高精度GPSによる農業機械の自動制御

はじめに

世界的な人口増加に伴い、1人あたりの農業作付面積の減少による食料危機が予想されており、農業業界では生産性を向上させるIT農業システムの需要が向上している。

その中心となる技術の1つ に農業機械 に高精度 GNSS(Global Navi-gation Satellite System:全地球航法衛星システム)を搭載してカーナビゲーションシステムのように車両の位置を表示するGNSSガイダンスとGNSSの位置情報を基に車輌のハンドルを自動制御する自動操舵の技術がある。

この技術の導入により現地に目印を立てることなく正確な走行が行なえることから、生産性の向上に寄与するだけでなく、掛け合わせの幅が最小になることから、農薬、肥料、燃料等のコスト削減の有効なツールとして欧米を中心として、積極的な投資が行われている。

一方で単位あたりの耕作面積が比較的小さい日本においても、近年この技術の普及が急速に拡大している。日本の場合、農業従事者の極端な高齢化を背景に、地域の担い手に農地が集積しており、作業効率の向上、低スキルの作業者であっても質の高い作業をする必要性からこれらのシステムの導入が進んでいる。

開発の経緯

トプコンは世界でも数少ない精密 GNSSの技術を自社で所有する、日本に本社を置く精密機械メーカである。精密位置情報を用いた建設機械向けの自動制御システムの開発・販売を20年以上前に世界に先駆け取り組んでいる。

トプコンではその技術を農業向けのシステムとして転用すべく2006年にオーストラリアの農業システムの開発会社を買収し、農業事業に参入した。現在ではその会社が所有していた農業に関するノウハウとトプコンのセンサおよび制御技術を融合した製品を全世界に向け販売している。GNSSガイダンス/自動操舵システムはその中核技術である。

製品の特長

1)GNSSガイダンスシステム図1
GNSSガイダンスシステムは、トラクタにGNSS受信機と表示用ディスプレイを搭載し、農作業機械の作業幅に合わせて作業経路を誘導するシステムである。GNSSアンテナはトラクタのキャビン上に搭載され、表示用コンソールはキャビン内の見やすい場所に設置される。

ユーザはコンソールに表示された設定ラインからの離れ量を見ながらハンドル操作を行う。作業した場所が色塗りされていることから、どの部分を作業したかが明確に判るようになる。トプコンでは2018年12月に8インチの新型コンソール『X23』を発売した。

本製品は、従来製品である『X25』システムからISO-BUSや作業機械の制御などの機能を削り、より導入しやすい価格帯に設定したエントリーモデルで、購入後にはオプションソフトと追加部材により自動操舵システムへのアップグレードもできる。

図 1 GNSSガイダンスシステム

2)GNSS自動操舵システム
ガイダンスシステムでは、表示機を見ながらオペレータがハンドルを操作するが、自動操舵システムは、設定したラインからの離れ量を計算し、その差分を戻すようにハンドルを自動で制御させるシステムである。

オペレータはハンドル操作に集中することなく、牽引している作業機械のコントロールに集中することができる。トプコンの自動操舵システムは、GNSS受信機とコンソールそして電子ハンドルの3つの機器で構成されており、現在ユーザが使用している車両への装着ができる後付の自動操舵システムである。

低速での作業が多い日本の作業環境に合わせて標準で1 km/h以下、オプションの舵角センサを取り付けると0 .1 km/h以下で正確な作業を行うことができる。

【GNSS受信機AGI-4】図2
AGI-4に は電子コンパスとIMU(Inertial Measurement Unit)が内蔵されており、1つのユニット内で位置と姿勢の計測を行うことで、精度の高い測位性能を実現している。また、他の農機へ付け替えを行う際にもアンテナ部を移動させるだけでよいため、簡便な移設作業を行うことができる。

電子コンパスは車両転回時等の低速域でも車両の方向を正確に示すことが可能となっている。トプコンの自動操舵用 GNSS受信機はアメリカのGPSとロシアのGlonassの両方の測位衛星を使用するハイブリッド方式を標準で搭載している。

図 2 GNSS 受信機 AGI-4

【Xコンソール】図3
トプコンのコンソールは、4 .3インチから12 .1インチまで3種類の大きさが用意されており、ユーザの好みに合わせ選択できる。日本では8.5インチのX25が主に販売されている。Xコンソールは視認性の良いタッチスクリーン式のコンソールで完全日本語対応、メニューの階層も浅く、判りやすい操作性を実現している。X25、X35(12 .1インチ)にはサブディスプレイ機能がある。

ISOBUSに対応したこれらのコンソールは画面上に複数の情報を表示しながら自動操舵の作業を行うことができる。XコンソールはIP67の耐水性、耐塵性があり、オープンキャビンの田植機でも安心して使用することができる。

図 3 Xコンソール

【電子ハンドルAES-35】図4
高トルクの電子モータを内蔵したAES-35は、ステアリング軸を直接制御することで油圧制御のような高精度な車輌制御を実現している。また、耐水性があるので、田植機や管理用作業機などキャビンのない農業用機械でも安心して使用することができる。

図 4 電子ハンドル AES-35

ユーザメリットおよびユーザ事例

1)作業のムリ・ムダ・ムラを省いて作業効率UP図5

●設定した作業機のかぶせ幅に合わせて本機を自動誘導するので、熟練オペレータと同様な作業が行える。
●表示器での作業跡確認や、自動位置合わせにより、作業跡がわかりづらい代掻き・播種作業でも、重複作業を防止できる。
●植付と管理作業、収穫作業を同じラインを使用して作業を行うことができる。
●田植機に装着した場合、作業幅に合わせて次の作業位置合わせを自動でするのでマーカが不要。圃場の水を落とす必要がなく、運転者が走行中苗つぎ作業を行うことができる。

図 5 

2)疲労軽減図6:ハンドル操作への集中を軽減できるので、オペレータの疲労を大幅軽減
●旋回後はボタンひとつ(自動操舵 ON)で自動的に作業位置合わせをするので、ハンドル操作への集中を大幅に軽減できる。
●0 .1 km/hからの超低速作業に対応。畦塗り、トレンチング作業、山芋の収穫、暗渠敷設等で自動操舵機能 が使用可能(※オプション必要)。

図 6

山芋収穫

3)不慣れなオペレータでも高精度作業図7
経験が浅いオペレータでも、熟練者と同じ精度での作業が行える。畝立てや全面マルチ貼り等の難しい作業を非熟練者とシェアできるので、経営規模拡大にチャレンジすることも可能。

図 7

4)計る作業や目印を付ける作業を大幅軽減図8
作業幅をあらかじめ入力設定するだけで、決められた間隔に自動的に誘導するので目印が不要となる。水田の収穫後排水性の向上のための溝切や暗渠設置の際に有効に使用できる。

図 8

5)複数の機械で使い回しが可能で、1台で多くの作業に活用可能図9
それぞれの機械にハーネス・GNSS受信機取付台座を常設しておけばワンタッチで換装ができる。北海道以外の地域では使い回しでの運用が増加している。たとえば水田作の場合、畦塗り、耕うん・代掻き、田植、収穫後の溝切や暗渠敷設作業において1台の自動操舵システムを使いまわす運用が行われている。

図9

6)自動操舵以外の機能の拡張性が高い図10
●ISOBUS対応
ISOBUS対応の作業機をモニターでコントロールできる。最新の作業機の制御が行える。

●作業履歴管理
USBひとつで、作業履歴情報を簡単抽出。パソコン等での作業日報の管理が可能。

● 最新 の精密農業機能 が使用可能
位置情報 やマップ機能を用いた可変散布、セクションコントロールの制御が本システムにより実施できる。また、生育センサとの組み合わせにより作物の生育量に合わせた可変施肥を行うことができる。

図10

今後の展開

精密農業技術は主に自動化をテーマとして進歩してきた。自動化に伴い様々な情報が電子化され、今や農業機械は情報機器となりつつある。今後は温度、湿度、日射などのセンサ情報の収集と合わせて、トラクタの稼働情報(稼働時間、アイドリング時間、メンテナンス情報等)、日々の作業履歴情報等をクラウド上で管理を行い、営農判断を行う仕組みを提供するビジネスが拡大することが予想される。

自動操舵システムはその中核機器となりうる可能性を秘めている。精密農業の技術は日々急速に進歩しており、今後 ITを活用した大きなマーケットが形成されていくであろう。

※スマート農業360 2019年 冬号「特集:空から支える次世代農業」より転載

●価格
オープン価格

Tips!
後付けできるシステムなので車両間で使い回しができます。

◆相談先
株式会社トプコン
TEL:03-3558-2582
E-mail:t_yoshida@topcon.co.jp
HP: https://www.topcon.co.jp/positioning/products/product/agri/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください