次世代の農業経営者の育成は データの蓄積と分析から

農業現場の ICT 化を進めるには、現場担当者が日々の作業履歴の入力作業を的確に行って初めて成功する。ICTの技術が進歩しても農業現場が理解しなければどんなに進化したシステムもただの箱にしかならない。

そんなジレンマを解決したのがトップシステムクラウドバージョンである。新規就農者や農業後継者、農業法人、農業団体の栽培管理者まで、自らの経営分析はこのシステムから始まる。

開発の経緯

本システムは、有限会社トップリバー(以下、トップリバー)が 2015 年から社団法人農林水産業みらい基金(以下、みらい基金)の助成対象事業「富士見みらいプロジェクト」の運営システムとして開発されたシステムである。

富士見みらいプロジェクトとは、長野県富士見町でトップリバーと行政(富士見町)、JA(JA 信州諏訪)の三者でレタスやキャベツの野菜産地を作る目的の事業であり、この事業には担い手となるトップリバーの研修生を対象とした研修カリキュラムの作成や既存の農家が野菜を栽培する技術の普及、および、遊休農地の圃場基盤整備や研修施設の建設なども含まれており、2020 年までに作付面積100 ヘクタール、50 万ケースの出荷規模を達成することを目標としている。

ICTシステムとしては、生産工程から販売、会計など含めた総合的なプラットフォームの構築を想定しており、今回は初期段階として生産工程管理のプラットフォームを開発した。対象生産者はトップリバーの自圃場 8 農場および独立生産者 10名となっている。

技術特長、優位性

本プラットフォームは、トップリバーが今まで蓄積してきた農業 ICT 化のノウハウをもとに、農業者自身が必要としているデータをより簡単に入力でき、農業経営者が必要としている経営情報の見える化を実現したものである。トップリバーでは、設立時から栽培履歴のデータをパソコンや社内サーバに「トップシステム」として蓄積していた。

また、栽培管理システムとしては、別ベンダーで開発した簡易栽培管理システムや生協の生産者共有システム ( 得意先の共有システム)なども導入する一方、他のシステムも調査、検討していたが、野菜栽培、特に長野県を代表とする春から秋までの期間の同時期に 2~3 毛作まで行う作型に適した管理システムはなかった。

メニュー画面

また、入力作業も複雑で、農作業を終え、疲労している生産者にとって入力の業務には適しているとは言えないシステムばかりであった。これらの問題点の根幹にはシステム開発者と農業者とのミスマッチがある。農業者は一人一人分析したい内容が異なり、その多様性をシステムに盛り込むことはコスト的に無理があった。

このような状況を背景に、株式会社日立ソリューション東日本にサポートを依頼したところ、Business Intelligence(BI)ツールによるシステム構築の提案があり、ウイングアーク1st株式会社製のMotionBoardを利用し、クラウドサービスを活用したプラットフォームの構築を行うこととした。

開発事例

生産者が使えるシステムにするため、下記の点に特に留意し、開発を実施した。

➀入力作業はできるだけ簡単
➁生産者が入力した結果がすぐに反映され、簡単に見ることができる

まず、入力作業ができるだけ簡単にできるシステムを構築し、さらに、入力した結果が別の画面で反映され、入力した担当者が結果を確認し、効果を理解することにより、さらなるデータ入力を行う意欲にもつながるシステム構築を行った。

また導入段階においても、生産者が履歴を入力後、グラフなどに反映されている結果を見せ、効果を理解させるといった作業を繰り返し行い、改良を重ねた(図 1)。次に、農業経営に必要とする指標の見せ方の工夫を行った。生産者としての共有場面は次のような点が想定できる。

図 1 作業入力画面
同じ作業で圃場だけが異なる場合には圃場のみを変更し登録することができるため、入力時間は通常 5~10 分/1 日。

■トレサビリティ情報の管理
防除回数、肥料成分の確認作業において、収穫のタイミングで品質管理者がチェックを行う画面を構築。結果、管理者の作業が効率化され、特別な知識のない作業者でも農作業ができるようになった(図 2)。

図 2 トレサビリティ情報の管理
この画面で管理者がチェックを行い、結果を生産者へフィードバックし、データの修正や確認作業を実施。

■収穫予測日による管理
画面上に収穫予測日を表示することにより、生産者しか把握していなかった収穫直前の圃場を営業担当者も画面で見ることが可能となった。それにより、圃場確認や収穫数量の把握を的確に行うことができるようになり、得意先との商談に有効活用している(図 3)。

