スマート農業の主役は誰か

はじめに

ハイパースペクトルカメラ(HSC)は、画像上のすべてのピクセルがそれぞれにスペクトル情報をもったデータを取得可能な装置である。近年の性能向上と解析手法との連動、そして何よりもITの進化に伴った情報通信技術グループの参入がスマート農業を加速している。

農業とICT(Information& Communication Technology)合体に重要な役割を果たすと期待されるハイパースペクトルカメラ(HSC)、システムズエンジニアリングが輸入販売・サポート行っているBaySpec社製 OCIシリーズとアオイ電子の特長あるタイムドメイン2次元分光システムを紹介する。

ハイパースペクトルカメラの特徴

従来は大型で高価な装置であったため、使用範囲が限定されていた。しかし近年になり、性能の向上とともに小型化と低価格化により使いやすいデバイスとして産業分野での利用が加速している。

目的に合わせて波長範囲やバンド幅をもったハイパースペクトルカメラを選択することで測定対象物がもつ固有の性質を顕在化できるため、すでに食品検査、樹脂判別(図1、2)、インフラ整備、医療といった様々な産業応用が始まっている。

図1

図2

超小型ハイパースペクトルカメラ

BaySpec社は革新的な技術によって、業界最小サイズのOCIシリーズを製品化した。OCIシリーズは、CMOSイメージセンサに直接エタロンフィルタを実装した画像素子を採用し、従来の光学部品を廃することで光学系のサイズを極限まで抑えたため、装置本体をハンドヘルドサイズにまで小型化することに成功した。

<ハンドヘルドタイプ>
図3はいずれも、背面のタッチパネルでAn-droid OSベ ー ス の専用ソフトウェア(Spec Phone APP)の操作だけで測定が完了する。バッテリーで駆動し、400 g未満の軽量でコンパクトな本体だけで、測定条件の設定から撮影、簡単な画像解析まで操作可能である。SDKを公開しているので、自由にソフトウェアを設計することもできる。

図3

<UAVタイプ>
空の産業革命と言われるドローン搭載に最適なOCI-UAVシリーズを開発(図4)。OCIシリーズの仕様の主な仕様を図5に示す。

図4

図5

OCIでの測定例

図6は、光を照射した異なる3種類のサンプルをOCI-U-1000で撮影(889×567pixel)し、付属ソフトウェアのCubeCreator上へ表示させた。

図6

サンプルはそれぞれ、①プラスチック製の葉、②乾燥した葉、③採取したばかりの瑞々しい葉であり、それぞれ特有のスペクトルを示していることがわかる。

①はプラスチックのため、明らかに②や③といった植物とは異なるスペクトルを示している。③はクロロフィルaが680 nm付近で特徴的な波長吸収を起こすため、新鮮な葉特有のスペクトルである。

②は乾燥してクロロフィルが組成変化しているものの、クロロフィルの影響が少し現れている。これらのスペクトルを元に、類似したスペクトルをもったピクセル同士で色分けを行うと、各葉の形状に合わせて綺麗に色分けされる。このように、OCIでの測定は葉物野菜の鮮度確認や樹脂混入物の検査に有用である。

OCI-UAV

すでに一般的になっている、HSCとUAVの組み合わせは、リモートセンシング技術の発達とともに進化してきた。

従来は人工衛星やセスナに搭載されたHSCで地表を観測していたが、カメラの小型化と急速なUAV技術の躍進により、これらを組み合わせての安価で小規模なリモートセンシングが可能となった。

OCI-UはUAV(無人航空機 )への搭載も容易である。カメラ本体は200g程度で、レンズ、小型コンピュータ、接続ケーブル等付属品をすべて合わせても2kg程度の重量で構成することができるため、既存の様々なドローンへ搭載してハイパースペクトルデータの撮影が可能である。

図7は、ドローン搭載撮影のイメージである。コントローラはモバイル機器が使われる。図8は、稲作農業における生産性の向上等を目指した取り組みでの撮影風景を示したものである。

図7

図8

アオイ電子の取り組み

スマートフォンに取り付けてデータ取得が可能、小さく軽い分光ユニット、“誰でも何処でも簡単に”が実現間近である(図9)。

図9

アオイ電子の光学素子は分光ユニットの作りこみに特長があり、分光ユニットに選択性があり、性能の良い素子を選んで取り付けることが可能で、デバイスの進化がそのままHSCの性能に直結する優れものである。

先に示した図1、2はアオイ電子のHSCデータで2次元分光スペクトルで樹脂の判別をしている。大型分析装置で時間をかけていた分析も数倍早い時間で可能となる。

また非常に明るい光学系で、木陰の測定や曇天下での測定で有利であり、高いロバスト性で屋外利用の農業分野では、環境光の変動に対して安定した測定結果を得られやすいということになる。

空から見えない果実

果樹の剪定、果実の間引き、害虫対策、野鳥対策など、果実には多くの作業が伴う。しかし、果実は葉の下に付くため(図10)、これら作業の支援に空から見るドローンは使えない。そのため、車か徒歩で移動するしかないのだが、この際に計測器の可搬性が重要な要素となる。

図10

・OCIシリーズのハンドヘルドタイプ
・OCIシリーズのUAV仕様(ドローン搭載はしない)
・AOIの超小型ワンショットタイプ

システムズエンジニアリングが提供するHSCは、果樹の下での使用に適した小型タイプを目的別に選ぶことができる。またSDKを公開しているので、ソフトウェアとの相性に制限は少ない。

勘や経験に頼っていた剪定や間引きが精度良く安定的に実施できる可能性がある。付記した参考文献では、人の官能試験よりもHSCのデータの方が物理化学的な結果と相関していると報告している(参考例のURL:https://doi.org/10.1016/j.compag.2012.06.002)。

まとめ

ICT農業は、農業離れによる後継者現象問題、地方農家の高齢化問題、TPPによる安い農産物の流入、これらの解決に大いに期待されている。

しかし、本当に農家の収益向上に貢献しているだろうか?農業改革は誰のために推進するのか?話題性やエコ、環境問題、先進性のアピールが目的となっていないだろうか? 

高性能なハードウェアも優秀なソフトウェアも初期投資は非常に大きく、農業従事者への負担は大きい。環境に優しく、人に優しく、もちろん植物にも優しい農業と言われているドローンを使った精密農業は、現状では農家の利益向上をさせているとは言い難い。

当社が提供するハイパースペクトルカメラは小型・軽量を特長としている、これは個人農家でも扱いやすい物理的な要件を満たすもので、ここに簡単に使えるソフトウェアを含む仕組みが加わることで農業従事者の人達に受け入れやすいものとなろう。

国や自治体、ビジネス農業への参画者、すべての人たちが考えるべきなのは、飽くまでも主役は農家であるということである。農家の人達は、来る日も来る日も、農作物や樹木に寄り添って世話をしている。

まずは公的機関の人達は、そこへ寄り添っていくことが大切だ。当社もその一助となれるよう精進したい。

価 格
UAV 用スナップショットタイプ:495万円
UAV 用 8バンドマルチタイプ(PCは不含):98 万円

注目ポイント !
・最小最軽量のドローン対応モデル
・DJIマトリスに標準対応
・UAV用スナップショットタイプのデモ実施中

◆相談先
株式会社システムズエンジニアリング
TEL:03-3868-2634
E-mail:info@systems-eng.co.jp
http://www.systems-eng.co.jp/

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