自動航行が、農業をさらに飛躍させる

はじめに

ドローンメーカとして世界をリードするDJIが、農業向けに自社開発を行うDJI Agrasシリーズか ら、2018年10月に発表した新商品「Agras MG-1P RTK」について紹介する。

現行販売のMG-1は、使いやすさと優れた安全性能を備えており、順調に販売数を増やしているが、さらに本製品では最新のRTK技術を搭載し、センチメートルレベルの自動航行を可能にしている。

精密農業に適した高精度の自律農薬散布を実現し、農業をさらに飛躍させる。DJIは本製品を市場に展開することにより、自動航行による農薬散布で農作業の省力化を実現し、人手不足で悩む日本農業の課題解決に貢献することを目指す。

MG-1P RTKの特長、優位性

MG-1 P RTKは、現行販売のMG-1をさらに進化させた製品で、最新のRTK測位技術によるセンチメートルレベルの自動航行および農薬散布を可能にした農薬散布ドローンである(写真1)。

写真 1 MG-1P RTK

本製品の機体 に はDJIの高精度 D-RTKナ ビゲーション技術を搭載し、センチメートルレベルの3Dポジショニングを可能にしている。圃場測量も容易で、ベースステーションと片手で持てる移動局が連携し、一体型 RTKモジュールからの測量データを受信することにより正確な圃場の計測できる(写真2)。

写真 2 D-RTK 2 高精度 GNSS 移動局

正確な位置情報を把握することにより、薬剤が他の圃場へドリフトしてしまったり、障害物への接触事故が発生するリスクを軽減させることを目標としている。

本製品では、新たにデュアルアンテナとFPVカメラも搭載した。デュアルアンテナによって高精度ナビゲーションと電磁干渉に対する強力な耐性を実現し、機体が高圧電線の近くや複雑な環境下を飛行している時でも、機体の安全性が保たれる。

前方正面方向123°視野の広角 FPVカメラで撮影した映像は、送信機一体型ディスプレイに伝送することができる。ディスプレイに散布中の様子や障害物回避情報が表示されることで安全性を強化、映像から経路上の地点情報も記録できるので、作業の正確性だけでなく効率アップが期待できる。

また、本製品の専用送信機は大幅にアップデートされている。機体の制御範囲が最大1 .5 kmから3 kmに延びただけではなく、1つの送信機で最大5機まで自動航行で操作することができるようになった。

このアップデートより飛行の安全性向上とシングルパイロット操作で2倍以上の作業効率を実現している。さらに、本製品 はDJIの空撮用ドローンPHANTOMシリーズと連携した農薬散布が可能である。

PHANTOMシリーズでは、10分間に約20ヘクタールの圃場地図を撮影することができ、撮影したリアルタイムの圃場地図の画像から正確な散布地図を作成ができる(写真3)。

写真 3 Phamtom 圃場地図作成

散布地図をSDカードで本製品の送信機に連携すれば、散布地図データから飛行ルートを自動生成され、自動航行ができる。DJI製品の連携で作業をさらに効率的に行うことが可能である(写真4)。

写真 4 散布ルート作成

ユーザメリット(MG-1シリーズ、P RTKのいいところ)

もちろんMG-1 P RTKは現行発売 MG-1の特長も引き継いでいる。まず、MG-1シリーズの最大の特長は10分間の1フライト時間内で1 haの農薬散布ができることである(写真5)。

写真 5 農薬散布の様子

通常、農薬散布を行う乗用管理機を使用した場合、1 haの散布で大体60分前後かかるが、地上散布と比較すると作業時間を約1 /6の時間に短縮することができる。1人でも手軽に持ち運びできるコンパクトさもMG-1シリーズの魅力である(写真6)。

写真 6 MG-1 折りたたみ

アームを広げた時の機体サイズは1 ,500 mmだが、簡易にフレームアームを折りたため、780mmサイズに収納することができる。これは軽トラックの荷台に2台積載できるサイズで、機体重量は9 .8㎏となり、普通の成人男性ならば1人でも積み下ろしが可能であろう。

また、防塵防滴機能を備えているため、過酷な農作業現場での運用にも十分耐えることができ、メンテナンス性も非常に高い。さらに安定した飛行性能と高精度レーダなど、安全に飛行するための装置を備えていることもMG-1シリーズの特長である。

8台のロータを搭載したMG-1シリーズは、ドローンメーカDJI製品ならではの制御アルゴリズムを兼ね備えている。たとえ飛行中に一部のアームやモータが故障したとしても、落下せず、安全に着陸することで飛行の安全性は確保される。高精度レーダは360°の地形検知と障害物回避が可能にしている(写真7)。

写真 7 高精度レーダ

地形検知レーダにより正確な高度情報を取得できるので、作物から常に一定の高さを保ちながら均一散布することができる。

そして、万が一の事故を防ぐ障害物回避レーダを備えており、1センチメートル幅以上の送電線や木などの障害物を最大30 m先から検知し、衝突回避することができる。

MG-1は事故対策も万全である。上記のようにMG-1シリーズは高い安全性で初心者でも導入しやすい製品であるが、MG-1 P RTKは、より高精度の自動航行を実現しているので、より効率的かつ精密な農薬散布を可能とする製品である。

市場動向

日本の農業は農業従事者 の高齢化 や後継者不足による農業就業人口の減少という深刻な課題を抱えている。農業就業人口は1990年の500万人弱から200万人前後まで減少し、そのうち70歳以上の割合は半数ほどに達している。

人手不足問題を抱えている中、夏季の農薬散布は特に重労働である。農薬散布は長い時間と労力をかけて手作業で農薬を散布するか、産業用無人ヘリコプターによる農薬散布を請負業者に委託する必要があった。

手作業では時間も労力もかかり、産業用無人ヘリコプターは個人で購入するには価格が高く、請負散布では利益が上がる水稲の一斉散布が中心で、適宜散布や小規模圃場へのきめ細やかな空中散布には応えられていなかった。

そういった日本農業の課題に応えた製品が農薬散布ドローンMG-1である。MG-1は2017年3月発売以降、順調 に販売数を増やしている。2019年は新製品 MG-1 P RTKを加えて、さらに農業従事者の省力化を適えるために普及を目指している。

DJI JAPANのサポート体制

DJI JAPANでは販売後のサービスにも力を入れている。現状(2018年12月時点)の運用基準では、農薬散布ドローンの操縦には技能認定証が必要であり、(一社)農林水産航空協会が認定した教習施設で技能認定を受けることができる。

DJI JAPANの認定教習施設 は2018年10月時点 で全国70ヵ所以上に展開。MG-1シリーズの教習を日本全国で受講することが可能。

また、同協会が認定した整備事業所も、2018年10月時点で全国70ヵ所に展開しており、年1回義務付けられている定期点検や日々のメンテナンスを受けることができる体制が整っている。

MG-1シリーズの教習や整備は、DJI JAPANの指導を受けた全国の代理店がサポートしているので、ユーザは自宅から近い施設で品質の高いサービスを受けることができる。

全国に広がる代理店網、充実したサポート体制もDJI MG-1シリーズの強みである。また、DJI JAPANでは様々な活動を行っている。ユーザに対して安全研修会を行い、安全に農薬散布するための啓蒙を図っていることもその1つである。

実施内容は散布シーズン中のトラブル発生事例の共有やオペレータの技能向上を目指したものであり、より安全なドローン運用を推進していくものである。

農薬散布中の事故の原因はヒューマンエラーの割合が非常に高い。定期的に安全研修会を行うことが重要だと考えており、今後も続けていく予定である。今後も、さらなるサポート拡充と指導を行い、DJI JAPANはサービスを強化していくことを目指している。

今後のロードマップ

今、農薬散布ドローンに期待されている技術の1つに、自動航行技術がある。海外ではすでに自動航行技術を用いて作業を行っている現状もある。

農薬散布の負担を軽減できる自動航行を望む声も国内で日々強くなっており、DJI JAPANでは日本の農業に適用できるように日々検証試験を重ねて準備している。

また、本年発売を予定しているMG-1 P RTKの自動航行はマニュアル操作では難しかったセンチメートル単位の航行が可能であるため、さらなる精密農業への活用が期待される。

自動航行によって今まで困難だった作業をこなせるようになれば、農薬散布ドローンの事業領域はさらに広がる見込みである。たとえば人や車両の移動が困難だった斜面での散布作業などであるが、新しい技術を駆使して可能にできると考えている。

さらには、農業現場でのドローンの活躍シーンは、農薬散布だけにはとどまらない。生育調査や収量分析に至るまで様々な用途での利用が期待される。今後も新技術を用いたドローンでDJIは、日本の農業に貢献していく。

※スマート農業360 2019年冬号『特集:空から支える次世代農業​』より転載

Tips!
ご購入・オペレータ教習についてはAgrasMG-1製品ページ下部の指定教習施設にお問い合わせ下さい。
https://www.dji.com/jp/mg-1s

相談先
DJI JAPAN 株式会社
http://www.dji.com/jp

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