はじめに
複数の小規模ハウスから近年の大規模ハウスまで、日本のさまざまな農業用ハウスに対応できる環境制御システム「エアロビート」を2018年4月1日より販売している。
1台で複数のハウスを管理できる機能が特徴で、これまで「建ち並ぶハウスにそれぞれシステムを導入しなければならなかった」「奥行きが長いハウス内を2区画にしたいが、対応するシステムがなかった」「大面積に対応するには高額なシステムが必要だった」などの理由で導入を見送っていた方々にお勧めできるシステムである(図1)。
開発の経緯
当社は農業用施設の設計・製造・施工から農業用資材の販売、環境制御・栽培システムの開発・施工まで行う農業総合支援企業である。1990年代から海外製の環境制御システムも販売し、その後も国内外のシステムを扱いながら環境制御技術を研究してきた。
特に、近年ではオランダ製の環境制御システムを日本国内の大規模・先進的ハウスに導入してきた。オランダ製システムは設定の自由度が高く、10 ha以上の超大規模面積にも対応するほか、1システムで環境だけでなく潅水やボイラの管理もでき、最新のセンサや制御方法を開発・リリースし続けているという特徴がある。
一方、オランダ製システムは高額であるため日本の中小規模ハウスではスケールメリットが得られず、設定の自由度が高いがために操作が複雑で、習得するまで多くの時間を要する。
多くの日本型ハウスにはオランダ製システムは合わず、小型でシンプルかつ安価なシステムが必要であると考え、独自の環境制御システムの開発を開始した。
このシステム「エアロビート」は、これまで培ってきた自社設計ハウスの特徴や環境制御システム導入の経験、生産者の声を踏まえ、次項で説明する3つの特徴「多区画に対応」、「潅水も計測制御」、「シンプルで扱いやすい」をコンセプトに開発した。
「エアロビート」の特徴・メリット
1)多区画に対応
1台の本体とコンピュータで最大10区画まで対応できる。たとえば、ハウス10棟を固まって所持している場合でも、10棟すべてを1台のコンピュータで個別に管理することができる。また、1棟10haの大規模ハウスであっても、1haごとに区画を分割して個別に管理することができる(図2、3)。
この機能により、複数のハウスを回ってそれぞれのシステムを操作する必要がなくなり、管理の手間を省ける。また、管理する区画ごとにシステム本体と管理用のパソコンを設置する必要がないため、区画が多くなるほどスケールメリットが得られる。
導入実績として、1件あたりの平均使用区画数は3 .6区画である。中には1台の本体で10区画制御している例もある。この数字からも分かるとおり、日本の生産者は複数ハウスを所持しており、まとめて管理したいという需要があるといえる。
「システムを複数台導入しなければならいために導入を見送っていた」「現在管理しているハウスの隣にハウスを増設したいが、エアロビートであればハウス増設にも対応できるため導入を決めた」などの声が届いている。
2)潅水も計測制御
エアロビートは潅水制御機能も備えているため、外部入力を備えた他社の潅水制御盤と連携して日射比例潅水ができる。当社商品の潅水制御盤「アクアビート」や培地重量センサ「スラブサイト」と連携すれば、潅水量・排液量・培地重量の地下部環境の見える化もできる。
これにより、日射量や飽差などの環境条件と潅水結果を比較し、考察できる。「これまで経験や感覚で行っていた潅水がデータに基づいてできるようになった」との意見もある。
また、アクアビートのパソコン連動オプションを利用すれば、潅水量や肥料混入量などの潅水設定ができるようになる。急な天候の変化でも圃場まで駆け付ける必要がなくなり、遠隔地からすぐに天候に合わせた設定に変更できる(図4)。
3)シンプルで扱いやすい
環境制御システムを初めて扱う方でも簡単に操作できるように、設定項目は必要な物だけを選定しシンプルでわかりやすいようデザインした。
実際に、オランダ製環境制御システムでは技術習得までに半年から1年程度の時間を要していたが、エアロビートは、ほとんどの生産者が数週間である程度習得できている。
また、パソコンやスマートフォンから遠隔制御ができるため、外出先から監視・設定変更を実行できる。多区画・潅水制御の特徴により、「複数のパソコンに何度も接続」「潅水は圃場でしか変更できない」といった不便さも解消できる。
毎日圃場まで行って設定の確認や変更をする必要がなくなり、「急用や長期の外出があっても遠隔地から対応できるので、安心して外出できるようになった」との声が届いている。
市場の動向と対応
近年、スマート農業への注目度が高まるとともに高い技術をもった企業が次々と参入し、環境制御システムが市場にあふれ、生産者の選択肢が増えている。
ただ、温度や湿度、CO2 の環境制御を行うシステムは多くあるが、潅水にも対応するシステムはまだ少ないのが実情である。当社は、ハウス内の環境(地上部)と潅水(地下部)を1つのシステムで管理することが環境制御だと考えている。
そこで、「エアロビート」の潅水機能をより強化する予定である。たとえば、土壌水分を計測できるセンサや、培地重量センサ「スラブサイト」に排液情報を取得できるようなオプション、培地重量に応じて適切な潅水を自動で行う機能の開発などを進めている。
「エアロビート」については、他社のシステムと連携できるように、ユビキタス環境制御システム「UECS」の通信規格をベースに情報を発信している。当社としては情報を公開するので多くの企業と連携していきたい。
今後のロードマップ
前項のとおり、土壌情報を取得するセンサの開発や培地重量センサ「スラブサイト」のさらなる計測・制御機能の強化だけでなく、使用いただいている生産者からの声を取り入れながら、「エアロビート」のさらなる機能向上を目指して開発を続けている。
たとえば、ハウス内の保温カーテンを制御する機能を充実させ、さまざまな地域や作物に対応できるようにする予定である。また、当社が自社設計し販売する低コスト耐候性ハウス「ドリームフィールド」と一体となった使用方法の検討も行っている。
机上の理論だけによる環境制御の開発ではなく、当社の強みであるハウス設計・開発部門との連携により、構造や環境特性、内部設備と一体となった使用方法を確立し、“オールインワンパッケージ”で最適な環境を生み出すハウスを安価に提供できることを目指している。
※スマート農業360 2019年春号『特集:ハウス環境を整え収量アップ!』より転載
◉価格 ※ 調整費、工事費別途
・1 台のコンピュータで1棟を 2 区画に分けて管理
約¥2,500,000 円(税抜き)
・1 台のコンピュータで3 棟を個別に管理
約¥3,600,000 円(税抜き)
注目ポイント !
潅水制御盤「アクアビート」がパソコン連動に対応しました。「エアロビート」との連携はもちろん、「アクアビート」単体でもパソコンからの設定に対応しています。すでに「アクアビート」をご使用の方もアップグレード可能ですのでお気軽にご連絡ください。
◆相談先
イノチオアグリ株式会社
TEL:0531-36-2011
E-mail:info-agri@inochio.co.jp
https://www.ishiguro.co.jp/
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