スマート農業を実践する“だんだんファーム掛合“の取り組み

島根県雲南市にて細ネギ、サラダホウレンソウ、サラダ水菜、ミニセロリなどの野菜を栽培している有限会社だんだんファーム掛合では、株式会社セラクの農業IoTサービス「みどりクラウド」を活用し、栽培環境の見える化を実現するなど、先進的な取り組みを行なっている。

本記事では、だんだんファーム掛合の取締役農場長 小田達雄氏と(株)セラクの持田宏平氏にスマート農業を実践することの有用性とその取り組みについてお話を伺った。

左:だんだんファーム掛合 小田達雄氏 右:(株)セラク 持田宏平氏

「みどりクラウド」導入の経緯

編集部:だんだんファーム掛合さんでは、セラクさんの「みどりクラウド」を導入して栽培の見える化を進めていますが、どのような経緯で導入されたのですか?

小田:私どもでは、10年ほど前から栽培データを取得してそのデータを栽培に活かそうという取り組みを行っておりました。

当時は、今みたいに1台でさまざまなデータが取得できる製品がありませんでしたので、ありあわせの機械を1台1台組み合わせて自作でシステムを構築していたのです。

農業を数値化することは栽培する過程でとても参考になり、それによって売上も伸びてきたのですが、問題点もありました。それは、従業員の熟練度の違いにより、休みの日などに多々事故が起きていたことです。

そこで、従業員との情報共有ができ、さらに遠隔地からデータを見ることができるものがないかと探していたところみどりクラウドを知り「あっこれだな!」と思いすぐに導入しました。それが2015年のことです。

だんだんファーム掛合 小田達雄氏

編集部:10年前から農業の見える化をしていたのですか!当時からしたらとても先進的な取り組みですよね。

小田:そうですね。私自身はそうは思わないのですが、栽培状況をデータ化することは大事なことだなと思い取り組んでいましたね。

持田:小田さんは本当に以前から先進的な取り組みをされていて、JAに務められていた際に、雲南地域の農家さんでJGAPを取得した野菜を「みどりちゃん」というブランドとして販売していましたからね。

(株)セラク 持田宏平氏

小田:そうですね。「みどりちゃん」というブランドは15年ほど前からはじめていて、GAP取得も全国で最も早く取り組みましたね。農協の中で、同じ品目で差別化をした取り組みは珍しいことだったと思います。

持田:農協がそれをやったというのが面白いですよね。今も農協から流通しているのですが、みどりちゃんは独自ブランドとして流通していますので、スーパーなどでは別コーナーで販売されているんですよ。

「みどりちゃん」:JGAP取得野菜

編集部:そのような先進的な取り組みをしようと思ったきっかけはなんですか?

小田:もともとこの地域は、作物を栽培するうえでの条件があまりよくないのです。ここは中山間地域で、梅雨や冬の季節はほとんど曇天のため、他の産地と比べて大きなハンディキャップがあるのです。

たとえば、ここ掛合の年間の日照時間は約1,400時間です。一方、四国や広島などでは、2,000時間ほどあります。そうすると、同じ野菜を作っても勝負にならない。

このハンディキャップを埋める何か良い手はないかということで、GAPの取得であったり、栽培の効率化を進めるなどして、他の産地との差をなくそうとしたのです。

「みどりクラウド」を使用して

編集部:みどりクラウドを使いはじめて、率直にどのような感想をもたれましたか?

小田:やはり、手元でリアルタイムに栽培状況を確認できるのが非常に便利です。そして、なにか問題があったときに、なぜそうなったかという経緯を追って検証できるので、次に同じことが起こっても失敗を繰り返すことなく対応できます。

また、私どものハウスには、遮光や巻き上げなど細かい制御ができる環境制御機器が入っているのですが、みどりクラウドのデータを環境制御機器の制御に活用しているのです。

持田:環境制御機器で自動化するにしても、一度測ってみないと何を基準にしていいかわからないですからね。

小田:そのとおりですね。それに、今、私自身の課題は、うちにいる数人の若手に技術を継承することなのです。そうしたときに、感覚で伝えるよりやはり数字で伝えた方がわかりやすい。そういったところも含めて、みどりクラウドはとても役立っています。

編集部:言える範囲で結構ですか、収量など具体的にどのくらい変化しましたか?

小田:収量は大きく増量しました。以前はネギの1パネルあたりの収量が約1.5kgだったのが現在では2.6kgに増えました。また、導入前は管理ミスによる事故もあったりしたのですが、導入してからは事前に事故を防ぐことができるようになりました。

さらに「みどりクラウド」に望むこと

編集部:遠隔地からの確認や情報共有などみどりクラウドを有効活用していますが、さらに改善点や要望などありますか?

小田:それは言えばきりがないですけどね(笑)。強いてあげれば、もう少し測定できる項目が増えるといいでね。もちろんみどりボックスPROに切り替えればできるのでしょうけど。あとは、私どもの全11棟のハウスにみどりクラウドは3台しか導入していません。

もう少し導入したいのですが、やはりコストが掛かってしまいますので、もう少しコストが下げられるとありがたいですね(笑)。とはいえ、他の製品と比較してもみどりクラウドは十分低コストなんですけど。

持田:そうですよね(笑)。だんだんファーム掛合さんは、導入されて4年経ちますのでデータがだいぶ蓄積されてきています。ですので、4年分のデータをどう活用するのかというところをこれからご提案できればと思っています。

今現在は、データ測定によって可視化することで少し前の状態を確認するという使い方ですが、蓄積したデータを活用してもう少し踏み込んだ使い方ができるのではないかと思っているのです。

