農業のIT化が叫ばれ始めて久しいが、灌水に関しては未だ経験と勘に頼った旧世代の方法が用いられていることが多い。
センサによる測定およびフィードバック制御が進まない要因の1つとして、これまで扱いやすくて精度のよいセンサが存在しなかったことがあげられる。
本稿では農業現場のニーズを満たす初めてのセンサとしてWD-3 シリーズを紹介する。
開発の経緯
設立間もない 2005 年秋のこと、創業者の 1 人である(故)大森五男会長が鹿児島出身であり、社内にも鹿児島出身者が多かったことから、その縁で、鹿児島市と立地協定を結び営業所を作らないかという誘いがあった。
また、それとともに鹿児島大学を退官予定であった南竹力氏が開発した特許「折り返し平行伝送路方式」を製品化できないかという話が持ち上がった。
翌年 3 月の鹿児島事業所開設に伴って南竹氏を初代所長として招き、清水徳通取締役を責任者として開発に乗り出したのが、この特許を応用した水分センサである。
当時市販されていた水分センサは、アメリカなどの海外メーカ製品が主であったが、電極から得られた値をそのまま出力していて特性に癖が強く、個体ごとのばらつきが大きかった。
また、土壌中に含まれる塩分などの影響で水分量に誤差が生じるなど、使いこなせるのは土壌物理を専門とする大学の研究者などに限られていた。
来るべき農業 ICT 時代の到来により、一般の人が使いやすいセンサが必ず求められると考え、コスト・性能を向上させユーザビリティの優れたセンサを目標に開発をスタートさせたのである。
土壌水分センサ「WD-3」の特長、優位性
今までも水分センサーは市販されていたが、海外メーカ製品が主であり、電極から得られた値をそのまま出力していて特性に癖が強く、個体ごとのばらつきがあったため、使いこなせるのは土壌物理を専門とする研究者などに限られていた。
そのため一般の人が使いやすいセンサが必ず求められると考え、コスト・性能を向上させユーザビリティの優れたセンサを目標に開発をスタートさせたのが「WD-3」である。
「WD-3」の最大の特長はプログラム書き換え可能なマイコンを内蔵していることで、ハードウェアおよび土壌ごとのバラつきを検査・補正工程によって吸収し、特性の揃った製品を出荷できるところにある。
これによって、ユーザが難易度の高い校正作業を行う必要がなくなり、機器に接続してセンサを埋設するだけで安定した測定が可能になった。
WD-3では防水性を高めるために接着剤成分を多く含み、それ自体の含水率も非常に低いポリエステル系ホットメルト樹脂を採用した。
プリント基板への接着性が非常に強く、防水性に優れるものの、成形後の熱収縮が大きく、金型への張り付きやヒケなどが発生しやすいポリエステル系ホットメルト樹脂での製作は当初難航を極めた。
形状変更やコーティングを含む金型再作を何度も繰り返し、1年以上にわたって条件出しを繰り返した末、成形条件を確立し製品化を実現したのである。
開発事例
WD-3は精度、防水性、およびその使い勝手のよさから、フィールドサーバ、灌水制御装置などの農業ICT機器への採用において、国内では No.1 の実績を誇っている。
受託開発での事例としては、WD-3-WET-5Y(水分・電気伝導度・温度が測定できるモデル)を接続し、水分および液肥のコントロールを自動で行う制御装置の実績がある。
また、農業分野以外でも壁面緑化やコンクリート の養生管理を監視するシステムの実績もあり、こちらは通信回線を使ってクラウドにデータをアップロードすることも実現している。
応用/ユーザメリット
農作物の収量および品質については、土壌の含水率だけで決まるものではなく、気温・湿度・日照・CO2濃度など様々な要素がある。
土壌の水分に関して、露地栽培では基本的に気候任せであり、雨が降らない場合には土壌表面や植物の状態を見て灌水している。
ハウス栽培においても1日の中で時間を決めて灌水し、植物の状態を見て調整しているが、センサからの測定値を元により積極的に調整することで、大きな効果が期待できる。
たとえば、トマトを例に挙げると、あえて灌水しないことによって枯れるギリギリまで植物を苦しめ、その結果として甘み成分が濃縮され果実が甘くなる、などの農法が行われているが、安定して同じものを生産することは非常に難しい。
センサを用いてデータを収集し、分析することによって、誰もが同じ品質で栽培できる手順データを作成するなど、農法をデータとして次世代の人々に引き継ぐなども実現できるようになる。
また、単純に節水というだけでも大きなメリットがある。これまでは人手がかかるために短時間に大量の灌水を行い、それゆえ土壌表面での流失、および地下水への浸透など、植物に吸収されない無駄な部分が大きな割合を占めていた。
必要な時に必要なだけ灌水することによって、このような無駄を省け節水効果を期待することができる。
特筆すべき成果として、不織布を用いて壁面に植物を這わせる壁面緑化用途では、センサを用いて雨天時に灌水を止めることにより、年平均69%の節水効果(1/3 の水量で済む)があったとの実験結果も報告されている。
今後のロードマップ
次世代モデルの WD5 の開発に着手しており、測定精度は同等以上でありながら、体積・重量ともに WD-3 の 1/3 の小型化を実現した製品となっている。
小型化することによって、鉢植えや育苗ポッドに差し込むことができるため、活用場面が飛躍的に広がることが期待されている。
WD5 以降の展開では、電気伝導度の測定レンジを50mS/cm程度まで拡張した製品(海水レベルの塩分濃度まで測定可能)、またバッテリを内蔵して給電が不要な製品などの開発を予定している。
◎価格
WD-3-WET-5Y 【体積含水率・温度・電気伝導度】¥46,800⇒Amazonで購入可能
WD-3-WT-5Y 【体積含水率・温度】¥22,000⇒Amazonで購入可能
WD-3-W-5Y 【体積含水率】¥19,500⇒Amazonで購入可能
Tips
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※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載
◆相談先
株式会社 A・R・P
TEL:0463-88-5400
E-mail:wdorder@arp-id.co.jp
URL:http://www.arp-id.co.jp/
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