図 3 圃場回転をガントチャート形式で表示
作業履歴を入力すると圃場に作業内容が自動的に反映される。事前に生育日数を登録しておくことにより、定植後、収穫予想日として計算された結果が表示され、実際の収穫日との差も表示されるので進捗状況が把握可能

応用/ユーザメリット

1)圃場別、時期別、品種別、担当者別の分析
土地利用型の野菜産地の場合、まずは圃場の回転とその作型における反収(収量 /10a)が経営に直結する。その指標をリアルタイムに見える化することで年間経営が予測できるということが、トップリバーの今までのノウハウで確立されており、圃場別、時期別、品種別の反収などそれぞれに見える化したグラフなどを作成した。

さらに、複数年の栽培品目と、反収を表示し、気づき情報や土壌分析データなどを圃場カルテとして蓄積でき、それらを複数年度で比較することも可能になっている。

トップリバーのような研修システムをもっている法人では、毎年リーダーが担当する圃場が異なる場合など過去の実績が一目でわかるので、各リーダーが栽培計画を立てるときに有効となっている(図 4)。

図 4 圃場カルテ

2)GAPの認証作業
GAPの認証作業などもこのシステムで支援可能であり、認証準備にかかる工数が低減可能である。

今後のロードマップ

今回の取り組みでは、入力画面作成とクラウドサービスの設定、またデータベースの構築を中心にシステム化を実施した。弊社の場合、もともと「トップシステム」という栽培管理システムがあり、その画面を利用してマスター管理を行っていたため、今回はその仕組みを流用することにより、システムの構築費用を抑えることができた。

トップリバーでは、システムの運営管理者を社内に置いているが、生産者団体などで運営管理者を用意できない場合でもマスター管理だけを依頼することができればインターネット環境があればどこでもできるので、特に費用をかけなくても構築可能であると考えている。

システム全体イメージ

生産者において、繁忙期は入力するのが精いっぱいである。しかしシーズンオフ等に情報を共有したいという声が多く出てきている。

たとえば、➀自分が失敗しているときなどに他の生産者がどのような対策をしているかといった共有方法を工夫してほしい。➁シーズンオフに皆で勉強会を開き、その際にはデータをオープンにしてほしいなどといった要望がある。

今までの技術情報はアナログ的な表現でしか共有できていないが、データの蓄積があれば数値をもって共有されるため信憑性もあり、対策方法も具体的にできるからだと思われる。ICTシステムの導入障壁として、生産者が継続的にデータ入力するということが第一の障壁となる。

「様々な情報が連携できる」ということは ICTのお題目であるが、それを、農業生産者がどのように理解し活かすかを考える前に、まずは継続的なデータ入力に慣れることが必要である。慣れるためにもまずは操作し、習慣化し、見ることから始めることが重要であると考えている。

トップリバーが今一人一人の生産者に対して行っていることは、入力することへのフォローである。実際にトレサビリティの入力のチェックを行っているが、入力ミスや未入力といったことがわかりやすいので、生産者一人一人に丁寧に説明しフォローすることが可能となっている。

その繰り返しは生産者の入力のモチベーションになり、データの整合性や信頼性の向上が期待される。蓄積されたデータは農業の教育現場でも必要になると考えており、トップリバーとして、継続的な生産現場からのデータ登録を推進していく方針である。

さいごに

農業技術の習得は、実務で数年研修を行えば、ある程度作業はできるようになる。しかし、現在、日本の農業界に必要な人材は農業経営者であり、人を育てることができる農業経営者でなければ事業の継続が困難である。そのためにも、農業生産者自身が栽培履歴や今もっている技術をシステムとして蓄積する必要がある。

ドローンや衛星通信での機械の自動化も進んでいるが、その前に 200万人いる農業者の農業技術のデータベース化が先ではないかと考えている。まずは日常の営農作業の中で可能な範囲で日々の農作業の履歴の蓄積を早急に進めるべきだと感じている。弊社の取り組みは小さな取り組みではあるが、今後の日本の農業に絶対必要な ICTシステムを構築できたと考えている。

◎価格
初期導入コスト:40 万円~  
月額:4 万円~導入可能
※その他オプション費用が別途かかる場合がありますので応相談

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◆相談先
有限会社トップリバー
E-mail:toiawase@topriver.jp
URL:https://www.topriver.jp/

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