たとえば、病気や収穫量予測などです。そしてそれができるだけの準備が整いつつあります。あとは、私どもがそれを提案できるように頑張らないといけないなと思っています。

小田:確かにデータを分析していただけるととてもありがたいです。日々の作業に追われてその時々でしか見ませんし、農家はどうしても自分の考えが正しいと思い込んでしまいがちになりますので、第三者から教えてもらえることで、今まで気づかなかったことも見えてくるのではないかと思います。でも、あまり料金が高くないといいですよね(笑)。

持田:データ処理というのは大変で、とてもExcelなどでは対応できないような情報量になります。

当社にもデータサイエンティストがおり彼らが分析するのですが、彼らはデータの処理には長けていても農業の知識がないので、このデータから何を見出したらよいか、何が問題なのかがわからないのです。そこがこれからの課題です。

小田:あと、今、私どもでは地上部の環境制御だけなので、下の根の部分の養液であったり土壌のところはまだできていません。そういった部分も含めてわかるようになるといいなと思っています。

持田:みどりボックスPROでは測れるようになっています。

小田:ECをですか?

持田:pHです。

小田:成分が知りたいんですよね。

持田:そこはまだなんです。土壌にしても溶液にしても成分を知りたいというリクエストはあるのですが、まだまだ技術開発が進んでいなくて実現できていません。

あと、もう1つやらなければいけないのは、植物自体がどうなっているのかという生体情報の取得です。

今、私たちが測っている環境データは間接的なもので、ある意味農業生産におけるインプットだけを測っている状況です。

その後どうなったかというところを測らないと、本当の意味でデータの活用を進めていくことはできないと思っています。

スマート農業には経験と勘が必要!?

小田:みどりクラウドを使うなどスマート農業を実践すると、収量も増えてどんどん右肩上がりに良くなっていきます。ただ、あるところまでいくと伸びが一定になって壁に突き当たります。

なぜかというと、スマート農業を実践することで素直に育ちすぎてしまい、ちょっとした天候の変化に作物が対応できなくなってしまうからです。人間でいえば、子どもを甘やかせて育ててしまうといったことでしょうか。

ですので、今は少しストレスをかけて育てるようにしています。スマート農業に取り組まれる方は、一度はこの壁に突き当たると思います。ストレスを数字にするのは難しいですけど、現在はこのようなチャレンジをしています。

みどりクラウド

持田:そこがノウハウですよね。スマート農業を実践すると栽培が平準化されてベースアップにはなりますが、そこから先は農家さんの経験が活きてきますよね。ですので、新規就農者の方などは、そこで伸び悩んでしまうのかもしれませんね。

編集部:経験と勘に頼らない農業がスマート農業の題目の1つですけど、“スマート農業を実践することで経験と勘が必要になる”というのは面白いですね。

小田:そうですね。また、最近思うことは、スマート農業機器やソリューションを導入すれば、だれでも栽培できるようになるのかというと、そうではないのです。

やはり自分で作れる力がないと環境計測機器を導入したとしても、あまり意味のないものになってしまいます。

編集部:展示会などで私どものブースに立ち寄る方たちも、「スマート農業機器を導入すれば、誰でも簡単にできるんでしょ?」という方が結構いらっしゃいますよ。

持田:目的と手段を間違えているというか、スマート農業を導入することが目的となっている方がいるのではないでしょうか。

小田さんのように明確な課題があって、その課題解決のためにさまざま努力をされている方もいますが、そもそも自身の課題がしっかりわかっていなければ、何を導入しても無駄になりますよね。

小田:スマート農業を始めれば自然に良くなっていくと思い込んでしまうのでしょう。繰り返しになりますが、まず自分で栽培できる力がないとだめで、その次に栽培の過程を数値化していくことが大事なのです。

栽培の基準

小田:どのレベルのものを作るかがポイントではないでしょうか。たとえば、100点が満点として、90点以上のものを作るのか、それとも60~70点のものを作るのかによって、意味合いが違ってきます。

90点以上のものを作るのであれば豊富な知識も必要ですし、一歩間違うと大事故につながるというリスクが伴います。

60~70点くらいものものであれば、無難にできるので事故も少ないですがそこそこの作物になります。

どちらが良いというのはないのですが、やはり農家として選択して営農に取り組まないといけないなと思います。

編集部:90点以上の野菜と60~70点くらいの野菜では、見た目の良さなどで価格に違いがでてきますか?

小田:多分、見た目には全然わからないでしょうね(笑)。

編集部:丹精込めて作った90点以上のものが他の作物と同じ価格で売られると、頑張り甲斐がないのではないでしょうか。

持田:そこはマーケットインなのかプロダクトアウトなのかというところではないでしょうか。多くの消費者が付加価値の部分を評価してくれて、その流通があるのであれば90以上を目指す人がもっと増えると思うのです。

ただ、現時点で消費者にはその違いがわからないですから、マーケットの求めるものを作った方が良いという選択肢もありますよね。

小田:私どもでは、後継者育成のために60~70点といった少し落としたところからはじめて、そのあとは、自分で上げていってもらう方法をとっています。

さいごに

編集部:さいごに、今後スマート農業に取り組まれる方たちに向けてアドバイスなどひとことお願いします。

小田:私はこれまで、どうにかして作物をもっと良くしよう、経営的に良くしようという思いから、環境情報を数値化するなどの取り組みを行ってきました。

やはり大切なことは、自分がどうしたいか、どんな農業をしたいかといった目的意識をしっかりもって取り組むことだと思います。

持田:小田さんの仰るとおりで、スマート農業のツールは単なる道具なので、その道具の使い所を自身で考えて使用していただくことが大切だと思います。

道具を導入したからといって生産効率や収量があがるわけでもないので、目的意識をもってそこに対して必要なスマート農業を導入されるのが良いのではないかと思います。

編集部:本日は貴重なお話を聞けてとても勉強になりました。ありがとうございました。

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