はじめに
SG100はトラクタ等の農機に対して自動操舵およびガイダンス機能を提供するシステムである。当社はこれまでも30年以上にわたり、衛星測位および地理空間情報を高度に活用できる社会を目指し、精度の高い衛星測位技術とサービスを提供してきた。
SG100はこれらの技術・実績を活かし、熟練を要するトラクタの操舵を自動化し、未熟練者であっても効率的かつ高精度な農作業を実現する。
また、国産製品であることを活かし日本の農業に重点を置き、カンタン・ラクラク・シッカリと農作業ができるシステムを目指した。
SG100開発の経緯
GNSSは船舶の航行技術をルーツとしていることから、当社では30年以上前からGNSSに関する研究やシステム開発を行っている。主要な実績としては国土地理院連続観測システムの構築・保守・運用に関するものであるが(図1)、各官公庁や民間企業向けのGNSSシステムについても多数の実績を有する。
こうした事業背景から、近年ではGNSS技術を活用したトラクタの自動化に関連する実証事業に参画する機会があり、今後の日本の農業のためにはGNSS技術等を活用したスマート農業のさらなる普及が不可欠であると考え、自社においてもGNSSガイダンス端末(SG100)の開発を開始した(図2、3)。
SG100の特長、優位性
当社のSG100はGNSSガイダンスとしては後発製品であるが、次の特長を有する。
1)自社開発の国産製品
これまでのGNSSガイダンス製品の多くは海外製であったが、SG100は自社開発の国産製品として、日本の農作業での使いやすさを重視した。
たとえば操作画面についても極力シンプルなものとし画面遷移についても多階層にならないように開発した(図4、5)。また操舵に関するチューニング設定やセンサ類のキャリブレーションについても平易な操作・手順で実施できるように配慮した。
2)安定した直進性能
GNSS測位の方式を(自動操舵付きGNSSガイダンスでも広く採用されている)RTK方式を用いた場合、位置精度は水平方向で2~3 cmを実現することができるが、あくまでも位置であり農機の方向を得ることはできない。
この課題の解決方法としては、GNSSと加速度センサ等を併用し、かつ農機を一定距離走行することで方向を得る方法があるが、この方法の問題点は一定距離を走行する必要があることに加えて、低速走行の場合は方向精度が安定しない可能性がある。
SG100では2台のアンテナを採用することで停止時であってもより正確に農機の方向を得ることができるため、前述の課題に対して優位性がある。
3)カスタマイズ性
SG100はオペレーティングシステム(OS)としてWindows10 IoTを採用している。これによりSG100は高い拡張性とカスタマイズ性を有しており、スマート農業で今後期待されているセンシングデータや営農管理などの農業データとの連携についても柔軟に対応が可能である。
ユーザメリット
SG100導入によるメリットについては、以下の5点が挙げられる。
①熟練者不足対策
従来では、トラクタ操作の熟練者しかできなかった農作業について、若者や女性および高齢農業者が熟練者と同等の作業精度で作業ができる。また、高精度作業の実現は投入資材等の効率利用にも効果があるため、コスト低減に関しても期待ができる。
②作業負荷軽減
熟練者であっても、広い圃場でのトラクタの直進操作は作業負荷が大きいが、GNSSガイダンスを使用することでトラクタの操舵が自動化されることで作業負荷軽減に効果を発揮する。
また、オペレーターが作業機の操作が基本不要になるため、作業機の動作状況の確認作業に当たることができることから、人員削減も期待できる。
③1人あたりの作業面積の拡大
農業従事者の減少する中で、1人あたりの作業面積拡大の必要性が高まっている。GNSSガイダンスを始めとした農機自動化製品はこの課題解決のためには必須の製品と言える。
④夜間での農作業
GNSSガイダンスを利用することで、夜間での農作業を実現する。これにより熱中症対策やさらなる作業効率化が可能。また、大雨・台風等の異常気象に対する事前対策などにも効果が期待できる。
⑤従来の農機の利活用
今後は自動運転トラクタの普及が進むと見込まれているが、買い替えには初期の費用負担が大きいため、ユーザがすでに所有するトラクタの利活用も重要であると考える。SG100は従来のトラクタ・農機に取付けが可能(※要相談)であるため、比較的低コストにて前述のユーザメリットを実現する。
また、SG100は後付けタイプであることから、複数の農機・作業機の情報をあらかじめ設定しておけば、複数の農機でSG100を使い回すことができる(ただしハーネス・センサ等は農機の台数分が必要)。
ユーザ事例
SG100は上市して日が浅いシステムであるため、今後モニター利用や実証事業などを積極的に活用し、精度・利便性向上に向け事例・ノウハウ・ナレッジを蓄積していく予定である。
市場動向と弊社の対応
1)市場動向
北海道庁農政部生産振興局技術普及課 の調査結果より、GNSSガイダンスの出荷台数の推移は過去10年間をみても継続的に増加している一方で、導入地域の9割が北海道向けとなっている(図6)。
また現市場のGNSSガイダンス製品は海外製がその多くを占めている状況である。今年度は各農機メーカおよび大学・研究機関で開発を進めている自動運転トラクタが相次いで発売を開始した。
今後は自動運転トラクタの導入が進む見込みであ る一方 で、既存のトラクタへの対応としてGNSSガイダンスの必要性は当面続くと思われる。平成30年11月1日に準天頂衛星システム「みちびき」の正式サービスが開始となり、農業分野への活用が期待されている。
また、AIに代表される先端ICT技術により各種農業データの利活用が進み、最適な作業時期の提案・農作業の自動化・農作物のIOT化等が加速すると思われる。
2)弊社の対応
これらの市場動向より、弊社ではGNSSガイダンスを市場性もあり導入効果が高い北海道地域から販売を行いながら、他地域での製品投入に向けたマーケティングを行う予定である。
またSG100の利点であるカスタマイズ性を活かし機能の拡充を図り、スマート農業に不可欠となるようなシステムの開発を引き続き行う。みちびき対応については、今後の検討課題とする。
今後のロードマップなど
現在のSG100は操舵機能に重点を置いた仕様となっているが、今後は作業機の自動制御のためのISOBUS対応をはじめ、各種農業データとの連携を可能にするWAGRI(農業データプラットホーム)や各種営農クラウドへの対応を予定している(図7)。これによりトラクタを使用する農作業のさらなる効率化を実現させ日本の農業の課題解決に貢献する。
※スマート農業360 2019年冬号『特集:空から支える次世代農業』より転載
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