“平成 30 年 6 月農林水産省・鳥獣被害の現状と対策” によると、近年の被害額は 200 億円程度で推移している。これは、営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加を招いており、被害額としての数字に表れる以上に深刻な影響を及ぼしている。
一方、近年は人間と野生動物の距離が接近し、車両との衝突事故、人への危害、家庭の生ごみの餌化による住宅地域への出没など、生活環境への被害も増加してきており、鳥獣害は次のステージに入ろうとしている。1)
はじめに
猿、イノシシ、鹿・・・僕たちは命がけで生き延びてきた。人間が野放しにしてくれたおかげで、仲間が増えすぎた。里山に降りるとおいしい野菜や果物、お米がいっぱい。美味しいから食べていると人間から追い掛けられ、石を投げられ、音で脅かされるけど、しばらく森に隠れていると人がいなくなるので、また出てゆきパクパク食べる。俺たち猿は、天気のいい日は気持ちよく日向ぼっこ。
豆の収穫の頃や柿が実るときは、たらふく食べる。米もつまんでいる。食べているのが見つかると怒られるので逃げるけど、人が消えればまた食べる。俺たちは人を監視している。昔は、ドジな奴が罠にかかってたが、近頃はもっと危ない。大きな罠で群れごと一網打尽にされる。人間がいないからといって安心できない。どうも遠くから罠に入っている俺たちを監視しているようだ。
⬆アニマルウオッチャーによる猿検知画像
俺たちイノシシは家族で暮らしている。数ヵ所のねぐらをもっていて、そこをぐるぐる移動している。メスは 5~6 匹くらい子供を産んで 2~3匹ぐらいは大きく育つ。すぐに倍々で増える。
馬鈴薯は大好物だ。馬鈴薯があれば家族でたらふく食べるし、田んぼに稲穂がおいしく実るころには中に入って暴れまわる。臭い体がきれいになって気持ちがいい。近頃、何やら白いものがあちこちに立った。アニマルウオッチャーとか言っている。
それに近づくと、大きな音がして、ぴかぴか光る。昼も夜もだ。うるさくてしょうがない。そして、しばらくすると人間が現れるので急いで逃げる。どうなっているんだ? 何時頃、何処に現れるかまでバレてるのか?
⬆一網打尽型大型罠
カメラやセンサで捉えている数を把握、スマホで扉を落とす 2、3) 。
⬆イノシシに侵入された水田(塩尻市)
家族の 3 匹が順番にくくり罠にかかってしまった。これはやばい。ここはどうも危ない。皆で別の場所に移ろう。今年は、この田んぼと畑の周りで暮らそうと移動してきた。しばらくすると、おいしいものが何時も同じところに置いてある。
これをうっかり食べてはいけないとは知りつつ、でも、何時も置いてあるので、我慢できず家族で食べ始めたが何も起こらない。翌日も美味しいものがある。また、家族でごちそうになる。また翌日も・・・。 数日後、大音響とともに柵が落ちて家族全員、外に出られない。
⬆トレールカメラ検知画像(塩尻市)
右:すでに、くくり罠にかかっている。
⬆大型の罠にかかったイノシシ 4)
共存か
猿の行動は人間と同じと考えてよい。音や光にすぐに慣れるので対策が難しいが、共存を考えるのであれば、テレメトリーなどで群れの位置を把握していれば、事前の対策に役立つ。 イノシシの場合は繁殖力が旺盛である。
共存を目指すのは難しいが、適正生息数を把握し、相当数の捕獲を常時行うことができれば可能である。追い払いや被害防御対策に手を抜くことはできない。うっかりするとパンデミック状態になり、毎年数千匹捕殺しても減らない状態になる。
イノシシは初期対策がすべて
10 年前から多くの集落で話を伺ってきたが、イノシシを見かけるようになったという話が出ても、すぐに追い払いや捕獲をしようとしない。捕殺するには猟友会や免許のある人しかできないという事情もあるが、早期に追い払いや捕殺を行うと、その後の繁殖を弱め被害を防ぐことができる。
対策が遅れると、気が付かないうちに繁殖し、農作物に被害を及ぼすようになる。電気柵などで被害を防ぐことになるが、維持のための下草刈りに労力がかかるため長続きしづらい。増えてからの対策はイタチごっことなり、捕殺以外の方法はなく、市町村の駆除費用が増大してゆく。
アニマルウオッチャーによる対策
1) イノシシや野生動物を焦電型赤外線センサで検知し、光と音で威嚇する
⬆アニマルウオッチャー(三条市)
猿やシカは慣れてしまい効き目が持続しないが、イノシシは非常に憶病なため効果があると思われる。また、アニマルウオッチャーは検知場所と写真が PCやスマートフォンに送られ、人が追い払いにくるため、イノシシが嫌がり近寄らなくなるようだ。また、他社の光と音による追い払い装置も効果が出ている。木の揺れや、急激な光の変化で誤検知し、不規則に光と音を発するがこれも威嚇効果がある。
2)何が、何時、何処から現れるかを知る
朝起きたら馬鈴薯畑がイノシシにすっかり食べられていた、クヤシー!昨日まできれいだった水田にイノシシが入り込んだ、コメの収入が消えた! そこで、何時ごろイノシシがきたのですか? どこ方向からくるのですか?と聞いても明快な答えはない。
そこで、アニマルウオッチャーやトレールカメラを複数設置し、何処に何時ころ何が出ているのかを調べる。イノシシは夜の行動が多いのと、小さな物音にも反応し瞬時に逃げるため、写真には非常に映りづらいが、検知情報を通知するので場所が特定でき、場所と時刻がある程度予測できるようになる。
3)捕獲をする
アニマルウオッチャーを用いることで場所や時刻が特定できるため、その導線にくくり罠や箱罠を設置する。イノシシは複数の居場所をぐるぐる回っているので、一周してくるころに掛かるといわれている。 塩尻市北小野地区の例では、3 匹の捕獲で危険を察知し、その群れは去り被害がなくなった。但し、パンデミック状態(年間大量に捕殺しても生息数が減らない)の場所での実証はまだ行っていないため、効果のほどはわからない。
4)檻や罠で捕獲したら即刻通報する
檻や罠に、捕獲したことを検知し、携帯電話やスマートフォンに知らせるセンサを取り付ける。見回りの負担を軽減でき、捕獲時には早期の処置が可能となる。「メールでハンター」などいくつかの装置が販売されている 5) 。
5)一網打尽の大型罠の捕獲
上記に記した一網打尽も有効。
アニマルウオッチャーの主な特長
アニマルウオッチャーの主な特長は次のとおりである。また、図 1 にアニマルウオッチャーの概要を、図 2 に設置例を示す。
● 人感センサが動物をとらえ、写真 3 枚と位置情報をスマートフォンや PCに通報
● 赤外線対応カメラにより夜間も撮影可能(モノクロ)
●音とLED 光による追払い
● マルチホップ通信で複数のアニマルウォッチャーをネットワーク化し広範囲をカバー
● アニマルウォッチャーは可搬型で GPSを内蔵しいるので、任意の場所に設置可能
● 動物出没データをクラウドシステムに蓄積し、出没予測に活用
● アニマルウオッチャー設置台数は地形や圃場の状況にもよるが、10haあたり5台から7台程度
図 1 鳥獣対策監視システム「アニマルウオッチャー」
図 2 設置例
⬆送信される画像
弊社の取り組み
平成 20 年、塩尻市北小野地区のイノシシによる農作物被害対策のため、弊社が中心となり、市内の IT 企業や北小野地区の方々と「IT-アグリ研究会」をボランティア団体として発足し獣害対策の研究を開始。平成 24 年度、総務省 ICT 街づくり事業に採択され、開発した獣検知センサと捕獲検知センサを設置し、イノシシによる農作物被害の軽減に成功(図 3)。
図 3 成功事例(長野県塩尻市)【鳥獣被害対策】
平成 25 年度は、福島県とともに、汚染された複数のイノシシに GPS、線量計、データロガーを取付け 15 分ごとのイノシシの位置とその場所の線量を受信し、イノシシの日常の行動の把握に成功し、その後の対策のための貴重なデータを得ることができた(図 4)。
図 4
鳥獣対策監視システム・アニマルウオッチャー設置場所
【塩尻市北小野地区】
初期アニマルウオッチャー、捕獲時メール通報機能付の箱罠とくくり罠設置。イノシシ被害がゼロに。
【恵那市岩田地区】
アニマルウオッチャーによる猿の監視、捕獲時メール通報機能付き箱罠を設置。猿の一斉捕獲により被害をなくす。イノシシの出没がなくなったとの報告。
【恵那市栗園】
カモシカと鹿の監視と追い払いを実施し被害を食い止めている。
【三条市北五百川地区】
猿の監視を実施
参考資料
1) http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/
2) http://t-takemori.jp/pages/product_monkey.html
3) http://www.tokyotobari.co.jp/product/?id=
4) https://www.youtube.com/watch?v=2iBsMp4GT6g
5) http://www.fando.co.jp/maildehunter.htm
◎価格
Tips
鳥獣対策監視システム・アニマルウオッチャーの販売・設置・保守と、鳥獣被害対策のコンサルティングや、鳥獣被害対策ICT 機器の紹介を行っています。下記相談先から、ご気軽にご連絡ください。
◆相談先
日本ソフトウェアエンジニアリング株式会社
E-mai:ikko@nse-tokyo.co.jp
URL:http://www.nse-tokyo.co.jp/
IT-アグリ研究会ホームページ:https://sites.google.com/site/sipitagri/
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