AI×ロボットで農業界に変革を起こす inahoの取り組み
~野菜収穫ロボットで農家の稼ぐに貢献する~

inaho株式会社は、鎌倉の材木座にある古民家をオフィスとしてAI搭載自動野菜収穫ロボットを開発しているスタートアップ企業。本イ 搭載自動野菜収穫ロボットを開発しているスタートアップ企業。

本インタビューでは、同社代表取締役 CEO 菱木 豊氏にロボット開発の経緯やさまざまな同社のユニークな取り組みについてお話を伺った。

inaho株式会社 代表取締役CEO 菱木 豊氏

設立の経緯

自動野菜収穫ロボットを開発する会社を設立された経緯をお聞かせください。

簡単に言ってしまえば、鎌倉野菜を作っている友人に「作ってくれ」と言われたからです(笑)。私自身はといえば、調理師学校を卒業後、不動産投資コンサルタントの会社に勤めていたので、農業も工業も全く無縁の生活を送っていました。

引き受けたのには明確な理由があります。もともと設立する5年ほど前からずっとAIの勉強をしていたのです。そんな中、 米国のBlue River Technologyという、レタスを自動的に間引く技術をやっている会社を知りました。

同社はカメラとディープランニングを使ってレタスの状態を認識し、不要な対象に薬剤を投与・塗布して間引くことを行っていたのです。

その話をたまたま先ほどの鎌倉野菜をやっている友人に話したところ、彼からは「レタスを間引くのではなく、家の畑の雑草抜きを手伝ってくれ」と言われました。

そこから野菜か雑草かを見分けて雑草だけを取るロボットができたらすごくいいテクノロジーだなと思ったのがきっかけです。

「AIの勉強をしていた」と仰っていましたが、なぜAIの勉強をしていたのですか?

以前、湯川鶴章さんというITジャーナリストの塾で事務局を手伝っていたことがありました。そこで、東京大学の松尾豊先生をはじめ、さまざまな方々の話を聞く機会があり、AIに興味をもちました。まさに「偶々」という感じです。

設立時、どのようなご苦労がありましたか?

苦労といえば、これは身も蓋もない話ですが、やはりお金ですね(笑)。どうやって開発費を集めるのか。いまベンチャーキャピタル(venture capital:VC)も多く、お金がたくさん出てくる気がしますが、ハードウェアの開発はあまり皆さんやっていないので、成功事例をうまく描けないのです。ですので、最初は理解を得るのが大変でした。それと、人材を探すことも大変でした。

古民家を改装して社屋にされたのはなぜですか?
一見、ロボットを開発している企業のオフィスには見えないですよね。

ここは自然が豊かですし、庭先でロボットの収穫実験ができる開発環境は都心では絶対に無理ですからね。それに、私自身が鎌倉出身で地元なので、せっかく税金を落とすなら鎌倉がいいな、というのもあります(笑)。

古民家を改装した inadoオフィス

AI搭載自動野菜収穫ロボットについて

御社では、アスパラガスの自動収穫ロボットを開発していますが、なぜアスパラガスなのですか?

当初、除草ロボットをやろうといろいろ活動しているときに、たまたま福岡でアスパラガス農家の方と出会ったのです。そこで「雑草取りではなくてウチのアスパラ収穫をやってくれ」と言われたのがきっかけです。

農家の方のお話を聞いていると、アスパラガスの収穫がとても大変だということがわかりました。毎日の収穫にかかる時間は、雑草取りよりも断然割合が大きかったのです。そこでアスパラガスの収穫ロボットの開発をはじめました。

それに、技術的にもトマトやイチゴなどの収穫に比べるとアスパラガスを収穫する方が比較的簡単でした。そもそもトマトが「空中」にあるのに対し、地面から一定で生えているアスパラガスはとりやすいのです。

アスパラガスは色に関係なく、サイズと長さを認識して収穫します。地域により異なりますが25~26 cm以上です。その長さをセンサで捉え収穫していくのです。

アスパラガス以外の野菜も収穫できるのですか?

アスパラガスの収穫ロボットは2019年5月にリリース予定です。そのほに、現在キュウリの自動収穫にも取り組んでいます。まだ精度が不十分なのでもう少し調整が必要です。

でも2019年7月には正式にリリースする予定で進めています。キュウリは葉の間に隠れてしまうことが多いので、そこが難しいところです。

しかし、今後はキュウリ、ピーマン、トマト、ナスと収穫できる品種を広げていこうと考えています。また、将来的には果樹などの摘果や剪定などのロボットをやりたいなと思っています。

AIは画像認識部分に使われているのですか?

そうです。たとえば、緑の葉が多いなかでどれがキュウリなのかという判別にAIの画像認識を用いています。アスパラガスは、もともとは画像処理をしておらず、TOF(Time-of-Flight)センサだけを使っていたのですが、やはりその違いが最後には出てきます。

ロボットに収穫させる際、どのような点が大変でしたか?

そうですね。やはり日の光の入り方ですね。光の入り方によって見え方が変化してしまい、認識のさせ方が難しくなります。

そこが工場内と大きく異なる点で、一定環境ではないところが苦労するところですね。晴れている方が見にくい。カメラを太陽に向けると白ボケしますが、あれと同じことです。

導入予算0円のワケ

以前、私どもが発刊している『スマート農業バイブルⅡ』の製品紹介コーナーに寄稿いただいた際に、導入予算0円となっておりましたが、その仕組みを教えてください。

弊社では、RaaS(Robot as a Service)モデルというビジネス方式を採用しています。RaaSモデルとは、ロボットが収穫した重量と、市場取引価格と引き比べることでロボットの収穫高がわかります。その収穫高に応じてマージンを15%頂戴します。

たとえば10 kg収穫し、kg単価1 ,000円であれば、10 ,000円分の野菜を採ったことになり、私たちは15%の1 ,500円を頂戴するといったことです。そのため、農家は導入資金ゼロから始めることができます。

新規就農応援プログラム“inahoの穂”

御社では、昨年10月に新規就農者プログラム“inahoの穂”をスタートしましたが、“inahoの穂”とはどのようなものですか?

“inahoの穂”は、農家のリアルな“経営”を全国で活躍する有名農家から学ぶことのできる農業研修プログラムです。ソフトウェアの世界にはオープンソースや頻繁なアップデートが付きものですが、農業の世界では皆無です――もちろん教科書はありますが。

そこで、実際に農業で成功している人のところで学べる環境を提供できればと思い始めました。農業を学ぶために農業法人で働くという選択肢もありですが、単純作業しかできず、夢をもって入ってきても嫌いになってしまう例が現にあるようです。

私どもでは、そうではない道、安心してしっかり学べる場所を作れればと思っています。

実際にはどのようなことが学べるのですか?

プログラムでは、教えていただく農家の近くに泊まり、収益計算や販路開拓方法などといった座学を含め、マンツーマンで3日間の現場作業を行います。篤農家とよく言われますが、その姿はどこにあるのでしょうか。

どうやってコンタクトをとるのでしょうか。われわれは、どこにいるのか、どうやってコンタクトをとるのかわからない篤農家と新規就農を目指している人をつなげる場を作りたいのです。

プログラムに参加する人たちは、ロボットを使ってやりたいと言ってくれます。われわれからすれば、このプログラムで学んでくれて、将来的にロボットを農業で活用してくれれば、より嬉しいですね。

このプログラムはいつでも参加できるのですか?

時期にもよりますが、やりたいと思えばすぐに受けられます。アスパラガスだと2月くらいから忙しくなりますが、タイミングが合えば問題ありません。

キュウリのプログラムもいま準備しているところです。実際には当社ホームページ経由でお申込みいただくのではなく、そのまま農家に直接行ってもらいます。研修プログラム自体には当社はかかわっておらず、あくまで「入り口」の役割です。

ICT、AIがもたらす農業の未来

昨今、農業のICT化が進んでいますが、日本の農業の現状と将来についてどう考えていますか?

農家の数はあと10年で今の半分になると言われていますから、何かしら変えないとまずいのは誰にでもわかることです。基本的にはどんどん集約化が進み、半分の担い手で今と同じ面積にしようと思えば、現在行っている作業を効率化するしかありません。それがトレンドになるでしょう。

特に注目されている技術などありますか?

データ回りに関心があります。今まで取れなかったデータが、量も含めて取れています。でもデータを蓄積するだけではどうにもならないので、それをどう活かしていくかが問題です。

われわれも将来、ロボットが取得するユニークデータを、他の企業と連携しながら解析・活用するかもしれません。現在、農林水産省で進めている農業データプラットフォームのWAGRIのようなビッグデータの集約もその1つですし、個の農家に対してどうするかもまた別の課題で、そこはこれからの話です。

さいごに農家さんに伝えたことはありますか?

ロボット導入により生産面積の拡大が図れることを伝えたいですね。そうすれば収益はアップします。当社が農家さんと話をしているのは、「4桁万円取れるプレーヤーになりましょう」ということです。そして、それはできると思います。

人手の問題で面積が増やせないのであれば、そこにロボットを入れることで解決を図る。その部分をわれわれが一緒になって解決していこうと思っています。われわれは決して人減らしをしたいわけではありません。

今の人員を維持した上でロボットを活用し、さらに拡大できればよいのですから。農家さんが生産面積を増やして稼いでくれれば、われわれの利益にも繋がりますので、まさにWin-Winの関係になります。

ですので、われわれは農家さんの生産面積拡大という点にもおいても、今後支援していきたいと思っています。
   

― ありがとうございました。


菱木 豊 代表取締役CEO
鎌倉生まれ、鎌倉育ちの鎌倉っ子。不動産投資コンサルタント会社に入社し、4年後に独立。2014年に株式会社 omoroを大山らと設立し、不動産系 Webサービスを開発運営後に売却。AI導入のコンサルティングや、InstagramのマーケティングWebサービスを開発運営。地域活動のカマコンの運営。最新テクノロジーに関するTheWave塾の事務局等、幅広い分野で活動。

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