植物生理学的に「正しい」データの土壌マネジメント ~ IoT時代をリードする~

データ土壌マネジメントのメリット

皆さんが注目している農業でのIoTやデータマネジメントについて、具体的に解説されている記事が少ないと感じている。農業において大切なものは、大きく分けて、種子(作物)、環境(気候風土を含める)、土壌(肥料)の3つ。

これらについて、実際に現場をもとに説明する。土壌マネジメントは、これまでの勘と経験のみから、論理的な解決を加味したものへ最先端の農業では進化している。論理的な解決のもっともな違いは、土壌分析によるデータ化にある。

農業は食料生産だが、生産物の販売が継続的にできて成り立つものである。他の産業と同様に、販売数量と販売単価の掛け算で、売り上げが成り立ち、病害虫被害によるロスのない安定した生産が安定した経営につながる。

栽培では、作物の生育を助けるために、畑を起こすこと(耕起)、整地、種まき(は種)、水やり(灌水)、肥料を与える(施肥)、除草等の一連の作業(肥培管理)を行う。

この作業は、作物の花、葉、実、茎が育つ地面から上の環境(地上部)と作物の根が育つ土壌と肥料(養分)など地面から下(地下部)の環境を整えるために行われ、概ね地上部が環境マネジメント、地下部が土壌マネジメントにあたる(図1)。

図 1 環境と土壌の関係

作物は、地上部と地下部の両方で生育するため、環境と土壌の両方を総合的にマネジメントする必要がある。農業を仕事にする人たちの間でも、データによる環境マネジメントを使いこなし、品質向上や安定生産のメリットを享受できる農家は、まだ極少数である。

その理由は個々の環境に合わせ問題解決する教育がなされていないこと、それぞれの現場に適した商品になっていないことや、現実的にデータを収集したり、計算したり、判断する時間や知識が不足していることが原因である。

スマート農業を現実化するために、今まさに既存の農業に足りていなかった、理論的なマネジメントをシステムやツール、IoTを使って実現しようとしているが、まだ不十分である。

また、一方でIT業界から農業を眺めてみると、大規模向けのトータルソリューション、中小規模の農家の履歴管理、モニタリングと、現状把握までにサービスが限定されており、実質的なメリットを与えることができておらず、既存のほとんどの農家に提供できていないと言える。

ここで、あらためてマネジメントとは何かについて確認してみる。アメリカの経済学者 P.F.ドラッカー的には、マネジメントのことを「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義している。マネジメントの基本的な手法として、PDCA(Plan→Do→Check→Action)がある。

Plan(計画)は、これまでJAなどによって提供され、Do(実施)は、農家が実践し、Check(評価)は、今まさにモニタリング、センシングや履歴管理によって可視化されつつある。今回、問題提起したいのが、Action(改善)の部分である。

結局のところ、モニタリングも履歴管理も自動化も、手法や判断は以前のままであり、IoTも人間の腕や足、 脳(記憶 )の部分的な技術が代替されたにすぎないのである。

本来の目的を鑑みれば、人間の記憶領域や計算容量を超えたシステムによる過去の莫大なデータからもたらされる「正しい」生理学理論に沿ったレコメンド(推奨)がなされるべきだと考える。Action(改善)のためには、土壌マネジメントが必要となる。

土壌マネジメントとは

土壌マネジメントとは、土づくりと施肥(肥料を与えること)を行うことで、土壌の3つの性質(図2)、すなわち、物理性、化学性、生物性を可視化(見える化)することから始まる。

図 2 土壌の三要素

物理性は、土の水もち(保水性)、酸素供給(通水性)、土の硬さ・軟らかさなどの性質で、土・水・空気の割合と重さで表される(図3)。

図 3 土壌の物理性分析評価例

砂・粘土・火山灰土などの土性がわかる。化学性は、 土壌の養分量やその養分が吸収、利用しやすいかなどの養分環境にかかわる性質である。生物性は、微生物の種類や微生物などによる有機物分解力や土壌病害にかかわる性質である。

3つの中で、物理性が基本となる。土壌分析は、畑の土を採取することから始まる。基本的には、畑の概ね均等な5箇所から土を取り、混ぜたものをその畑のサンプルとするのである。

露地野菜、果樹、ハウスなどの施設野菜では、採取する場所は異なるし、採取の深さも根の張る部分(根郡域)を取るので、作物の種類と畑によって異なる。

化学性の分析は、分析キットを使い自分で簡便な操作で行う方法と、分析機関に依頼し専門家により分析する方法がある。いずれの場合も、pH、EC、硝酸態窒素、アンモニア態窒素、リン酸、石灰、苦土、カリ、保肥力 (CEC)などの分析を実施する。

物理性の分析は、専門の採土リングを使って採取したのち、自分でフライパンとコンロ、計りを使って調べる方法と、分析機関で土壌三相計を用いて実容積の測定を行う方法などがある。

