農業 IT「みどりクラウド」による 圃場環境の可視化

様々な業界でスマートフォンを始めとする ICTの導入が加速するなか、日本の国策として ITを農業に導入することが推進されている。

「みどりクラウド」は「手軽」で「安価」を主軸に置いて株式会社セラクが開発した農業 ITサービスであり、省力化・データに基づいた環境制御による高収量化・暗黙知の形式知化によるノウハウの継承など様々な方面の活用が期待される。

IoT機器の農業分野への普及

2000年代にApple社によるiOSの開発やGoogle 社による Android OSの開発が行われて以来、携帯電話の新たなOSとして急速に広まっており、2014年には日本国内におけるスマートフォンの普及率は5割にも達している 1)

Androidの普及が IoT 機器の開発を容易にしたこともあり、株式会社セラクでは Androidを組み込んだ洗面台「スマート洗面台」を 2011年に発表した。

2013年には家庭や飲食店で利用可能なAndroidを組み込んだ近未来型の家庭菜園機器となる「スマート野菜工場」の開発も行い、他社に先駆けてIoT機器の開発・発表を行ってきた。

上記2 点は近未来を想像させる製品ということもあり、2013年に開催されたDroidcon London 2013の招待展示を筆頭に数々の展示会へと出展された。「スマート野菜工場」に関しては近未来の農業生産を体現した製品であるため、多くの農業生産者からの注目を浴びるものであった。

一方、従来の農業生産は大別して露地栽培と施設園芸栽培の2つに分かれる。施設園芸栽培では、気温・湿度・CO2濃度などの生育環境をコントロールすることが可能となる。

生育状態に合わせて正確に環境調整を行うことにより単位面積当たりの生産高を増加させることや、栽培が厳しい時期にも栽培が行えることがメリットである 2)

オランダで施設園芸栽培が成功を収めている話は有名であり、オランダ式の栽培技術を基に日本型にアレンジし、取り入れることが推奨されている(農林水産省、「全国農林水産業・地域の活力創造協議会(第5回)」より)。

こうした技術改革の一環として、ICT(Information and Communication Technology)を農業に活かすことが挙げられている。

「スマート野菜工場」の環境情報収集技術は、まさに ICT 農業技術に合致するものであり、この機能のみを単離することで手軽に導入可能な IT 農業機器「みどりクラウド」(図1)とした。

図 1 2015年10月に販売を開始した「みどりクラウド」の測定端末機器にあたる「みどりボックス」

手軽で安価に利用できる「みどりクラウド」

IT農業向けの機械「みどりクラウド」を開発するにあたり、扱いが「手軽」かつ「安価」であることを主軸とした。

利用者が取り扱いを「手軽」に感じるために特に注力した箇所は、機器のセットアップの容易さと、画面のUI(User Interface)およびUX(UserExperience)である。

利用者が「みどりクラウド」を注文した時点で自動的にクラウドサーバ上の設定が行われるため、圃場環境を測定する端末となる「みどりボックス」が利用者の手元に届いた段階で大半の設定が完了している。

このため、「みどりボックス」の電源を投入し、AndroidまたはiOS専用のソフトウェア「みどりモニタ」を導入するだけで利用可能となる。

また、通常のコンピュータのウェブブラウザにも対応している。利用開始後の実データの閲覧画面のI/UX、マニュアルがなくとも感覚的に利用可能な画面(図2)を設計し、必要な情報を瞬時に判別可能とした。

データ閲覧が可能な機種は通常のコンピュータ・iOS・Androidに加え、フィーチャーフォンにも対応している。

図2 「みどりボックス」により収集されたデータを閲覧するアプリ「みどりモニタ」の画面

フィーチャーフォンに「みどりモニタ」を表示する場合には図3に示したようにグラフ表示機能はないが、現在の数値、最高値・最低値が確認可能である。

フィーチャーフォンの利用状況は図4に示したとおりであり、2015年現在では、フィーチャーフォンのみを所持している割合は 37.2%である。ICT端末所持者のうち1/3は依然としてフィーチャーフォンを利用している。

図3 フィーチャーフォンから「みどりモニタ」を表示した際の画面

図4 スマートフォンとフィーチャーフォンの利用状況(年代別)
(出展)総務省「平成27年版情報通信白書」より

さらに 50 代の年齢層ではスマートフォンとフィーチャーフォンの利用者はそれぞれ47.7%と45.8%とほぼ同程度の割合であり、60代以上ではフィーチャーフォンが70.3%と多数を占めている 3)

日本の農業では少子高齢化の影響を顕著に受けている分野でもあることから、フィーチャーフォンに対応することによる幅広い利用者への提供を可能とした。価格を抑えるためには機器の単価を抑えることが重要である。

「みどりボックス」内部はコンピュータ・通信・データ収集の 3 種類のボードから構成され、CPUボードをコストダウンすることで安価な製品を実現した。センサ自体は単価が高い傾向にあるが、実績と信頼性を重視したものを用いている。

「みどりクラウド」の機能

2016年6月現在の「みどりクラウド」では「みどりボックス」に6種類7系統(気温、湿度、日射量、土壌水分、培地温度、CO2濃度、静止画撮影)のセンサを備え付け、圃場内環境を測定している。

取得したデータは 2 分ごとにクラウドサーバにアップロードされ、遠隔地から監視することを可能としている。

農作物の育成には単純に測定されたデータ以外にも「積算温度」、「飽差」、「日照時間の計算」など簡易的な解析結果を目安とすることも多い。

「みどりモニタ」上の機能として、上記3種類の解析結果も表示している。さらに、気象予測データも「みどりモニタ」に表示させており、天窓の開閉や灌水の計画などを早めに立てることが可能となる。

「みどりクラウド」の機能の1つとして、「警報機能」がある。警報を知らせる閾値をあらかじめ設定しておくことで設定範囲を超えた数値を検出した際に、スマートフォンへの通知またはメールを送信する機能である。

図5には警報設定の閾値を越えた際に送られる通知の1例を示した。

外気環境によって左右される温室内の条件を作物育成に最適な環境に調節するためだけでなく、環境維持装置が正常に動作しているかどうかも間接的に評価可能であるため、「みどりクラウド」の主力となる機能の1つである。

図 5 「みどりクラウド」警報機能動作時の
スマートフォンへのプッシュ通知の1例

圃場環境をモニタリングする農業用機器の中で、カメラを備え付けているものは多くはないが、「みどりクラウド」は標準で搭載している。

生産者ごとに利用方法は様々であるが、設備の監視、盗難防止などに利用する場合や、「みどりモニタ」の機能の1つとなる「スライドショー」を活用し、生長記録に利用されている。

利用者の活用方法

「みどりクラウド」は2015年10月より販売を開始し、2016年6月現在で、全国約250ヵ所に設置されている。

現在最も多い活用方法としては、現在値の確認や短期間の圃場内環境の変動を確認することに利用されている。以下に実際の生産者で利用されている例を述べる。

1つ目の例は、大型機器を動作させるための燃料を節約したケースである。

冬季には温室内の気温を一定以上に保つ必要があるが、圃場が遠隔地にある場合、様子の確認に大きな手間が掛かるゆえに、必要以上に高めの温度に設定する傾向にあるが、「みどりモニタ」により常に監視可能となったことで、安全域ぎりぎりの温度に設定できる。

これにより、暖房機器の燃料節約に繋がった事例である 4)

2つ目の例は、装置の死活監視にカメラの画像を利用するケースである。

夜間電照を行う必要のある菊生産の例では、電照機器が正常に動いているかどうかを確認する必要がある。機器の死活監視のため、夜間でも頻繁に現地へと足を運ばなければならないが、「みどりモニタ」の静止画を見ることで、遠隔地から電照機器の死活を監視可能となった。

これにより、省力化へと繋がった事例となる。

3つ目の例は、多額の損失に繋がる事故を警報機能により未然に防いだケースである。

温室内圃場では冬季の温度管理はすべての作物にとって最重要の項目であるが、200V電源のみの停電により気温制御機器の機能が一時的に失われてしまった。

「みどりボックス」は100V電源により稼動したままとなり、圃場内の気温を測定し続けていた。徐々に気温が低下し、警報発令下限を下回った時点で、「みどりモニタ」から数度にわたる警報が発令された。

本ケースでは、「みどりモニタ」からの度重なる警報を受信したことにより不審に思った生産者が現場に急行し、温調設備を復旧できたことから、多額の損失が起こる危険を未然に回避したとの事例である。

※スマート農業バイブル ―『見える化』で切り拓く経営&育成改革より転載

◆参考文献
1) 総務省:ICT利用環境の変化,平成26年版情報通信白書,2015
2) 長野敏英ほか:施設の環境調節,新農業気象・環境学:147-157,2010
3) 総務省:ICT端末の利用状況,平成27年版情報通信白書,2016
4) 小田達夫:葉菜溶液栽培施設のデータにもとづく経営改善,施設と園芸172:30-34,2016

◎価格
みどりクラウド3G版・・・¥89,000
みどりクラウドWi-Fi版・・・¥68,000
オプションCO2センサは別売り・・・¥25,000

販売代理店・取次店様募集中 !
「みどりクラウド」を開発した株式会社セラクでは、本製品を取り扱う販売代理店、および、取次店を募集しています。これまでに「みどりクラウド」を導入することで、圃場における課題の顕在化を促し、新たな農業機械や資材の導入につながった事例があります。環境計測を行うことで、必要な資材の販売促進にも効果が見込める製品となっています。

相談先
株式会社セラク
TEL:03-6851-4831
E-mail:info@midori-cloud.net
HP:https://midori-cloud.net/

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