日本の農業は生産者の高齢化が急速に進行しており、少ない人で大規模営農を行う「省力化」と、新規就農者の育成を加速させるための栽培ノウハウの「形式知化」は日本の農業において大きな課題である。
このような課題解決のため、ベジタリアでは、営農支援システム「アグリノート」、 圃場の水位・水温を把握できる水田センサ「PaddyWatch」、農作物の病害虫・雑草のコンサルティングおよび土壌診断サービスを行う「植物病院」事業を行っている。本稿では、これらの取り組みについて紹介する。
営農支援システム「アグリノート」
1)開発経緯
営農支援システム「アグリノート」は、農業生産者の声がきっかけで開発が始まった。 高齢化とともに生産者が減っていく一方で、やる気のある生産者は管理する農地を広げて、大規模化を目指していく。
そうした中で、ある生産者が自身の管理する農地の大規模化に伴い、農地の管理や生産情報の共有ツールを探していたが、2010 年当時、電子地図が利用でき、操作も簡単で、低価格のシステムは存在していなかった。そこで、その農業生産者と二人三脚で開発を行ったのがきっかけである。
2)「アグリノート」の特長、優位性
アグリノートの特長として、航空写真マップを使った視覚的な圃場管理が挙げられる。これにより、圃場がどこにあるのか、その圃場での作付は何かを一目で把握することができる(図 1)。
さらに、地図上の圃場に対して、日々の作業記録を入力することで、作業はどこまで進んだのか、施肥を行ったのかどうか、防除はどの農薬を何回使用したのかを圃場単位で把握し、マップ上に可視化できる。
また、草丈や葉色等の生育記録や収穫記録も入力することができ、作業記録と併せて記録することで、どのような作業を行ったら、どのように生長し、どのような品質・収量だったのかを振り返ることができるようになっている。
さらに、農薬・肥料等の資材の単価や、出荷時の売上単価を設定することで、作付や圃場ごとの収支の計算もできるようになっている。 さらに特筆すべき機能として、自動記録支援機能がある。
これまで作業記録の作成は、手入力によって行われたが、この機能は、スマートフォンやタブレットの GPS 情報を活用することで、その日、その作業者の作業場所、作業時間、作業項目を作業記録の下書きとして自動で作成してしまう機能である。
スマートフォンを持っているだけで、作業日報の下書きが自動で作成されるため、作業者は、作成された作業記録を確認するだけであり、記録付けの労務を大幅に軽減することができる。これにより、作業データを集めやすくなり、作業進捗・生産コストの可視化に大きく貢献している。
そのほか、圃場区画に捕らわれず、メモを登録できる「立て看板」機能も提供している(図2)。看板として利用できるアイコンは、451 種類を用意。これにより、GAP(生産工程管理)取得支援につながっている。
3)今後のロードマップ
営農支援システム「アグリノート」は、日々の農業生産記録から振り返りを行い、次の戦略・計画を立てて実行する、いわゆる PDCAサイクルを回すことにより、より良い農業経営を支援するためのツールである。これまで提供してきた機能に留まらず、農業生産を行う上で必要なデータの取得・連携を進めている。
具体的には、圃場の大気中の温度や湿度等を計測する農業環境センサとの連携や農機情報との連携、ドローンや人工衛星による画像診断サービス、土壌診断サービスとも連携を予定しており、今後順次連携サービスを提供していく。それにより、さらなる農業生産情報の形式知化を進め、農業生産の見える化・改善に貢献していく。
水田センサ「PaddyWatch」
1)開発経緯
稲作経営において、大規模水田における作業をいかにして省力化を実現し、また新規就農者への教育や定着を図る上で作業の効率化が大きな課題となっている。稲作作業における「労働費」は生産コストの30 %を占める最大の費目であり、その中でも25%は日々の水の見回りに費やされていると言われている。
何百枚もの水田を抱える大規模生産法人では、毎朝複数の担当者が数時間を費やして見回りを行ったり、水田の見回りのためにパートを雇用したりするなど、大きなコストを費やしているのが現状である。 そこで、圃場の水位・水温を遠隔から確認できる水田センサ「PaddyWatch」の開発を行った(図3)。
2)水田センサ「PaddyWatch」の特長、優位性
PaddyWatchは水田の水位・水温を計測し、そのデータをモバイル通信によってクラウド上に蓄積することによって、スマートフォンやタブレットから専用アプリを用いていつでもどこでも水田の情報を閲覧できるサービスである。水位の測定にはミリ単位で計測が可能な高精度センサを使用している。
また、データ量を抑えることで通信コストを削減した省電力設計のため、乾電池でも約1 年間の利用が可能である。電源が不要であるため、どの圃場でも利用可能である。
3)「PaddyWatch」を用いた事例
PaddyWatchによる作業負荷軽減を実証するために、生産者の中から複数の重点モニターを選抜し、PaddyWatchの利用による水回りの実施について定量的な評価を実施した(図 4)。
その結果、全圃場に PaddyWatchを導入した生産者では、導入により水田の見回り回数、所要時間が最大 70%削減できたことが明らかとなった(図 5、6)。
特に利用効果の高かった生産者に PaddyWatchの利点についてインタビューすると、「普段は兼業で働きに出ているので、スマートフォンを見ながら両親に水の出し入れのお願いができた」「水を入れても日によって水の出る量が違うので何度も見に行かなくて済んでよかった」などの具体的な活用シーンが抽出でき、PaddyWatchが実際の圃場において有効であることが検証できている。
PaddyWatchで計測した水位・水温のデータは、クラウドサーバ上に蓄積されているため、後から経時的に振り返ることも可能であり、生産者は自らの水管理の履歴を「見える化」することができる。
さらに、PaddyWatchは営農支援システム「アグリノート」とも連携しており、アグリノート上の生産作業情報とともに振り返ることで、理想的な水管理に対して自身の水田が適した状態にあるのかを比較することも可能である。
つまり、新120規就農者であっても地域の指導員や優秀な生産者から指導された水管理のテンプレートに沿ってPaddyWatchを使うことで、理想的な水管理を実現することができるようになり、匠の知識・経験の「形式知化」を実現している。
4)今後のロードマップなど
水田センサ「PaddyWatch」導入における障壁を減らすために、秋田県において低価格化に向けた実証を行っている。具体的には、LPWA(Low Power, Wide Area)と呼ばれる IoT 向けの通信技術を導入した PaddyWatchを開発中であり、導入・ランニングコストを大幅に削減したサービスを今後、提供予定である。
ベジタリア植物病院
1)開発経緯
私たちが日々よく食べているキャベツやハクサイ、小松菜などはアブラナ科に属する作物である。このアブラナ科の野菜は「根こぶ病」という土壌病害に感染すると収穫量が大きく減ってしまう。
根こぶ病の病原菌は土の中で長い年月潜んでおり、そこに植えられたアブラナ科の野菜に感染し、その根をこぶ状に肥大化させ、根からの養水分を減少させてしまうことで収穫量の減少を引き起こしている。
これまで、農業生産者の多くは、土の中に病原菌がいるのかどうかを把握せずに、保険のように農薬を使うことで根こぶ病に感染しないよう対策を取ってきた。しかし、もし野菜を栽培する前に土の中に菌がいるかどうかを迅速かつ高精度で知ることができれば、より適切な防除を行うことができ、人件費や農薬コストの低減につなげられるはずである。
2)ベジタリア植物病院の特長、優位性
ベジタリア植物病院では、根こぶ病の病原菌密度を測定するサービスを提供している(図7)。
「LAMP 法」とよばれる病原菌の遺伝子検査を行うことで、従来法の 10 倍以上の検出精度で、迅速かつ低コストで検査することを可能にしている。さらに、この菌密度と土壌 pH、前作の発病状況などのデータから植物医師が総合的に判断し、具体的な対策を提案するサービスを提供している。
3)ベジタリア植物病院を活用した事例
たとえば、病原菌が「要防除水準」以下の場合は、耕種的な防除や土壌 pH 改善などによって農薬の使用要否や薬量を低減できるため、生産者の手間や農薬の経費等のコストを削減することができる。実際に生産者から送られてきた土壌の菌密度を測定してみると、農薬使用コストが 40~60%程度削減可能な事例が多く見られた(図 8)。
4)今後のロードマップなど
今後、どの程度の菌が土にいると危ないのか、どの程度の菌密度であれば農薬を使わなくてもよいのか、逆に、多く薬剤を使用すべきかをより高精度に判断できるようになる。汚染マップの作成や汚染の履歴などビックデータ化することで主な感染圃場の封じ込めやおとり植物による防除など農薬だけに頼らない多彩な防除方法の適正化が可能になると思われる。
◎価格
注目ポイント !
営農支援システム「アグリノート」、水田センサ「PaddyWatch」、農作物の病害虫・雑草のコンサルティングおよび、土壌診断サービス「植物病院」と農業生産者の ICT化・データ化を様々な角度からサポート。ぜひお試しください。
◆相談先
ベジタリア株式会社
E-mail:info@vegetalia.co.jp
URL:http://www.vegetalia.co.jp/
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