NECソリューションイノベータ株式会社では、確かな経営判断においてなくてはならない生産原価を見える化する「NEC 生産原価データ活用サービス」を提供している。
本インタビューでは、同サービスの開発チームの1人であるスマートアグリ事業推進本部の中浦秀晃氏に開発の経緯、サービスの特長など活用事例を含めてお話を伺った。
開発の経緯
「NEC 生産原価データ活用サービス」はどのような経緯でスタートしたのですか?
われわれが「NEC 生産原価データ活用サービス」(以下、本サービス)を作ろうと思ったのは、5年ほど前に遡ります。
当時からICTを活用した環境センシングなどのソリューションはあったのですが、実際にそれらを生産現場に導入しても、いくら儲かるのかといったところが不確かでした。たしかにハウス内の環境データが手元でわかるのは便利です。
しかし、儲かるモデルにするにはどうすればよいのかといったことを問われることが多かったです。
日本の農業は、これまで培ってきたノウハウから栽培は得意でしたが、それをどう原価把握していくらで売れば儲かるのか、といったところが多くの農家では把握できていませんでした。
いわゆるどんぶり勘定の農業が多かったのです。そこで、サービスを構築するにあたって、私どもは多くの農業生産法人をまわってヒアリングをしました。そこでわかったのは、生産者のニーズが多様だということです。
原価を知りたい、何を作れば儲かるのか、丹精込めて作った農作物をどうやったらバイヤーの方に認めてもらえるのかといったさまざまな課題を抱えていました。
一方、流通事業者やリテールの方々にお話を聞くと、良い物を仕入れたい、もっと産地のことを知りたい、という思いをもっていました。
そこで、農業をICT化しサプライチェーンとして繋げるためには、生産現場と流通とのデータの共有が必要であり、それによって農作物に付加価値をつけていかなければいけないと思い、本サービスを立ち上げたのです。
「NEC 生産原価データ活用サービス」について
「NEC 生産原価データ活用サービス」とはどのようなサービスですか?
本サービスは、日々の人件費や使用した資材などの作業実績を記録することで、作物単位の生産原価を見える化するサービスです。
あまり利益につながらないといった農家の話をよく聞くのですが、これは原価管理が把握できていないことが多いのです。
作物ごとにかかっている生産原価を見える化することで、儲かる農業へと改善することができると私どもは思っています。
また、先ほど述べたように生産者にはさまざまニーズがあります。それらに応えるため、本サービスではさまざまな機能が使えます。
生産原価を見える化するために入力したデータを次の一歩へと活用するという意味を込めて「生産原価データ活用サービス」というサービス名になっています。少し言いづらいですけど(笑)。
機能としては、「栽培計画」「在庫管理」「作業管理」「収穫管理」「棚卸管理」「出荷管理」があります。まずマスタ登録し、年間計画や栽培計画を作っていきます。
そのなかで、予定収量と計画売価より予定売上高を自動で計算します。それに基づいて実績をだしていくのですが、作業実績はスマートフォンを使って入力します。
誰が、どの作物に対して、どのような作業を、何時間したのか、そのときにどんな資材や肥料を使ったのかといった記録を付けていくのです。
図1の上部は本サービスの一覧になります。図の下部は、一般的な利益の算出方法を示したもので、人件費と材料費、機材購入費などの経費を原価とし、売上から原価を引いた金額が利益となります。
この生産原価の部分をしっかり見える化することで、どれだけの利益が得られるかが見えてきます。基本機能のみの利用は初期登録費のみで、月額は5ユーザまでは無償で提供しています。(2019年6月現在)。
そのほかは、オプション契約で利用できようなります。
オプションにはどのようなものがあるのですか?
オプションのひとつとして、営農のコミュニケーション機能があります。これは、農家さん同士や指導員の方とコミュニケーションが取れる機能です。
よくコミュニケーションツールとしてSNSを使用されている方がいます。しかし、通常のSNSは過去の情報を蓄積したり検索する機能が十分ではありません。
私どものツールでは、昨年の今頃なにをどうしていたかなど、さまざまな切り口から検索して必要な情報をすぐに見つけることができます。そのため、新規就農者やパートの方などもこれらの情報を活用することができます。
また、産地情報を公開する機能といったものもあります。これは、流通業者の方からの要望でできた機能で、本サービスで登録した作業記録を取引先のバイヤーやレストランの方、消費者に公開できる機能です。
たとえば、台風や悪天候が続いた際、バイヤーさんは契約栽培の農作物が予定通り出荷できるのか不安になります。
しかし、作業記録が公開されていればバイヤーさんにとっても安心できますし、また消費者にとっても、栽培のトレーサビリティが公開されていることで、安心して購入することができます。
この産地情報の公開機能のサンプルは下記のQRコードから見ることができます。出荷した作物の箱などにこのようなQRコードを貼っておくことで、その農作物がどのように作られたのかといった情報を見ることができます。
そのほかに、オプション契約としてサービスへ入力データを多面的にグラフで分析するサービスもあります。たとえば、図2は、作物ごと、工程ごとの経費の内訳がわかるようグラフ化されています。また、登録したデータをExcelに出力して帳票として活用することもできます。
分析サービスによって出てきた結果から、御社でコンサルティングなどされるのですか?
農場の規模ですとか、地域、作物によって異なるので一概には言えませんが、データを自身で分析してどんどん改善を進める方もいれば、データを活用しきれていない方もいます。そのため、私どもも経営者と一緒になって考え、改善のためのさまざまな提案をしています。
活用事例
サービス利用者からはどんな声がありますか?
最も多いのは、農作物ごと作業ごとの労働時間が把握できるようになったという声です。ある生産者の方は、一生懸命やっている従業員の作業内容をしっかり把握し可視化することで、正当な評価をすることができるようになったと仰っていました。
また、同じ農作物でも季節によって労働時間がどれだけ違うのかがわかるようになったという声もあります。
実際にどのような事例がありますか?
地域を巻き込んだ自治体での取り組みのほか、さまざまな生産者の経営体系にあわせたサービス提供を行っています。大分県さんと一緒に取り組んだ事例として、「スマート農業推進事業」という取り組みを3年間一緒に行いました。
大分県で経営指導している普及員の方々と生産者に活用していただき、営農情報のデータ化を行い活用しようといった取り組みです。また、宮崎県綾町にある福冨農産でも活用いただいています。
福冨農産では、農業を「かっこいい、楽しい、稼げる」イメージに変革しようと企業的農業経営モデルを目指した取り組みをされています。
生産者にとって販路開拓は課題の1つですが、そのためのPRが生産者にとっては難しい。そこをICTを使って作物に付加価値をつけていこうと取り組まれているのです。
福冨農産の取り組みは動画でも公開しているので、ぜひご覧になってみてください。そのほかに、株式会社鳥越ネットワーク様(福岡県赤村)でも活用いただいております。
有機生産者のネットワークを組んで幅広く事業を進めていく中で、いかに作業を効率化して経営改善を進めていくかが課題でした。
本サービスを導入し従業員や農作物、工程ごとなどの作業時間やかかっているコストなどを見える化することで日々、従業員参加型での農作業の改善活動に取り組まれています。
経費やコスト削減の明確な削減数値は出ているのですか?
本サービスを開始したのが2016年でしたので、少しずつデータが蓄積されはじめ、これからどんどん具体的な数字が見えてくると思います。
今後の取り組みについて
現在のサービスは、主に中小規模の農業生産法人をターゲットに開発しましたが、最近は企業参入による大規模農業経営も増えてきています。時期は未定ですが、今後はより大規模な農業法人にも対応できる機能を強化していきたいと思っています。
―ありがとうございました。
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