生物性の分析は、(株)DGCテクノロジーの土壌微生物多様性・活性値分析やSOFIX土壌分析の総微生物量や土壌バイオマス量を測る方法などがある。できれば、化学性と物理性か生物性、2つ以上の分析から複合的に土壌診断を実施することが望まれる。

そして、土づくりと施肥は、作物の種類と気候風土などの環境から、具体的で現実的な与える肥料の種類と量を決め、与える場所などを勘と経験(生産者と一緒に)を踏まえて決めていくものである。

※ 土壌分析は、公定法としての定めはないため、何を目的として分析するかでその測定法が異なり、その結果の意味は変わる。

IoTと土壌マネジメントの親和性

土壌マネジメントの手法である土壌分析・診断は、栽培前の土壌の初期条件を決めることが主である。また、現在行われているIoTによる温度、湿度、明るさ、炭酸ガス、土壌水分・ECのモニタリングやセンシング技術は、栽培中に行われる。

たとえば、栽培中において、野菜に与える水の管理を考えた場合、土壌中の水と空気の関係が肥料の動きや根の吸収力を左右する。

与える水の量は、土壌の性質によって変わるし、与える水の量で作物の周りの温度、湿度は変わる。土壌の全養分は、土壌の水分量と気温によって溶け出し方が変わる。

また、土壌の保肥力 (CEC)、土壌の性質によっても変わる。晴天になり光の量が増え、気温が上昇、光合成力が上がり、作物が吸収する養分と水分は増えるので、それらは土壌から減少する。

土壌分析・診断による土壌の見える化とIoTでの変化の見える化で、土壌と環境の親和性を評価していく必要がある。

データを使った土壌マネジメントの特徴(事例)

私たちの土壌マネジメントの1例を紹介する。あるJAのニンジン部会では、ニンジンの黒葉枯病、腐れやシミの発生による良品率の低下が課題であった。そこで、次のステップ①から③を実施した。

【実施内容】
ステップ①:土壌分析の実施
土壌 の物理性分析 と化学性分析 を生産者十数名の畑で行った。

ステップ②:診断結果の解釈
土壌の化学性分析では、pHが低い、リン酸が少ない、肥料バランスが整っていない(図4)。

図 4 土壌の化学性分析評価

物理性分析では、土壌の空気(気相)が多く、土(固相)が少なく、土の重さが軽い(仮比重が小さい)ため、乾燥しやすい特徴であることがわかった(図5)。また、栽培環境は、7月に種まきをするため気温が高く、土壌に残っている窒素肥料が利用されやすいことが予想された。

図 5 土壌の物理性分析評価

ステップ③:肥料の改善
与える肥料の種類と量を変更した。窒素肥料の量を少なくするとともに、有機態窒素の割合が高いものを選び、リン酸を増やし、石灰肥料、苦土肥料、カリ肥料のバランス整える計画とした。

【結果】
結果①
提案に従い改善した生産者は、そうでない生産者より平均的に糖度が高く、硝酸態窒素残留量が少なくなった(図6は、ニンジンの食味評価で、糖度が高く、硝酸イオン値が低いエリア①のものほど良いと評価)。

図 6 ニンジンの食味評価

結果②
黒葉枯病、腐れやシミの発生が減少、歩留まりが改善し、収穫量が増えた。

結果③
農薬による防除回数が減り、農薬代の節約となった。

※ 次に必要としているのは、loTによるモニタリングやセンシングにより、栽培中の土壌変化や天候変化を可視化することである。

ユーザのメリット

私たちは、生産者へわかりやすく、具体的で現実的な表現で土壌マネジメントを提案する。生産者がいつも使っている肥料や入手しやすい肥料を基本とし、有機質肥料や化成肥料を選択し提案するため、取り組みやすいものとなる。また、入手しやすく手頃な価格の肥料を使うことで、コスト負荷の少ない改善が図れる。

感覚から理論へ進化する先端農業

私たちは、スマート農業を実現していくために、土壌分析・診断を活用した土壌マネジメントで、現場の初期条件や改善目標を提案(見える化)し、栽培中のIoT、モニタリング、センシング技術で看 (み)える化を追求し、毎作安定した栽培、商品とし生産物をより良いものに育てるプロセスを見つけたいと思っている。

また、誰でも使えて、楽しめるアプリの開発も進めていきたいと思っている。これらの実現を進めているのが、 わが社のAgriCare事業である。ぜひ、活用いただければ幸いである。

※スマート農業360 2019年春号『特集:土壌を〔見る・観る・診る〕』より転載

◉価格
複合土壌診断・施肥設計:¥12,000
他社分析値診断・施肥設計:¥10,000
セミナー(2 時間、4 名以上):応相談
※交通費、宿泊費別

Tips!
①複合土壌分析・診断の実施、②土壌診断数値活用セミナーの開催、③現場実習セミナーの開催などで、土壌マネジメントによる営農
指導のサポートを行います。

相談先
株式会社国際有機公社
TEL:0763-55-1602
E-mail:info@oisii-saibai.com
ホームページ:https://oisii-saibai.com/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください