株式会社大和コンピューター(以下、当社)はソフトウェア受託開発が中心であるIT企業である。2009年より静岡県袋井市のメロン農家に業務委託し農業へ参入した。2011 年に社員 3 名が袋井市に転勤し農業に従事。
メロンだけでなく、ハウスを新たに建設して、トマト養液栽培も開始した。農家の目線で ICTを利活用した農業の効率化や付加価値を行う取り組みを行っている。その中で行った実証事業やシステムの一部を紹介する。
はじめに
高齢化が進み生産者が減っている現状を打破するためにICTを導入して何ができるかを模索し始めた。現状を調査していくと、農家という単位で各々日本人の器用さと努力でカバーするという世界であり、情報の交換がされず閉鎖的であり、また企業間の競争原理があまり働いていないことがわかった。
静岡県袋井市周辺はブランド力をもつメロン産地であり、25年位前からかなりIT化されたガラスの施設で温室メロンが栽培されている。温度、感雨センサで窓の開閉や温水ボイラの制御を温度センサの情報を元に自動化しており、冬場の暖房のために窓を閉める時期は、時間指定でCO2発生装置を制御している。
これらの装置は25年位前の仕組みが現在もそのままで使用されており、変化がない状態である。少子高齢化で後継者がいない現状では、メロン栽培工程は匠の技で「まねするにまねできない」といわれているように、伝承されないと廃れていく一方である。
メロンの出荷工程は、栽培委託している農家では組合へ出荷して終わりである。組合が卸売市場でセリにかけて売って、初めて売価がわかる。そのうちの手数料などを差し引いたものが儲けになる。生産後販売しないと儲けもわからないという農業ならではの事業形態であり、自分が作ったメロンがどのようにして消費者まで届けられるかも生産者はわからない。
このような状況がわかってきたころ、流通過程を可視化し消費者の声を聞くために、電子タグを用いて流通過程がわかるトレーサビリティシステムと、そのシステムを発展させて地域産品の共同配送を行うシステムの実証事業に携わる機会があった。
そこでの取り組みとメロン養液栽培が順調にいき、産地再生の思いも込めて現在取り組んでいる実証事業でICTを活用した生産者の視点とその他の実証事業や自社で製品化したものを合わせて紹介する。
EPCISを活用したメロンの可視化実証事業
2011 年度に一般財団法人流通システム開発センターより、メロンに電子タグを付けて流通過程を可視化する実証事業に生産者として参加してほしいとの依頼をいただき参加した。このメロンプロジェクト(本実証の通称)に参加していたのは、日本アイ・ビー・エム株式会社、慶應義塾大学(Auto-ID ラボ・ジャパン)という電子タグ業界の先駆者の方々である。
当社はまったく電子タグを知らない生産者として参加させていただき、生産者としての要望をお伝えしながら、少しずつ電子タグのことや EPCISのことなどを理解した。
電子タグにはGS1 EPCglobalで国際標準仕様とされている EPC(Electronic Product Code)をGS1コードとして世界でただ1つのユニークなコードとして書き込まなければならない。電波は目に見えないので、独自で付けたコードであると重複すると、電子タグを間違えて読み込みエラーの原因となる。
このため国際標準を用いるためにEPCマネージャコードを取得した。メロンプロジェクトで用いた電子タグは3種類あり、それは個品タグと箱タグと温度タグである。
➀個品タグ
シールを貼り合わせて下げ札になるもので、この下げ札に紐を通してメロンのアンテナ(蔓がT字になっているところ)に付ける。シールの中に電子タグが挟んであり、この個品タグにSGTIN(Serialized Global Trade Item Number:モノを示すコードで個品を示すGTINにシリアル番号を付加したもの)を書き込んでおり、下げ札にはそのSGTINを示すURLをQRコードとして印刷し、消費者がそのQRコードをスマートフォン等で読むと商品情報を紹介するホームページへ遷移し、メロンの糖度、食べ頃情報等を確認することができる。
消費者は食べた感想などを生産者へフィードバックできるようにした。これにより生産者と消費者を繋ぐ仕組みができ、生産者は流通過程を経て購入した消費者の声を聞けるようになり、生産者のモチベーションアップにつながった。また、その消費者の声は、メロン1つ1つに付けた SGTINにより、何時何処で収穫して出荷したものか、どのメロンに対しての声であるかがわかる。
➁箱タグ
メロンを 6 玉ごとに入れる箱に付けるシールタイプの電子タグで、この箱タグにも SGTIN(箱を示す GTINにシリアル番号を付加)を書き込んでいる。
➂温度タグ
温度タグの上に箱タグを貼り、その温度タグと箱タグが一緒になったものを透明のビニール袋にいれて、そのビニール袋をメロン用の箱に貼り、最終的に個品として出すときに、ビニール袋から温度タグと箱タグが一緒になったものを回収する運用とした。
これは温度タグが高価なためリユースする運用を考えたものである。温度タグはメロン輸送中の温度を一定間隔で記録し、電子タグを読みとる際に温度情報も同時に取得するようにして、個品タグにある QRコードで商品情報の詳細情報として輸送中の温度情報をグラフで参照できるようにした。
流通過程で電子タグを読み込み、EPCIS(EPC Information Services)へ登録する。具体的には最初に作業場でメロン個品タグと箱タグを結びつける。作業場から出荷する際にRFIDリーダを用いて出荷情報を登録する。
出荷組合に到着時にRFIDリーダで入荷情報を登録する。出荷組合から出荷する際にRFIDリーダを用いて出荷情報を登録する。卸売市場を経由してスーパーに到着時にRFIDリーダで入荷情報を登録する。スーパーのバックヤードから店舗に出す際に、箱タグとメロン個品タグとの結びつけを外す。
このように一連の流通過程での情報をEPCISに登録することにより、流通トレーサビリティを確立できる。EPCISは国際標準規格であるため、海外へ輸出する際でも海外での入出荷作業時に同様にEPCISへ登録するようにすれば、複数の輸送機関を跨ってのトレーサビリティが可能となる。
このメロンプロジェクトでは2012年度にはフェーズ2として、Eコマースで受注して海外(香港)へ出荷するというビジネスシーンにも対応することを実証した。これらのメロンプロジェクトのノウハウは電子タグを用いてのトレーサビリティシステムのテンプレートとして活用できる。
<「農場管理システム」NFCタグをタッチして記録>
当社は静岡県袋井市大野のトマトの施設園芸(BigRoots)にて NFC(近距離無線通信)タグを利用した「農場管理システム」を活用し、20aの施設園芸ハウスでトマトを栽培している。パートを5名雇用してローテーションをしながら作業に従事している。
20aに 15,000 株以上のトマトを栽培していると何の作業をどの場所で行ったかをExcelなどで管理するのは時間が掛かり、正確に記録するのは困難であったが、「農場管理システム」を導入することで、効率的に農作業を記録できて生産段階でのトレーサビリティができる。「農場管理システム」の機能は大きく3つ分類できる。
➀勤怠管理
従業員の出退勤、休憩などを管理。
➁管理者機能
従業員個別に管理画面より農作業予定を入れる。予実績管理ができる。また、作業実績を検索できる。
➂農作業記録機能
「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何をしたのか」をスマートフォンでNFCタグをタッチすることで記録。農作業(収穫、農薬散布、病害虫発生など)の様々な作業や状態を記録することができる。
これらの管理、作業等を NFCタグを用いて記録できる。NFCタグは3種類用意する。
• 利用開始終了用:ログインタグ、ログアウトタグ
• 勤怠管理用:出勤タグ、休憩開始タグ、休憩終了タグ、退勤タグ
• 場所用:ハウスタグ、通路タグ、区画タグ等(場所タグは階層化して登録可能)NFCタグは紙に挟んでパウチしたもので利用している。
当社の従業員(パート)は 50 歳台半ばから 60歳台後半の方で最初は戸惑いがあったが、スマートフォンで NFCタグにタッチして作業ボタンを押下するだけなので、短時間で慣れて活用できた。施肥や農薬散布の情報も記録することにより、栽培履歴がボタン1つで出力できる。正確な記録より、正しい栽培履歴を作ることができる。
このように人が行うデータが蓄積されていけば、将来的にはほかの環境情報などのセンサ情報(温度、湿度、CO2等)などとも合わせて分析を行い、成功例、失敗例ごとに作業記録を分類し現在の作業が成功例に近い作業か失敗例に近い作業か判断を行える。これにより予測可能なシステムへと今後は展開を考えたい。
※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載
<価格>
◎農場管理システム
・予定価格:初期費用タグ数等より別途お見積、月額利用料 5,000 円~。
・他システム別途お見積
Tips
スマートフォンでタッチして、農作業を記録する「農場管理システム」は、薬散や施肥も記録することで栽培履歴が簡単に作成できます。
◆相談先
株式会社大和コンピューター
TEL:072-676-2221
https://www.daiwa-computer.co.jp/
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