AI・IoTで飼育員と豚の双方の幸せを 追求する「スマート養豚プロジェクト」

世界で進む畜産業界におけるデジタル変革の潮流

世界人口の増加に伴う食料危機、Animal Welfareや労働環境向上への意識の高まり、AI、IoT、ビックデータ解析等のデジタル技術の進化を背景に、畜産業界においてもこれらの技術の活用に向けた取り組みが加速しており、代替プロテイン(培養肉、植物性由来肉)と、畜産へのAI・IoT技術活用がメイントピックとして注目を集めている。

畜産へのAI・IoT技術の活用に関しては、取り組みの背景こそ共通しているが、その目的に関しては各国・地域の事情や特色が色濃く反映されている。まず欧米においては、Animal Welfareの向上が主な目的として掲げられる傾向にある。

穀物メジャー・畜産会社として有名な米国Cargill社は、酪農分野におけるビッグデータ解析による生育環境改善 1) や、スマートカメラによる個体認識・追跡の活用 2) を推進しているが、その目的は飼育効率改善だけにとどまらず、動物福祉の向上(=Animal Welfare)までをも見据えている。

Cargill社は2019年2月から3月を目途に、牛の個体認識・追跡に関するデジタル技術活用の商用展開を公表しており 3) 、多くの事例が実証実験や小規模導入にとどまっていることをふまえると先進的な取り組みといえよう。

次に中国においては、生産性向上・高付加価値化が主な目的として掲げられており、大手EC企業 のアリババ集団やJD.comを中心 にAI・IoT、ロボット等の畜産への活用を推進している。

さらに、JD.comは鶏一羽ずつにIoT技術を用いた万歩計を装着し、100万歩以上歩いた鶏をブランド化しブロックチェーン技術も活用して市場価格の3倍以上で農家から買い取るなど、デジタル技術による高付加価値化も進めている 4)

中国では特に養豚におけるAI・IoT技術を活用した個体識別の事例が多く、産学連携や企業合同での研究段階、実証実験段階の事例が多いが、取り組みが加速することで今後、多くの商用事例がでてくるものと想定される。

日本の畜産業でデジタル変革に取り組む意義と本プロジェクトの背景

一方、わが国日本においては畜産従事者の負担軽減・労働環境改善が主目的と掲げられるケースが多い。

これは、多くの畜産現場が立地する地方を中心に少子高齢化が加速しており、また、その労働環境の厳しさから担い手不足が問題となっていることが大きな要因と考えられる。

さらには人の経験を中心とした飼育技術の継承が課題となり、中長期的な生産体制の維持・拡大が見通せなくなってきている現実に直面しており、これら課題への有効な解決策の打ち出しが急務となっている。

このような畜産業界全体が抱える課題に対し、ニッポンハムグループとNTTデータグループは、畜産現場に根差した持続可能な仕組みづくりを目指し、AI・IoTを活用して飼育員と豚の双方にとって幸せな環境をつくる「スマート養豚プロジェクト」を共同で開始した。

プロジェクトの概要・特徴

本プロジェクトでは、2018年12月よりニッポンハムグループの養豚事業会社であるインターファームの農場へIoT技術を導入し、AI技術開発を進めている。

まずは、豚舎へカメラ18台や温湿度などの環境センサー4台を設置し、豚の飼育状況を24時間、リアルタイムで把握可能とした。さらに収集したデータを基にして、仔豚の健康や母豚の交配可否などをAIで判別する技術の開発を進めている。

たとえば、母豚の発情兆候を判別する場合、今までは飼育員が一頭一頭のエサを食べる量や雄豚と接触した際の反応、人が触れた時の行動の変化等を注意深く観察し判断してきた。

このように経験に頼った作業が非常に多い養豚業務においてAIによる画像判定を行うことで、労務の軽減とともにノウハウの継承や生産性・品質の向上、安定化を図る(図1)。

図 1 プロジェクトの開発イメージ

ユーザーメリット

1)複数の豚舎の状況をリアルタイムで把握
距離のある複数の豚舎を対象にできるよう柔軟な無線ネットワーク構成を実現し、厳しい設置環境を考慮した防水・防塵対応カメラ、温湿度等の環境センサーを設置しインターネット接続を行うことで、各育成ステージの豚の状況を一目でリアルタイムに把握することが可能となる。

この環境センサーには、NTTデータSBCが独自に開発した通信やセンサー制御機能等を備えたSBConnectマルチセンサーターミナルを採用しており、温度や湿度だけでなく、CO 2 やNH 3 といった複数データの取得、制御が可能なための拡張性を担保しつつ、低コストでの導入を実現している(図2)。

図 2 マルチセンサーターミナルの写真

これらのデータや画像の蓄積により、飼育成績との関連性や人が不在となる時間帯の状況も的確に把握することが可能となる(図3)。

図 3 IoTによる豚舎の把握例

2) 仔豚の健康や母豚の発情兆候をAIで判別し繁殖成績を安定化
仔豚をAIで個体認識し(図4)、行動を分析することで客観的なデータに基づき健康状態を判断することを目指している。これにより経験によらない安定的な状態判定が可能となる。

図 4 AIによる仔豚の個体認識イメージ

また、疾病兆候を速やかに検知して治療を行う、豚にとって快適な温度、餌の調整を行う等、細やかな飼育管理の実現が期待される。

さらに、母豚の発情兆候をAIで判別することで、今まで以上に適切なタイミングで交配を行うことが可能となり、繁殖成績の安定化、生産仔豚の増加が期待される。

今後に向けて

日本の畜産は国内の労働環境や世界の畜産の潮流の影響を受けて、今後従来の人の経験を中心とした生産・管理手法から、デジタル技術を活用したより効率的な体制への変化が求められると考えられる。

一方で本分野は海外でも技術が発展途上であり、また、海外の技術を環境の異なる日本にそのまま導入しても運用ノウハウがなく、有効活用が難しい。

加えて、養豚においては専用のデバイスがないため、どのような情報をどの機器でセンシングし活用するのか、というノウハウを作り上げることが非常に重要である。

本プロジェクトを通じて生み出される新規技術、ノウハウを基に日本の養豚に適応する生産システムを構築し、将来的にはニッポンハムグループに限らず日本の養豚農場に広く普及を図ることで畜産業に貢献していきたい。

◆参考資料
1)https://www.cargill.com/animal-nutrition/species/dairy/products/dairy-enteligen
2)https://www.cargill.com/2018/cargill-brings-facial-recognition-capability-to-farmers
3)https://www.feednavigator.com/Article/2018/11/29/Cargill-and-Cainthus-moving-to-next-phase-in-digital-technology-deployment
4)https://www.sbbit.jp/article/cont1/35387

◉価格
●SBConnectマルチセンサーターミナル:下記相談先より、お問い合わせ下さい。

注目ポイント !
マルチセンサーターミナルの利点は、①ネット接続がなくても利用可能、② Wi-Fi ® 対応しており、市販のネットワーク機器が利用可能、③あらゆるセンサーや機器が接続対象で、それらを複数同時接続可能、 ④汎用的 な オ ーディオケーブル等を利用しているためエンドユーザーで保守可能、⑤屋外向けに防水防塵ケースで保護可能、等が挙げられます。

お客様設置実績のあるセンサーとしては温湿度、気圧、CO 2 、NH 3 、振動、電流、水流等がございます。

◆相談先
株式会社 NTTデータ
TEL:050-5546-9018
Email:smarthog@kits.nttdata.co.jp
ホームページ:https://www.nttdata.com/jp/ja/

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