現場生まれの空から診る精密農業 営農支援サービス「天晴れ」
〜「診える」ことをより「活かす」ために〜

はじめに

国際航業の空間情報技術を基盤とした、現場生まれの空から診る精密農業として、営農支援サービス「天晴れ」は2017年より日本全国にむけてサービス提供を開始。本稿では「天晴れ」の空から診ること(センシング)がもつ機能やメリット、導入効果を生産現場や国家戦略農業特区の事例を通じて紹介する。

開発背景・開発の経緯

1990年代に新しい農業戦略として誕生した「精密農業(precision agriculture)」という言葉は、変わりゆく時代の農業事情、食糧事情、人口問題、自然環境変動などに必要な考え方として提唱されてきた。2000年頃からは日本型精密農業について研究がはじまり、国内の複雑で多様な地域性や点在する圃場・農地に対して、きめ細やかな農作業・生産管理を行い、農作物の品質や収量の向上、地力の維持、自然環境負荷軽減など多面的な視点が必要となってきた。また、考え方だけではなく実用可能な技術や情報を活用して営農全体を最適化することが重要視されるなかで、航空写真測量のパイオニアとして地理空間情報技術により社会インフラ事業を支えてきた国際航業株式会社(以下、当社)では、以前から当社の上空からセンシングする技術(測量・観測・計測)を農業分野にも貢献できないかと、基礎的な要素技術の検討を行っていた。

人工衛星に搭載する衛星センサ開発に関連する検討事業や空間情報技術を活用した地域活性化を検討する事業に携わりながら、10年ほど前から本格的に検討を行い、現在に至るまで様々な各地の研究機関と連携体制を構築しながら検証を進めた。何よりも、生産現場での実用実証を重要視しており、生産者自身が当年の営農に活用できる情報であり、かつ今後想定される離農者が増す時代に貢献できる技術を創出したいと考え、営農支援サービス天晴れ(以下、「天晴れ」)として事業化、2017年10月より日本全国へ提供している。サービス提供開始後の現在も同時並行で日本各地にて技術開発に取り組み、今後もより多くの生産現場に寄与したいと考えている。

「天晴れ」の概要・製品サービスの特長優位性

「天晴れ」では人工衛星やドローンによって撮影した画像を解析し、農業生産現場で求められる農作物の生育状況や収穫適期を可視化した診断レポートを日本全国へ提供している。従来、人工衛星画像やドローン画像を解析・利用するには専用の高額なシステムやソフトウェアなどの環境整備や画像解析の専門知識・ノウハウの習得などが必須であったが、「天晴れ」ではインターネット環境があればいつでもサービス利用を開始できるクラウド型のサービスとなっており、前述のような初期投資が不要。そのまま圃場へ持っていける診断レポートは誰でも当年の営農から利活用することができる。

人工衛星画像を解析した診断レポートは所有圃場の全体管理に、ドローン画像を解析した診断レポートは圃場ごとの詳細管理に適しており、利用ユーザの用途に応じて依頼内容を選択できるサービス仕様となっている。利用ユーザの営農作業に必要なタイミングで提供するために、「天晴れ」では国内外の多数の人工衛星から日本全国を観測する環境体制を構築、ドローン画像から診断する場合については、利用ユーザが撮影した画像を「天晴れ」にアップロードすれば、画像補正ならびに画像解析を完了した診断レポートを取得できる。ドローン自体の普及速度が加速するなかで課題となっている画像解析部分を担うメニューとなっている。また、ドローン撮影についても別途相談を承っている。

ユーザメリット

「天晴れ」は、個人利用から施設や団体ごとでの利用など地域により様々な活用がされている。現在の診断メニュー対応作物は、小麦・水稲・大豆・ 牧草 の4種 で、2018年 に は日本全国 で1,000軒以上の生産者の方々に活用いただいている。すべての診断レポートにて導入効果があると好評をいただいているのは「見回り農作業時間の短縮」である。


⬆穂水分率マップ

人や農機の上からの視点では把握しきれない圃場内のバラつき、また圃場間の生育度合いや仕上がりの違いを手の上で見比べることができるようになり、全体的な農作業時間が半分以下になった事例や台風などの悪天候が差し迫っている状況での迅速な判断材料になった、農機をどう動かすかを事前に検討できることにより時間と燃料のコストが削減でき、繁忙期でも家族との時間が取れるようになった、土地を増やすまたは離農する土地を受け継ぐキッカケになった等の声も届いている。

診断メニューの穀類については収穫時の水分を事前に明瞭にすることで、収穫後の乾燥時間を短縮でき、個人ならびに地域差はあるが導入前と比較して2割から4割の乾燥コスト削減を実現できたことが報告を受けている。牧草の診断メニューについては広大な採草地管理に活用いただき、圃場ごとにみえる牧草と雑草の割合を可視化し、採草順や肥培管理などの日常管理から草地更新対象圃場 の選定、 新規就農者への牧草と雑草の見分け方、管理の仕方など地域単位での営農に活用されている。

ユーザ事例

国内のある穀類生産が活発な地域のコントラクターでは、 各収穫期に穂刈りしたサンプルを改良普及センターにて事前分析したデータを用意した上で、 組合全員 で全圃場 を見回 る作業 が通例であった。事前分析データはいつから収穫を開始するかを確定する指標として真値ではあるが、サンプル採取したデータが圃場の代表値とは限らないため、見回りによって圃場全体を確認し調整する作業は必須とされていた。ここに「天晴れ」の診断レポートを導入した事例を紹介する。はじめに採取したサンプルの事前分析結果と「天晴れ」での可視化した診断レポートだけでは、一見差異があるように見えた。

しかし、どの地点でサンプルを採取したかを確認しながらすべての圃場を確認すると、1つ1つの圃場の傾向は、サンプル分析結果と「天晴れ」で可視化した診断結果は合致していた。慣行で行っていた穂刈りするサンプルをどの地点から採取したかを照らし合わせて「天晴れ」を活用していただくことにより、既存の営農計画を圃場全体、 または管理範囲全体へ広げて確認できることが実現した。また、病気が発症した圃場と隣続きの圃場の小麦は人間の目では一見同じような色合いであったが、「天晴れ」の診断レポートでは歴然とした結果となっていた。

実際の地図の上に表示する形の「天晴れ」のレポートの特徴は、農機で刈り入れる際のケアにも有効利用できる。他地域にて、水稲の品種ごとの適期での収穫を実現するべく、品種ごとに確認したい時期に依頼をいただいたケースでは今までの経験値を裏付ける形となり、品種ごとの高品質化にむけて活用したいと好評を得ている。

市場動向と当社対応

近年、農業分野へのICT・IoT技術の利活用はさらに加速し、様々な技術をもった企業が参入している。 日本全体で10年後、20年後の農業について協議する潮流が勢いを増すことに期待を感じられる一方で、生産現場での費用対効果があり、先を見据えて使い続ける価値があることが必須だと考えている。「天晴れ」の取り組みとして、2018年5月より参画している、国家戦略農業特区の新潟市の「スマート農業企業間連携実証プロジェクト」を紹介する。当プロジェクトは、企業の垣根を越えて、農業の時代遷移に求められているICT技術活用ならびに技術躍進に挑戦するためにデータ連携を行っている。


⬆新潟市スマート農業企業間連携実証プロジェクト

「天晴れ」のほかに、ICT田植え機、ICTコンバインをはじめとする「スマート農機」、「農薬散布ドローン」、「設置型センサ」、「農業記録アプリ」がデータ連携し、大規模省力化や高品質化を目指して挑戦している。2018年の実証圃場では低タンパク質で食味がよいと人気の品種にて実施、農機での可変施肥とセンシング結果を重ね合わせながら実証がすすみ、タンパク質の含有率が上がりやすい環境の圃場でも無事にブランド認証米となった。次年度にはさらなるデータ連携検証をすすめる方針だ。

今後のロードマップ

上記の新潟市での「スマート農業企業間連携実証プロジェクト」で紹介のとおり、「天晴れ」は空から農作物を「診る」ことに特化しているが、「診る」ことを「活かす」ことに今後も注力していきたいと考えている。また、同プロジェクト内で「診る」技術の高精度化や診断対応時期の拡張にも取り組んでいる。そのほかにも、全国各地で対応作物や診断内容の追加、土づくりに活用できる技術開発を目的として生産者や知見のある方々と実証を進めている。

さらに生産者ごとの管理圃場が増加することが見込まれる一方で、農作物の安心・安全を求める消費需要が強くなり、生産から消費までのトレーサビリティやGAP認証の普及が加速化することも予想される。そのような状況でも農作物の品質の維持・向上、生産者の方々の農作業効率や地域農業生産力の向上に貢献できるものを創出しつづける挑戦をしていきたい。

●価格

注目ポイント !
ドローン撮影から診るメニューにドローン測量(農業土木 )を2019年内 に新規追加予定。ご関心がございましたら是非ご連絡ください。先行案内をさせていただきます。

◆相談先
国際航業株式会社 営農支援サービスチーム
TEL:03-4476-8069
E-mail:agriculture@kk-grp.jp
URL:https://agriculture.kkc.jp/

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