新農業改革を支えるロボット技術

はじめに

日本の農業の特徴として気候が挙げられる。温暖で高温・多湿な気候条件のため、病虫害が発生しやすい。そのため、食料の安定した生産には、病害虫の防除は欠かせないものとなっている。合わせて、近年、農業従事者の減少や超高齢化に伴い、効率・利便性の高いドローンでの農薬散布に需要が高まっている。

本稿では、日本の農業が抱える問題を多方面から解決するためのロボット技術として薬剤散布用マルチローター「MulsanDAX04」、除草剤散布水上ボート「TB001」、鳥獣害対策ドローン「ANI-BUS」を紹介する。

薬剤散布用マルチローター「MulsanDAX04」

まずはマルチローター(農薬散布用ドローンをマルチローターと言う)が行うのは空中散布であり、2016年4月性能認定に関するガイドラインが一般社団法人農林水産航空協会(以下、農水協)により制定された。TEADの「MulsanDAX04」が日本で初めて、農水協による認定を受けた。2016年7月に販売され約200台強を出荷している。

マルチローターを使った空中散布では、高濃度で散布可能 な登録農薬 を散布 す る。 散布量 は、1haあたり8L(リットル)。作物の2m(メートル)上空を飛行速度10~15km/hで4m(メートル)幅で散布する。おおよそ1フライト10分である。これを動力噴霧器で行おうとすると2時間以上を要する。ここは大きな省人化、効率化の要素がある。に防除機別比較(当社調査資料)を示す。

1)目指したのは、無人ヘリコプターに匹敵する散布性能
「MulsanDAX04」は、4枚の大きなローターを高速回転させることで発生する強いダウンウォッシュ(プロペラの回転によって生じる下側に吹き付ける風の強さ)により農薬を作物の根元まで確実に届けることができる。

飛行時のホバリング性能だけを見ればローターが多いほうが安定すると思われるが、農薬をしっかり作物に散布するためのダウンウォッシュ“気流”を考慮するとホバリング性能だけを求めすぎても充足できない。「MulsanDAX04」は、農薬散布用として最大の効果が出るよう綿密に設計された機体である。

機体はヘビーユースに耐えられるよう丈夫な設計となり、そのため最大離陸重量は27 kg(10リットルの農薬を搭載した時の総重量)と国内最大級のマルチローターである。実は、最大離陸重量25 kg以上になると他の機体にはない100時間の耐久性能試験等の条件が付加される。「Mulsan-DAX04」はこのような条件をクリアーした性能と耐久性を備えた国産の薬剤散布用マルチローターである(図1)。

図 1 強いダウンウォッシュにより株もとまで農薬を届ける

2)自動飛行対応モデル「DAX04 TypeT」の開発
2019年マルチローターの運用ルールが大きく変更され、自動飛行が解禁され最初のシーズンとなる。「MulsanDAX04」も自動飛行対応モデルとしてバージョンアップし「DAX04 TypeT」と変わる(図2)。

図 2 DAX04 TypeT

除草剤散布ボート「TB001」

大規模な圃場では、エンジン仕様のラジコン散布ボートが活躍してきた。エンジンを搭載していることから船体重量が重く、稼働条件としては10 cm(センチメートル)以上の水深が必要となる。価格も100万円を超える物が多い。

TEADでは、2017年から中小規模の圃場で使えるエアーボートの開発を行ってきた。特徴としては、船体後部の大型のファンをモータで回転させ前進させる。スクリューをなくしたことで苗を傷めない。さらに、船体の底面、船底の形状にもこだわった。

できる限り平らな船底にすることで、苗の上をすべるように進む。バッテリで駆動することから軽量化が図られバッテリ搭載時の総重量は約9 kgと女性が持ち運びできる重量に設計された。エンジンボートでは難しかった船体のバック機能が付加されている(図3)。

図 3 農薬散布水上ボート「TB001」(2018 年4 月発売)

現在は、フロアブル材(液剤)の散布が可能であるが今後粒剤の散布装置を開発予定である。また、今後、農薬軽減の方向性からチェーン除草機を装着し無農薬栽培への提案も行ってゆく。

鳥獣対策ドローン「ANIBUS」活用の期待高まる

ドローン活用で期待されるのが「鳥獣獣対策」である。これは、ドローンに搭載した通常のカメラや、赤外線を検出するサーマルカメラなどによって農作物に被害を与える野生動物の生息を監視し対策を行うことである。昨今、クマやシカ、イノシシなどの野生動物が山から人里におりてきて農作物に大きな被害を与えるケースが増えている。

この対策として、ドローンを活用する実証実験が各所で行われている。たとえば、空撮により動物を探索したり、その足跡をAI解析し獣道を作成したりすることで生態調査を行い、調査内容を元にどういった対策を打つことができるか検討を加えていくことである。まだ実証実験中ではあるものの、ドローン活用のメリットは広域調査や夜間調査(夜間飛行は制限がある)が可能な点が挙げられる。

現在の主な参画事業社は、サーマルカメラメーカやAI技術を活用したソリューションメーカなどが事業参入しているが、あくまでも調査を目的とした事業社である。2015年5月に鹿と猪の生息を10年間で半減させる法案が施行された。獣害駆除の1つとして、猟犬により害獣を追い込んで射撃する方法がある。

しかし、この方法は、猟師不足と猟師の高齢化、猟犬の飼育が問題になっておりこの対策として、鳥獣撃退装置U-SONICをドローンに搭載する案が浮上した。ドローンから送られてくるカメラ映像を見ながら遠隔操作を行い、U-SONIC音を鹿に照射して目標地に追込み猟師が、追込先に待機して射殺する方法である。

メリットは、険しい山道を歩き回ることがなく、安全な場所で猟ができるようになる。もう1つはドローンの自動飛行機能を活用し決められた圃場にあらかじめ設定した飛行ルートをU-SONICを搭載したドローンが上空から定期監視する方法である。将来的には、自動でAIが個体を認識し、音を鳴らしながら追尾、鳥獣を圃場に寄せ付けない等の機能も考えられる。

U-SONICの特徴は、鳥獣が嫌う音声を複数混合させて発生させる装置でイノシシ、シカ、ハクビシン、カラス、クマへの効果が実証されている。製品名「ANIBUS」ドローンの企画設計をTEADが行いドローン用の音響装置をモハラテクニカが手掛ける(図4、5)。

図 4 モハラテクニカ社の USONICを搭載した鳥獣対策ドローン「ANIBUS」(2019 年発売)

図 5 2018年幕張 第8回農業ワールドにて発表
エンジンで発電した電力で飛行することが可能な長時間飛行モデル。これにより広範囲をカバーすることが可能となる。(2019年秋発売予定「ANIBUS-Hybrid」)

今後の展開

需要拡大しているマルチローターによる農薬散布市場であるが、解決すべき課題も存在する。「空中散布可能な農薬が少ない」という問題である。通常、地上で散布する農薬は低濃度で散布するため希釈倍率が1 ,000~2 ,000倍ほど。

そして無人ヘリやマルチローターなど空中散布用の農薬は、希釈倍率としては8~16倍ほどでかなりの高濃度となっている。しかし、現在この空中散布に対応できる高濃度の農薬として登録を受けている農薬は、2018年12月時点で270剤ほどであり多いとは言えない。

現在農水省内でも無人航空機での散布の促進のため、すでに登録がある農薬等についても、高濃度な農薬の適用を拡大できるよう調整中であるが、国の動きが加速すればさらに空中防除における需要が広がっていくと考えられる。

<価格>
薬剤散布用マルチローター「DAX04」:255 万円〜
除草剤散布ボート「TB001」:60 万円
鳥獣対策ドローン「ANIBUS」:180 万円〜

募集中 !
安心、安全な防除を行うための人材育成を行っていただける教習施設を募集中です!!

◆相談先
TEAD 株式会社
TEL:027-388-9696
E-mail:info@tead.co.jp
URL:http://www.tead.co.jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください