

DONKEYを核とした地域イノベーション戦略

日本総合研究所では DONKEYの導入による、地域の活力向上を目標に掲げている。DONKEYを始めとしたスマート農業技術により、農業者は重労働や単純労働の多くから解放され、農業はクリエイティブで高収入な職業へと変貌していく。農業の魅力が増すことにより、農業を志す若者が増加するだろう。

加えてスマート農業技術は農業経営におけるダイバーシティ化も牽引する。重労働からの解放により、フルタイムでの農作業が難しい高齢者、子育て世代の女性、障害者等の様々な人材が農業へ参画することが容易となる。

また DONKEYの開発・事業化には多くの若い研究者、ビジネスパーソン、農業者等が参画しており、新たな地域ビジネスを創出する基盤となりつつある。

日本総合研究所では単に農業生産の向上に加え、農産物流通の高付加価値化、地域イノベーションの推進という全体ビジョンを実現すべく、今後DONKEYの開発・事業化をさらに加速していく計画である。

※スマート農業バイブル PartⅡ―『データドリブン』で日本の農業を魅力あるものにより転載

◎価格
現時点(※2018年9月)では未公表

募集中!
日本総研では、DONKEYを使った農業振興、地域イノベーションにともに挑戦していただける地方自治体を募集しています。ご関心のある方は下記の相談先にお問い合わせください。

相談先
株式会社日本総合研究所
E-mail:100860-agri4_donkey_ jri@ml.jri.co.jp
URL:http://www.jri.co.jp/

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